中国委員会(委員長 三田勝茂氏)/3月12日

「アジア太平洋時代の日中関係と中国の政治情勢」について懇談


経団連では4月9日〜15日、会長、副会長および関係委員長で構成する訪中代表団を北京、上海、蘇州に派遣し、中国の指導者や企業家との間で、アジア太平洋時代の日中関係のあり方等について意見交換することとしている。
そこで、中国委員会では代表団派遣に向けて、「アジア太平洋時代の日中関係と中国の政治情勢」と題して、慶應義塾大学の小島朋之教授より説明を受けるとともに意見交換を行なった。なお、当日は、中国委員会委員を対象に先般実施した「中国に関するアンケート調査」の結果についても併せて報告した(アンケート結果については、『月刊keidanren』6月号に掲載予定)。
以下は小島教授の説明と質疑応答の概要である。

  1. アジア太平洋時代の日中関係
    1. 脱却が求められる特殊な日中関係
    2. 日中関係には歴史的、文化的経緯のために一種の特殊性が存在する。1989年の天安門事件への対応と、その後の中国の国際社会復帰にはその特殊性がプラスに作用したが、にもかかわらず欧米諸国には理解しにくい関係と映る。冷戦の終結もあり、特殊性からの脱却が日中ともに求められている。

    3. 協力と競争の側面を持つ日中関係
    4. 米国を除けば、日本と中国はアジア太平洋地域で最大の影響力を持つ2大国である。今後、両国関係は協力と競争の側面を併せ持つだろう。協力の面では、日本が中国の開放改革路線を支え、APECやASEAN地域フォーラム等への中国の参加を支援してきたことは、日中の資産となっている。一方、競争の側面も見逃せない。日中の勢力圏の確保競争も激しくなるものと予想される。

    5. 日中関係の将来を決める3要素
    6. アジア太平洋時代の日中関係の将来の方向を決める要素は、日中米の3カ国にある。第1の日本の場合、政治の混迷で先行き不透明である。第2の中国の場合、ポストトウ小平時代の過渡期やその後の不確実性は避けられない。不確実性の後には「強い中国」と「脆弱な中国」が考えられる。前者は中国の経済大国化のシナリオで、この場合には、前米国防省安全保障担当次官補のジョゼフ・ナイのいう責任大国(アジアの安定的秩序の構築に積極的に貢献する大国)となる可能性と、覇権大国への道を歩む2つの可能性とが考えられる。
      他方、「脆弱な中国」は、トウ小平以後の政治的空白と経済・社会的混乱から、中国の分裂の可能性もはらむシナリオである。ここ数年の推移を見ると「脆弱な中国」の可能性は小さくなった。「強い中国」がどのような道を歩むかは、第3の要素である米国の対アジア戦略によるところが大きい。
      クリントン政権の対アジア・中国政策は不透明で曖昧であるとの批判があるが、米国には一貫した戦略がある。第1は、米国のプレゼンスをアジアで維持することであり、第2は、中国と協力し、中国に責任大国としての役割を担わせる対中関与政策をとることである。米国は中国を友好国として見ていないが、さりとて敵対国としても見ていないことが、こうした考えから窺える。米国の対中政策の延長線上に台湾がある。

    7. 台湾問題
    8. 台湾問題の本質は2つある。第1は台湾の現実と中国の原則のギャップの拡大である。台湾経済の発展と政治的民主化の成功という「台湾経験」とそれに基づく台湾ナショナリズムと、「ひとつの中国」という中国の原則との間に大きな隔たりがある。台湾が独立を宣言した場合、中国が、武力行使に踏み切る可能性は否定できない。
      第2に、台湾問題は米中関係であり、日中関係であるということである。昨年5月の李登輝総統訪米の受入れ決定を契機に、両岸関係は悪化した。李鵬総理が指摘したように、米中関係は今後も修復と悪化を繰り返すだろう。修復の要因として、中国の対米貿易黒字が対日黒字を上回りつつあり、中国にとって米国は不可欠の存在となった点、また包括的核実験禁止条約に向けて米中は協力せざるをえないなどの点が挙げられる。
      他方、悪化の要因として、冷戦終焉後のアジア政策に関する米国政府内部の不統一、米国の対中関与政策の二面性、中国における全方位協調外交と覇権強硬外交との間の不整合などが考えられる。

  2. 中国の政治情勢
  3. ポストトウ小平時代への動きが本格化している。江沢民体制には強靱性と脆弱性が同居している。江沢民体制は、すでに89年以来7年間も持ちこたえており、権力基盤が固まりつつあるとも思われた。しかし、党中央政治局員に対して思想の統一の重要性等を強調していることから、権力闘争が激化しているものと予想される。
    江沢民が生き残るには、かつてトウ小平が毛沢東に対して行なったように、前任者の路線を継承すると同時に否定する必要がある(華国鋒はそれをやらなかったから失脚した)。ただし、現時点でのトウ小平路線からの逸脱は正統性の喪失につながるので、今のところは大胆な行動には出られない。

  4. 質疑応答
  5. 経団連側:
    李登輝総統は必ずしも独立を志向しているようには見えない。台湾の選挙に中国が神経質になっているのはなぜか。
    小島教授:
    今回の総統選挙で、台湾には住民の直接選挙で民意を反映した指導者が誕生することになるが、これに中国は苛立っている。

    経団連側:
    中国は責任大国になるだろうか。
    小島教授:
    中国は国際社会において、ルールを遵守する程度が大きくなっている。また、最近では地球の一員として責任を担うということを言うようになっている。

    経団連側:
    歴史認識の問題をどうみるか。
    小島教授:
    日本はこの問題に謙虚に取り組み、行動に表していかねばならない。また、他の分野に波及しないよう努力する必要がある。ただし、日中、日韓関係だけではなく、他のアジア諸国との歴史にも思いをいたす必要がある。


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