新しい全総計画に関するワーキング・グループ/2月23日

わが国産業構造の変化と今後の産業立地政策の課題


新しい全総計画に関するワーキング・グループ(座長 竹内 宏氏)は第2回会合を開催し、新野幸次郎神戸大学名誉教授・(財)神戸都市問題研究所所長より、わが国産業構造の変化と今後の産業立地政策の課題ならびに阪神・淡路地域の復興のあり方について話を聞いた。
なお当日は、新野名誉教授をまじえて、「新しい全国総合開発計画のあり方と策定に向けての課題」をめぐり、自由懇談を行なった。

  1. 新野名誉教授講演
    1. 阪神・淡路大震災の教訓
    2. 阪神・淡路大震災をきっかけに、「自然との共生」の重要性を痛感した。兵庫は開港以来130年の間、地震を意識した街づくりはなされてこなかった。今後は「自然との共生」を産業立地政策の根底に据え、国土軸・地域連携軸・地域軸を整備することにより各都市がネットワーク化された、多極分散型の都市圏を形成していく必要がある。
      また、首都圏で大地震が発生した場合にその機能をカバーできるシステムを考えておくことも重要な課題であり、そのためには、地方分権と広域協力が不可欠である。

    3. 阪神・淡路地域の復興に伴う産業立地 政策上の課題
    4. 阪神・淡路地域における今後の産業立地政策を考えるに当たって、まずわが国経済の方向性を明確にしたうえで地域政策のあり方を定め、そして被災地の復興の推進策を構築していくという道筋がなければならないが、現在の日本にはそのような道筋がない。
      阪神・淡路地域の復興に向けた事業として、
      1. 上海長江交易促進プロジェクト、
      2. ヘルスケアパークプロジェクト、
      3. 新産業構造形成プロジェクト、
      4. 大震災記念プロジェクト
      という4つの復興特定事業が政府の復興委員会で提案された。これらはひとつの道筋に沿って策定された政策に基づいて考えられたプロジェクトであるとはいえないが、上海長江交易促進プロジェクトなどについては具体化が進んでいくことになろう。
      また被災地では、工場等制限法緩和の要望が強いが、先日国土庁の通達により被災地での緩和が決まった。これをどのように利用できるかが地域にとっての大きな課題である。大震災で工場が使用不能となり県外に出たまま戻れなくなっているような企業に対し、地域がどのような政策努力をするかそして、それに対して国等がどのような支援を行うかが阪神・淡路地域の産業立地政策上の最重要課題となろう。
      シリコンバレーのように、スケールメリットは出しにくいが、技術進歩が著しく、需要が急激に変化するような産業分野の企業が集中する地域においては、従来のように大企業が頂点となる垂直分業的なシステムを誘導する立地政策ではうまくいかない。21世紀に向けて、業務の多くをアウトソーシング(業務の外部委託)で補うようなネットワーク型のシステムが成り立つ地域が発展するとすれば、地域は企業間の協力を促すような地域政策をとっていく必要があり、当然国によるコントロール、保護、規制等も望ましいものでなくなる。

    5. 21世紀のわが国経済の戦略的課題
    6. 米大統領選では米国の将来を巡って論議が繰り返されている。しかし、わが国では21世紀のことよりも過去の責任追及が論議の対象となっており、日本経済の戦略的な発想が生まれていないことは問題である。考えられる戦略的課題としては、
      1. 不況の克服、
      2. グローバリゼーション・円高・高度情報化への対応、
      3. 労働者の保護と自然環境の保護、
      4. 新しい産業構造の発展
      があげられよう。

    7. 神戸の復興状況について
    8. 今後復興住宅が建設されても、全体の約2割を占める65才以上の独り暮らしの方々が、家賃支払能力の問題で復興住宅に入居できないという事態が生ずると予想される。現在何とか3万円程度の家賃にできないか検討されているが、高齢化社会の下での問題は神戸だけの問題ではないということを認識すべきである。

  2. 自由懇談(概要)
  3. ―新しい全国総合開発計画のあり方と策定に向けての課題―

    1. 日本は地価や賃金の高さ、規制の多さ等により投資対象としての魅力に欠けている。経済特区をつくり特別のルールを設けるという方法で神戸が先例となり、この閉塞状況の打開を図っていくべきである。

    2. 各地域によって独自性があるのは良いことだが、経済合理性の観点から見ると効率的でない面もある。地方分権を推進する場合、経済合理性、文化の両面からそれを可能にする条件づくりにまず取り組む必要がある。

    3. 新しい全総計画を検討する際には、政府主体から国民(民間)主体の視点に転換すること、ならびに国内の視点だけではなくアジア・欧米を視野に入れたグローバルな視点から考えることが必要である。

    4. 米国に比べてわが国には外国企業があまり進出していない。外国企業が日本に進出しやすいような条件づくりが必要である。

    5. 経済計画と全総計画が別々の審議会により検討されているが、縦割行政の弊害で相互の連携がうまくいっていない。経団連の役割は、そのような部分にメスを入れることであり、両者を関連づけて検討すべきである。また、地方分権については都道府県制を含む行政システム全体のあり方について議論をすることが必要である。

    6. 危機管理の方策として、
      1. GISシステムを利用して国土のリスク等をデータベース化し、地域ごとのリスクに応じた対応をとること、
      2. 国民皆保険的な制度を導入すること
      を検討してはどうか。


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