農政問題委員会(委員長 伊藤助成氏)/1月16日

前向きの農林水産行政の確立を
―大原農林水産大臣との懇談会を開催


WTO協定の締結以降、内外の諸情勢の変化に対応し、わが国農業・農政の再構築が求められている。政府では、昨年11月の新食糧法施行、12月の「農産物の需要及び生産の長期見通し」の公表と併せて、1961年に制定された農業基本法の見直し作業を進めている。そこで、橋本内閣の発足に伴い、新たに農政の舵取りを行うこととなった大原一三農林水産大臣はじめ農林水産省幹部を招き、今後の農業・農政のあり方につき意見交換を行なった。

  1. 豊田経団連会長挨拶要旨
  2. わが国を覆っている閉塞感を打開し、魅力ある国にしていくためには、政治、行政、経済の構造改革を推し進めていく必要があり、農業・農政もその例外ではない。
    農業基本法の見直しに当たっては、その政策目標、政策手段を抜本的に見直し、未来志向型の新たな政策体系を打ち出すことが必要である。

  3. 大原農林水産大臣挨拶要旨
  4. 低迷するわが国経済の浮揚を図るべく、経済対策を推し進めることが橋本内閣の最重要課題であり、農林水産分野も含め、抜本的な構造改革が不可欠である。経団連からも種々提案をしていただきながら、開かれた前向きの農政の確立に努めていきたい。

  5. 農林水産省説明
    1. 新食糧法の施行について
      (高橋食糧庁長官)
    2. 新食糧法は、昨年11月に(WTO協定に基づく米麦の輸入については昨年4月)、施行され、関係法令等の整備を終えたところである。
      コメの需給・価格安定対策については、政府が予め「生産及び出荷の指針」や基本計画(需給見通し)、並びに生産調整実施者から買い入れる政府米の政府買入価格を公表し、生産者の経営計画の策定に供することとした。
      流通ルートに関しては、従来厳格に1本に制限していたが、これを複線化し、流通ルートの多様化を図ることとした。なお卸・小売業者の新規参入に関しては、本年6月に一斉更新を行うこととした。

    3. 農産物の需要と生産の長期見通し
      (本田総務審議官)
    4. 農産物の需要と生産の長期見通しは、最近では90年に、2000年を目標年次として策定されたが、WTO協定締結により、2000年までの国境措置が確定したこと、バブル経済の崩壊等、国内の経済情勢も大きく変化したこと等の理由から、94年8月の農政審議会報告でこれを見直すべき旨が指摘され、同審議会の下に需給見通し小委員会を設置し、検討を行なってきた。
      小委員会の検討結果を受けて、昨年12月に、2005年を目標年次とする新たな長期見通しが閣議決定された。
      この見通しは、単なる予測ではなく、農業生産の向かうべき方向を意欲的に示したものであり、可能な限りわが国農業生産の維持・拡大を図ることを狙いとした。
      新たな長期見通しによれば、2005年の供給熱量自給率は、約44〜46%と、ほぼ現在の水準を維持するとしている(92年時点の供給熱量自給率46%)。しかしながら、現在の趨勢がそのまま継続した場合、自給率は41〜42%に減少することが見込まれている。このような自給率の低下傾向に歯止めをかけるためには、国内農業の生産性向上を図りつつ、良質、安全、新鮮で適正な価格の農産物を安定的に供給していくことが求められる。

  6. 意見交換
  7. 経団連:
    系統金融機関の不良債権に関し、大蔵省や母体行の要請等により行った融資は回収して当然であるという主張は、系統金融機関の経営の自立性を放棄したような主張であり理解しがたい。
    農林水産省:
    住専問題は基本的に経営問題であり、母体行が業態子会社として住専を設立しながら、その後も母体行との分野調整を行わなかったことが主因である。
    しかしながら農協系統組織の信用事業の抜本的な見直しは進める必要があり、事業組織の見直しに関する法律を来年の通常国会に提出することにしている。

    経団連:
    生産調整の手法や計画流通助成金など、具体的な施策に新食糧法の改革の方向が見えてこない。ウルグァイ・ラウンド農業合意関連対策で政府が示した、効率的な農業経営体を実現するための施策について、具体的に示す必要がある。
    農林水産省:
    新食糧法では、生産調整について、事前に需給見通しや政府買入価格などの情報を事前に開示することにより、生産者の経営判断を促すようにしている。
    また、生産調整に参加しなかった際のペナルティをなくすかわりに、自主的に生産調整に取り組まなければ、自主流通米等の価格下落というかたちで生産者自身にはね返るような仕組みとなっている。
    生産調整助成金についても、大規模生産者や地域調整に対する助成水準を厚くし、生産の効率化を促す体系になっている。
    さらに、政府が全体需給を調整するには、計画流通がコメ流通の大宗を占めるようにする必要があり、助成により計画流通を確保できるようにしたものである。

    経団連:
    従来より農業と車の両輪の関係にあった食品工業は、割高な原料の利用を義務づけられ、国際競争力を殺がれており、生産拠点を海外に移す空洞化が進みつつある。このことは、国内農業にとっても販路の縮小につながる。そこで消費者・ユーザー負担型の農業保護策を見直し、農業と食品工業とがともに国民の食生活向上に貢献できるよう、新たな負担のルールについて検討する必要がある。
    農林水産省:
    食品工業をめぐる情勢の厳しさは十分理解している。しかしながら、既存の仕組みを一朝一夕に変更することは困難であり、経済界と相談しながら解決に努めていきたい。


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