政府は仏教徒や学生に対しても特別な対策を講じている。仏教徒対策としては、中国から釈迦の歯を借り受け、象牙で複製を作成し、寺院に納めるなど、民心掌握に気を配っている。また学生対策として、寮の建設や大学施設の改善なども行っている。
ミャンマーは人口の約7割をビルマ族が占めるが、135の少数民族から構成されている。このうち16の少数民族が反政府武力闘争を続けてきたが、既に15勢力との間では和平が成立し、残りはカレン民族同盟(KNU)だけとなった。カレンとの間でも和平交渉が始まっており、近く決着するとみられる。また、麻薬王クン・サーは23,000人のモンタイ軍を率いていたが、最近、約1万人の将兵とともに投降した。
95年7月、アウン・サン・スー・チー女史が自宅軟禁から解放された。現在でも5人以上の集会は禁止されているが、政府は同女史の政治活動を黙認している。その後、同女史は「外国がミャンマーへの援助を始めると軍事政権を支えることになるので、援助はすべきではない」などと発言するまでになった。95年11月には、NLD(国民民主連盟)が国民会議を一方的にボイコットした。これらの行動をみてミャンマー政府は、「同女史は真面目に対話するに値しない。30年間、外国生活を続けた同女史はミャンマーの実情を十分に認識しておらず、周囲には優秀なブレーンもなく、政権を担当できるだけの能力はない」と判断した。
インフラについては、日本企業を中心に工業団地のプロジェクトが進められている。工業団地内の電力、水道、排水処理施設などのインフラ整備にミャンマー政府も積極的に対応しており、インフラ不足はかなり改善されるだろう。
二重為替問題については、公定レート(1ドル=約6チャット)を実勢レート(1ドル=約120チャット)に一本化すべく準備が進められている。95年12月にFEC(外貨証券)の交換センターがヤンゴン市内のほかマンダレーなど地方都市にも設置され、実勢レートでの交換が可能になった。関税率も大幅に見直されている。国有企業は公定レートで原材料を安く入手してきたが、実勢レートになると大きな影響がでるため、個別の対応が検討されている。
インフレについては、最近は20%台前半で推移している。ハイパーインフレとはいえず、企業活動にとって、それほど大きな阻害要因ではなくなっている。
ミャンマーは英国植民地であったこともあり、法制が整っており、英語も通じる。農業国で、労働力の質は高く、天然資源、水産資源も豊富である。木材輸出は抑制しているが、植林に力を入れている。親日国で、日本との関係強化を望んでいる。
賃金水準については、例えば市が雇っている清掃作業員の日当は50チャット(約40円)、建設現場の労働者は100チャット(約80円)、技能労働者は250〜300チャット(約200円)である。
我が国も現政権との対話を通じて、民主化の努力を支援しており、その成果に応じてODAの再開も検討することにしている。欧米諸国はミャンマーに対して批判的な態度をとり続けている。欧米のメディアはミャンマーの実情を詳しく知らないまま、欧米流の尺度で報道しており、これがミャンマーのイメージ・ダウンにも繋がっている。現政権にとって90年の総選挙は禍根となった。485議席の選挙であったが、あの時点では一院制か、二院制か、大統領制か、議員内閣制かの区別も不明であった。選挙でのNLDの得票率は4割強であったが、小選挙区制のため当選者議席の8割を占めた。現政権は「憲法審議には少数民族も含まれており、拙速な議論では不満が残るので慎重に進めている。憲法制定後に民政移管する」と説明しているが、国際世論の誤解は解けていない。今後、NLDが政権担当の能力をつければ、SLORCも政権を渡すだろう。そうでなければ、選挙で多数を占めた他の勢力が政権を担当することになろう。