中近東地域駐在大使との懇談会(中東委員長 黒澤 洋氏)/1月29日

中近東地域駐在大使と懇談


経団連では、中近東大使会議に出席するため一時帰国中の中近東地域駐在大使(20カ国)ならびに法眼中近東アフリカ局長を招き、懇談会を開催した。当日は、澁谷駐イスラエル大使から中近東和平問題およびイスラエル情勢、丹波駐サウジアラビア大使から湾岸情勢およびサウジアラビア情勢、小原駐イラン大使からイラン情勢、片倉駐エジプト大使からエジプト情勢についてそれぞれ説明を聞いた。以下は、その概要である。

  1. 澁谷駐イスラエル大使説明要旨
    1. 1月20日に行われたパレスチナ選挙では、16の中選挙区の100万人の有権者が、評議会議員と議長を選出した。日本からの77名を含め総勢700名の国際選挙監視団の見守る中、選挙は総じて民主的に行われ、評議会議長にはアラファト氏が圧倒的多数で選出された。また、88議席の内、70議席以上がファタハ系の議員によって占められた。選挙により、パレスチナは国際的認知を得、独立国家への一歩を記すことができた。5月4日から、イスラエルとの間で次の交渉が始まる。

    2. 昨年夏から交渉が中断されていたシリア・イスラエル関係は、ラビン首相暗殺後、急速に展開し、昨年末から両国間の協議がワシントンで再開された。協議により雰囲気は好転したが、実質的な変化は未だ見られない。唯一領土問題について、67年6月4日のラインまでイスラエル軍が撤退すべきとのシリアの従来通りの姿勢が確認された。2月9日からのクリストファー米国務長官の中東訪問が今後の帰趨を判断する一つの材料になる。

    3. イスラエルでは、6月に首相と国会議員選挙が繰上げて行われる可能性が高い。

  2. 丹波駐サウジアラビア大使説明要旨
    1. 湾岸諸国の政治情勢は、総じて安定しており、近い将来、現在の体制に根本的な変化が起こることは想定しにくい。
      経済面においては、民間部門の機能拡大と労働力の自国人化という課題を抱えているものの、油価の上昇により95年の財政赤字は縮小している。他方、95年のGDPは前年比2.1%増の2075億ドルとなっている。

    2. わが国にとって湾岸諸国は、石油輸入の7割、石油製品の5割、LPGの8割を依存する重要なエネルギー供給地域である。21世紀に向け急増するエネルギー需要を背景に、国際情勢が急変した場合、アジア諸国との間で、中東の油を巡って競合することもあり得る。石油の安定確保のためには、官民が一体となって国家戦略を考える必要があろう。

    3. サウジアラビア各界要人からは、両国関係の将来のために、日本企業が一刻も早く具体的な投資案件を成立させることを望んでいるとの強い期待が寄せられている。

  3. 小原駐イラン大使説明概要
    1. クリントン政権はイラン、イラクの「二重封じ込め」を基本政策にしている。また、95年5月の貿易・投資全面禁止、12月の「ダマート法案」の上院通過等、米国の対イラン政策は厳しさを増している。
      イランでは米国による制裁強化を国難として受け止めており、政治的には今回の制裁が、現政権に対する求心力となって働いている。米国撤退後の石油販売の手配は、概ね仏、伊、南ア等によって埋められており、経済的影響はほとんどない。

    2. イラン経済は、油価の低迷による外貨不足や短期L/Cの決裁遅延により厳しい状況にあったが、96年1月時点でほとんどの延滞債務についてリスケの目処がたっている。日本については、第1次オイル・スキームが完済され、第2次スキームの支払いが1月から始まる。また、昨年11月には残りの2億ドルの債券についても合意され、返済は順調に進んでいる。
      イランが95年から取り組んでいる第2次5ヵ年計画では、年間約140億ドルの石油収入と約40億ドル前後の非石油収入をベースとしている。油価の安定が前提にあればイラン経済は立ち直ることができるとの見方が強くなっている。
      独、仏等各国保険機関による保険引受も一部再開している。

    3. わが国は、対米配慮をしつつも米国とは一線を画し、イランとは対話継続の基本路線を維持している。援助実施の基本方針については変更はないが、米国からの強い圧力もあり、カルーン第4発電所建設計画に対する円借第2段階の供与の具体的時期については引き続き検討中である。

  4. 片倉駐エジプト大使説明要旨
    1. 昨年暮れの総選挙の結果、野党が大敗し、ムバラク大統領率いる国民民主党が議席の94%を確保した。ガンズーリ新内閣は、経済改革を推進し、IMFとの協議を進めている。今後はIMFとの合意を条件に、債務の50%削減を目指す。同国のGNP伸び率は95年で実質1.5〜2%程度である。
      米国にとってエジプトは、中東和平の拠点国である。米国の対外援助は削減の趨勢にあるが、対イスラエルの30億ドル、対エジプトの21億ドルの軍事・経済援助は維持されている。

    2. 昨年3月のムバラク大統領訪日、9月の村山首相のエジプト訪問を受けて、貿易保険が再開された。今後は円借款の早期再開、毎年1億ドル相当の無償援助等について検討を進めていく。

  5. 質疑応答
  6. 経団連側:
    イラク情勢について伺いたい。
    牛尾駐イラク大使:
    イラクに対する国連経済制裁は6年目を迎えるが、解除の見通しは明らかではない。1月の国連安保理における対イラク制裁レビューでは、制裁継続が確認されている。1月半ば、人道的物資購入のための石油禁輸の部分的解除について(国連決議986)、イラク政府は国連事務総長との話し合いに応じる姿勢を見せた。イラクは決議986には触れず、人道的観点からの石油輸出に関して話し合いに応じるとしているため、今後の国連とイラクとの交渉に注視していく必要がある。


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