反トラスト政策セミナー/1月22日

ピトフスキーFTC委員長、クライン反トラスト局次長より米国競争政策の動向を聞く


米国は、1994年「国際的反トラスト執行支援法」制定に続き、昨年4月に「国際的事業活動に関する反トラスト執行ガイドライン」を公表し、反トラスト法の国際的執行に積極的に取り組む姿勢を明らかにしている。経団連競争政策委員会(委員長 弓倉礼一氏)およびOECD諮問委員会(委員長 行天 豊雄氏)は、日米競争当局間定期協議のために来日した連邦取引委員会(FTC)ピトフスキー委員長および司法省のクライン反トラスト局次長を招き、反トラスト政策の最近の動向について聞いた。

  1. ピトフスキーFTC委員長
  2. ピトフスキーFTC委員長

    1. 現在の活動方針
    2. 現在の米国での競争政策の運用は、反トラスト法を厳格、積極的に運用した60年代と非常に緩やかに運用した80年代の中間的なアプローチとなっている。
      また、古い法律やガイドラインの改廃によって、競争促進・消費者保護の効果が高まることが経験上明らかであるので、サンセットの考え方(法律等の存在意義を定期的にチェックし、必要が無い限り廃止する)を採り入れ、現在見直し作業を進めている。
      事業者団体が市場分割や価格カルテルなど反競争的行為の温床となりやすいことから、それらに対する監視も怠っていない。
      日本では著作物の再販制度が独禁法適用除外として認められているが、米国ではそのような例外は全く認めていないし、認める必要性もないと考えている。

    3. 合併規制
    4. 米国でのM&Aの波に伴い、合併規制に重点をおいている。昨年は2800件の合併があり、ヘルスケア、防衛産業、メディア関連の大型合併が相次いだ。特定の市場における競争状態や市場参入に影響を与える垂直合併や水平合併などについては合併規制を適切に行うよう努めているが、いわゆるコングロマリット合併については、競争上の弊害が無い限り、規制は行わない。

    5. 競争政策の新しい流れについて
    6. 昨年、10週間にわたり法律・経済学者、弁護士、ビジネスマンなど100人以上の証人を呼んで公聴会を実施した。
      公聴会を通じて競争政策の運用に、2つの新しい前提条件が加わったとの指摘が目立った。第1は外国との輸出入や対外投資の増加に伴う世界的な競争市場の出現であり、第2はイノベーション段階での競争の存在である。前提条件の変化によりこれまでの競争法ルールは既に陳腐化している。例えば世界的な市場を前提にし、経済の効率化要素を重視した場合、これまでとは異なった観点から合併案件を審査することになる。また、市場に重要な変化をもたらす技術革新については、製品が世に出てからではなく、研究開発の段階で、競争への影響を見て対応していくことが必要になる。
      法律改正は必要ではないと考えるが、執行の面では、これらの変化に合わせた変更が必要になるであろう。本年4月頃には、今回の公聴会の結果を報告書にまとめて公表する予定である。

  3. クライン反トラスト局次長
  4. クライン反トラスト局次長

    1. 司法省の最近の執行状況
    2. 司法省は、合併、民事、刑事の3分野の政策執行を管轄しており、300人の弁護士と55人のエコノミストがそれぞれの分野に均等に分かれて働いている。
      1995年度は、ほとんど全ての分野において歴史的な業績をあげた。まず、刑事執行では、1年間で60件の有罪判決を、40企業・32個人に対して得た。合併については2000件を超える届出があり、そのうち16の合併案件に合併を阻止するか条件を付す決定を下した。例えば、MicrosoftとIntuitの合併が企図されたが、FTCの反対により実現しなかった。
      合併以外の民事執行に関しては、1981年以降、最も多い同意判決(当局が提案した法的救済策に対して当事者双方が裁判所の管轄の下に合意する)を得た。
      また、知的財産権についてと国際的執行に関する2つのガイドラインを公表した。情報通信分野についても、引き続き重点的に取り組んできている。

    3. 国際的執行へ向けての努力
    4. 世界市場が相対的に狭くなっている現在、国際レベルでの反競争的行為に対する執行は一層重要になっている。過去18カ月にわたって、我々は積極的に反トラスト法の国際的側面での運用を行なってきた。
      第1は、プラスチック製の食器業界の価格カルテルの事例である。カナダの競争当局と協力して、ボストン、ロスアンジェルス、ミネソタ、モントリオールで同時に捜査・執行を行った。結果、米国、カナダ併せて3企業・7個人が有罪を認めた。
      第二は、ファックス用紙業界における価格カルテルの事例で、これもカナダの当局と協力して現在も進行中である。この事例の当事者には日米企業、スウェーデンの米国子会社が含まれているが、有罪を認めている企業と無罪を主張している企業がある。
      これらが域外適用にあたるのではないか、という疑問も投げかけられているが、我々はそうは思わない。会合、電話、文書のやりとりなどの反競争的行為の構成要件が、米国の領土外で行われたとしても、米国の消費者の経済的利益を害するものである限りは、域外適用とはならない。これについては、司法長官、反トラスト局長ともに、今後も強固に国際的執行をするつもりであることを公けに主張している。
      グローバルな市場での競争が活発になるにつれ、各国競争当局どうしの協力・連携は益々重要性を増す。その意味でも、現在カナダや欧州の当局と築いているような協力関係を日本の公正取引委員会とも築いていきたいと考えている。


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