第540回常任理事会(議長 豊田会長)/1月9日

阪神・淡路大震災の被災地の現状と復興に向けての課題


第540回常任理事会では、兵庫県の貝原俊民知事より、阪神・淡路大震災の被災地の現状と復興に向けた今後の課題などについて話を聞いた。
貝原知事は、「阪神・淡路地域は本格的な復興に向かう移行期にあるが、大きく構造変化を遂げているわが国のパイロットとしての役割を果たすよう努力していきたい。それは、自由な民間活動が群生するような、いわば熱帯雨林型の産業構造をめざすかたちにしたい」と発言した。以下はその概要である。

  1. 被災地の現状
  2. 阪神・淡路大震災から、まもなく1年が経過しようとしている。48,300戸の応急仮設住宅が予定通り建設され、既に入居者のうち約1,000世帯が住宅の手当がつき退去した。がれき処理についても、公費負担が実現したことから急ピッチに進み既に約90%が撤去された。したがって被災地は空地が目立つ状況にあるが、跡地の区画整理・再開発についても12月末時点で3地区において地権者間の合意が成立している。

    鉄道は全面復旧したが、高速道路については阪神高速道路・神戸線が復旧しておらず、夏の甲子園大会までに復旧させたいという希望はあるものの全線開通は10月になる見込みである。

    経済動向については、鉱工業生産や乗用車販売台数が昨年の水準を上回り、神戸港輸出入額も前年水準の80〜85%まで回復している。有効求人倍率は上昇に転じているが、求職と求人の間に職種面でのミスマッチが生じている。経済活動は全般的には回復傾向にあり、現在は本格的な復興に向かう移行期にあると位置づけられるが、山積する諸問題は少なくない。

  3. 住宅復興
  4. 阪神・淡路大震災は、高齢社会の下で発生した都市型災害である。高齢者にとっては自己資金での住宅復興は困難であり、福祉サービスとの密接な関係で生活が成り立っているという点も考慮して物理的な住宅のみではなく、安心して生活できる福祉環境を備えた「住まい」を提供しなければならない。

    この大震災にあたって全国から多額の義援金が寄せられた。しかし、一被災世帯あたりの義援金を普賢岳や奥尻島のケース(約2000万円)と比べると、極端に少額となり(約38万円)、義援金を住宅復興の財源とすることは不可能に近い。そこで県では、今後こうした事態に対応するための地震保険制度として、新たな共済制度を創設することを提案することにした。全国の全世帯を対象とし、自動車と同様強制保険を考えているが、一般国民の理解が得られるかが大きな問題となろう。

    この保険制度が実現したとしても阪神・淡路大震災に遡及して適用されることは困難であろうが、仮設住宅は2年間で取り壊さなければならないことから、既に地元で創設した基金(6000億円)とともに新しい保険制度の資金も活用させていただき、被災者に対して低廉な家賃の公営住宅を大量に提供できればと考えている。

  5. 産業復興
  6. 阪神・淡路地域はこれまで神戸港を中心とした物流拠点として発展してきた。しかし、国際交流の中心は物流とともに人流や情報の流通に移りつつある。阪神・淡路地域では、今後、関西国際空港や明石海峡大橋、山陽自動車道等の陸・海・空にわたる総合交通体系の整備が進むことから、21世紀にむけて内外に開かれた地域として発展させていきたい。

    具体的には、阪神・淡路復興委員会の提言に基づき上海・長江交易プロジェクトを推進したい。内陸部の開発に課題を抱える中国と大震災の復興に取り組む阪神・淡路地域が、交易の活発化を通じて相互に活性化されることを期待している。

    また、種々の規制緩和や法人関係諸税の減免を認める「エンタープライズゾーン」の創設も実現したい。WHO神戸センターやJICA国際センターなど既に立地が決定している施設も活用しながら、公海と領海の中間に位置するようなゾーンを設け、内外の人々、企業が自由に活動できるようにし、被災地の産業復興を実現するというのがその目的である。

    阪神・淡路地域は大きく構造変化を遂げているわが国のパイロットとしての役割を果たすよう努力していきたいと思う。今年度の二次補正予算で予算措置が講じられ昨年末に発足した「(財)阪神・淡路産業復興推進機構」は、公的な資金と民間の知恵により、産業復興を推進しようとする組織であるが、ここで産業復興の新しい枠組みづくりを進めていきたい。産業復興は行政と民間が一体となって進めていく必要があるが、人工的に単一の作物を栽培するプランテーション型ではなく、自由な民間活動が群生する熱帯雨林型が理想的であると考えている。経団連にも協力願いたい。


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