トニー・ブレア英国労働党党首との懇談会(司会 三好事務総長)/1月5日

労働党は国を前進させるエネルギーとアイデアを持っている


来日中のブレア英国労働党党首が経団連を訪れ労働党の経済政策について講演し、豊田会長、関本副会長、樋口副会長ら75名と懇談した。97年3月までに予定されている英国総選挙において、労働党は政権を担う政党になる可能性がある。ブレア党首は労働党政権が誕生した場合の新政権の政策について「経済の急速なグローバル化に対応した現実的な路線をとる」と訴え、これに対し、経団連側からは「グローバル化の早さと広がりに同感する」旨を述べた。

  1. ブレア党首講演要旨
  2. ブレア党首

    1. 日英関係
    2. 現在の日英関係を高く評価しており、現政権の政策が国益に適っていると判断している。労働党が政権政党となっても、良好な日英関係の継続に努力する。

    3. 労働党政権の性格
    4. 右派にも左派にも偏らない中道路線を歩む。また、企業とのパートナーシップを強め、英国の競争力を増すのみならず、企業にとって魅力ある国家を創造する。労働党は言わば“ビジネスの党”と捉えられる。

    5. 経済政策
    6. 昨今の経済のグローバル化は、テクノロジーの発展と共に、その早さと広がりにおいて驚くべきものがある。従来の国境の概念は打破され、地球規模での経済の相互作用と相互依存が必然となる。
      こうした世界経済の相互依存に対応するため、
      1. 良好な投資環境を創り出すための経済の安定と低インフレ政策、
      2. 対英投資の促進、
      3. 企業の国際競争力を保てる税率の適用、
      4. 労働市場が硬直化しない労働者最低処遇制度の導入
      等をマクロ経済政策として実施する。
      しかし、急速なグローバル化は終身雇用制度の崩壊、新旧の産業の興亡、さらにはビジネス・スキルのたえまない更新の必要性など、社会的不安をもたらす。労働党は、これらの不安を払拭し強力な経済を打ち立てるために、社会と個人の間に取り決めを結び、権利と責務を明確なものにする必要があると考えている。また、経済のグローバル化を妨げる保護主義については、これを徹底的に拒絶する。
      保守党政権下で制定された労働組合法については、これを改正しない。労働組合は公正に処遇し、決して贔屓にはしない。また、グローバル化の原動力となるテクノロジーの進展には、官民協力で育成に努める。

    7. 教育
    8. 労働党の政策の中で最も重要なのは、人材に対する投資の促進である。
      英国の教育水準は、世界でも最高水準のものであると認識しているが、これは一部の人に提供されているにすぎない。労働党は、全体のレベルアップをはかるために、全ての人に良質な教育の機会を与えなくてはならないと考えている。
      このため
      1. 個性の育成、
      2. 暗記重視ではない幅広い教育の実施、
      3. 産業振興の為に新たな大学の創設、
      4. 新しい社会に対応した新しいカリキュラムの導入
      等を実施する。
      特に、教育レベルの高低で国民を二分してはならないと考えている。この点、識字率を向上させ、全ての国民に情報へのアクセスの機会を提供できた日本の教育制度には強い関心がある。

    9. 対欧州戦略
    10. 欧州連合を民主的な組織に近づけるために、英国は欧州におけるリーディング・プレイヤーであるべきと考える。
      また、共通通貨の導入は、国益に適うものであれば受け入れるべきだが、その為には主要国の経済収斂基準の達成とその持続が前提である。

    11. 最後に
    12. 労働党は70年代に時計の針を戻すつもりはない。変化のチャンスに対応するために党を現実的に変身させ、国民の利益に適う政党を目指す。

  3. 懇談
  4. 経団連側:
    ブレア党首の考える欧州統合は経済統合に重きをおいているように感じるが、ドイツのコール首相等は、欧州統合を政治統合と位置付けている。この点について党首の考えを聞きたい。
    ブレア党首:
    ドイツと言えども、欧州統合の過程で国民国家の消失を想定してはいないはずである。より緊密な政治協力と言う意味での政治統合であれば支持をする。

    経団連側:
    アジア、日本との関わりについて考えを伺いたい。
    ブレア党首:
    経済協力と貿易の拡大が重要である。確かに、英国国内にはアジアの企業の進出を危険視する見方も存在するが、これは新たなビジネスのチャンスとも考えられる。ちなみに現在228の日本企業が対英進出を果たし、英国から年間40億ポンドに及ぶ輸出を行なっている。

    経団連側:
    グローバル化の早さと広がりに対するブレア党首の見識の高さに非常に感銘した。次回の選挙での労働党の論点とその理由についてお伺いしたい。
    ブレア党首:
    “生涯を通じての教育”である。教育は、経済問題の一環として捉えるべきであり、教育の不均衡によって分裂してしまった社会では、経済の安定はもたらされないと考える故である。そして、労働党は国を前進させるエネルギーとアイディアを持っている。

豊田会長と握手するブレア党首


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