閣僚会合に向けたWTOの最近の動向に関する懇談会/1月5日

シンガポール閣僚会合の議題は、ウルグアイ・ラウンド合意のレビューと新しい貿易課題が有力


通商対策委員会では、通商産業省通商政策局の佐野国際経済部長を招き、12月にシンガポールで開催が予定されているWTO(世界貿易機関)閣僚会合に向けた最近のWTOの動向について聞いた(座長 北岡通商対策委員長)。
同部長は、シンガポール会合の議題として、(1)ウルグアイ・ラウンド(UR)合意のレビュー、(2)継続交渉の点検、(3)新しい貿易課題(環境、競争政策、労働基準、投資)などへの取組みが考えられ、今後、4月の4極貿易大臣会合、5月のOECD(経済協力開発機構)閣僚理事会、6月の先進国首脳会議などを通じて、議題が詰められていく予定である旨を述べた。

  1. 佐野通産省通商政策局国際経済部長発言要旨
    1. UR合意により、従来協定のみしか存在してこなかったGATT(関税と貿易に関する一般協定)に代わり、正式な国際機関としてWTOが設立された。また、従来からGATTが取り組んできたモノの関税引下げの他、サービス貿易(GATS)、貿易関連知的財産権(TRIP)、貿易関連投資措置(TRIM)に適用範囲を広げた。
      WTOは、2年に1度、最高意思決定機関として、閣僚会合を開催することとなっており、95年1月のWTO発足以来、初の閣僚会合が、3月9日からシンガポールで開催される。各国からの出席閣僚は、130〜140人となる見込み。

    2. シンガポール閣僚会合の議題として、現在挙げられているのは、
      1. UR合意のレビュー、
      2. 継続交渉の点検、
      3. 新しい貿易課題(環境、競争政策、労働基準、投資)への取組み、
      4. 新規加盟国問題、
      5. 政府調達協定、
      6. さらなる関税引下げ、
      である。

    3. UR合意のレビュー:
      URでの合意を各国が実施しているかどうか、相互に点検し、合意の信頼性を高めるものである。

      継続交渉の点検:
      UR終結時に継続交渉とされたサービス分野の人の移動(95年6月に合意)、金融サービス(95年7月に暫定合意)、基本電気通信(96年4月30日が交渉終了期限)、海運(96年6月30日が交渉終了期限)の状況について点検する。

      新しい貿易課題への取組み:
      環境については、5月にWTO環境と貿易委員会がレポートを出すことになっている。(1)WTOと多国間環境協定との関係(国際的な環境条約で認められている環境問題を理由とする貿易制限措置をWTO上どう扱うか)、(2)エコラベルが争点となっている。
      競争政策については、(1)貿易を阻害する民間慣行(輸入品の共同ボイコットなど)、(2)アンチ・ダンピング措置を競争政策の観点からどう考えるか、などが議論となっている。
      労働基準については、人権重視の観点から貿易制限措置を認めようとする国と低賃金国との競争という観点から貿易制限を認めようとする国がある。
      投資については、現在OECDで、多国間投資協定(MAI)の策定交渉が行われており、これをWTOの場で行うかどうかが問題となっている。

      新規加盟国問題:
      中国、ロシアといったWTOに加盟していない大国との加盟交渉について話し合われる予定である。

      政府調達協定:
      URで合意された政府調達協定は、地方政府への適用が定められるなど、受け入れにくい内容となっていることもあり、加盟国が少ない(現在11カ国)。米国はこれを増やしたいと考えている。

      さらなる関税引下げ:
      URで合意されたモノの関税引下げをさらに前進させようというものである、わが国は、欧州のエレクトロニクス製品の関税引下げを求めている。米国は、先進国間相互の通信関連機器の関税撤廃を呼びかけている。また、EU(欧州連合)は、医薬品、化学、セラミック、ガラスについて、関税撤廃を求めている。

    4. 今後シンガポール会合までに、
      1. 欧州アジア会合(3月1日・2日 於タイ・バンコク)、
      2. 4極貿易大臣会合(4月20日・21日 於神戸)、
      3. OECD閣僚理事会(5月21日・22日 於フランス・パリ)、
      4. 先進国首脳会議(6月27日〜29日 於フランス・リヨン)、
      5. APEC貿易大臣会合(7月15日・16日 於ニュージーランド・クライスト・チャーチ)、
      6. 4極貿易大臣会合(10月 於米国)、
      7. APEC閣僚会議・非公式首脳会議(11月 於フィリピン)
      などの国際会議で、シンガポール閣僚会合での議題が詰められていくと見られる。

    5. 4月の神戸での4極貿易大臣会合では、シンガポール閣僚会合での議題の他、規制制度改革、地域主義が議論となる。
      規制制度改革は、94年7月のナポリ・サミットでわが国の橋本通産大臣(当時)が提案したもので、技術の進歩、新しい商慣行を踏まえた上で、最善の規制制度を考えていこうというものである。すでに、OECDにおいて検討が進められており、5月のOECD閣僚理事会で中間報告がなされる。
      地域主義は、EU、NAFTA(北米自由貿易地域)、APEC、AFTA(東南アジア諸国連合自由貿易地域)など、地域主義の台頭を、WTOとの関係でどのように見るかというものである。

  2. 質疑応答
  3. 経団連側:
    規制制度改革とは何か。
    佐野部長:
    単に、規制撤廃・緩和のことではなく、どのようなセクターで、どのような規制が望ましいかについての検討である。この分野では、Contestabilityといった概念も議論されている。

    経団連側:
    国防上の問題をWTOではどう位置づけているか。
    佐野部長:
    一般的には、1995年GATT21条に、「安全保障のための例外に関する規定」がある。今後、投資や基本電気通信の分野では、議論になる可能性がある。


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