日本ロシア経済委員会(委員長 河毛二郎氏)/3月4日

リン世界銀行副総裁とロシアの経済展望をめぐり懇談


日本ロシア経済委員会では、第2回日ロ経済合同会議(3月26日〜29日 於東京)の準備の一環として、世界銀行のヨハネス・リン ヨーロッパ・中央アジア担当副総裁を企画専門委員会に招き、世界銀行から見たロシア経済の展望とロシアにおける取り組みについて説明を聞いた。以下はリン副総裁の説明の概要である。

  1. ロシアの経済展望と課題
  2. ロシアは経済の安定化、構造改革の面で前進しているが、前途には多くの課題がある。インフレは年率1000%(1992年)から46%(1995年)へと劇的に低下した。生産に関しては景気が底入れし、1996年には3年間続いたマイナス成長からプラス成長に転じると予想される。貿易は1994年、95年と連続して成長を続け、資本流出にも歯止めがかかり、為替レートも安定している。
    約1,200億ドルの対外債務は対GDP比では大きくはないが、その多くの支払い期限が今後4年間に集中している。ロンドン・クラブの債務繰延べはロシアにとって大きな助けとなった。
    最近、ロシアはIMFと3年間にわたり 102億米ドルの融資を受けることで合意した。しかし、厳しい財政、インフレ率の目標を課され、月毎にモニターされることになるため、6月に予定されている大統領選を控え、経済安定化や構造改革をめぐりロシア国内では緊張が生まれている。
    構造改革については、今までに価格自由化、貿易障壁の除去、民営化で前進があった。特に大規模な民営化は成功し、94年10月までに大中規模の企業の3分の2、小企業の80%が民営化された。金融分野でも約2,500の民間銀行が生まれている。確かに課題は多いが、短期間にロシアが多くの変化を実現したことを認識することが重要である。

  3. 主要分野の改革
  4. 財政については、抜本的な税制改革として、生産への課税から所得・消費への課税へと移行する必要がある。また、多くの課税減免の特例を減らし、石油・ガス等の天然資源への税制を改善する必要がある。
    法制度については、その拡充・強化、法律情報の提供、法律に関する訓練を通じ、市場システムを支援していく必要がある。
    金融制度に関しては、銀行監督制度の強化、厳しいライセンシングのシステムの導入、透明度の高い財務情報の提供、決裁システムの強化が必要である。
    農業は改革反対派の最後の砦で、その構造改革は未着手である。農業補助はGDPの3%にあたり、削減の必要がある。土地の所有制度、譲渡制度が不安定であり、土地所有制度の整備と集団農場の民営化が必要である。
    石炭産業、住宅に関しても抜本的な改革を実施しなくてはならない。
    ロシアの社会保障は悪化しており、所得格差の拡大と貧困層の増大が深刻である。成人死亡率は上昇し、平均余命は低下しているが、この原因として所得の半減と未発達な社会保障が挙げられる。保健衛生、教育制度は組織の改善と資金の提供による抜本改革が必要である。社会部門は改革派が見過ごしてきた部門で、国民の不満が高まっており、政府においてもこの分野を強化するアプローチを取りはじめている。

  5. ロシアにおける世銀の活動
  6. 世銀は融資、助言サービスを通じて、上記分野の改善に努めてきた。世銀は1991年に技術援助を通じてロシアへの支援を開始した。世銀がロシアに加盟した1992年に第1号融資の6億ドルを提供し、今までに20件で総額46億ドルの融資を提供した。これは日本の対ロシア支援の総額に匹敵する。95年にはロシアは中国、メキシコに次ぐ第3位の世銀資金の借入国(年間)となった。
    ロシアにおける民間投資では、世銀の姉妹機関であるIFC(国際金融公社)が主導的な役割を果たしてきた。IFCは今までに資本市場、農業、石油・ガスの分野で18件、総額3億3,300万ドルの融資を行なってきた。

  7. ロシアの変革に向けた世銀の戦略
  8. ロシアにおける世銀の役割は、改革の隘路をなくし、改革への弾みを生み出すことである。また、デモンストレーション効果を通じ、ロシアのある地域での成功例が他へ波及することを推進することである。
    現在、世銀は石炭、社会部門、農業への構造調整融資についてロシア政府と交渉を進めている。ロシア政府が十分な改革計画を立案できれば、上記の3つの分野で10億ドルの新規融資が提供できるようになる。さらに輸送、電力、石油パイプライン、住宅、上下水道等のインフラ関連プロジェクトも予定している。
    産業分野では民間投資を支援するために世銀保証の提供を考えている。社会的サービスでは教育・保健プロジェクトを検討しており、特に地方レベルでのサービスの向上に重点を置いている。さらに、資本市場の育成と法制度の改革プロジェクトも準備中である。
    現在のプログラムでは、年間で15〜20億ドルの融資が可能であるが、ロシアの改革プログラムの実施能力が高まれば年間30億ドルまで増額可能である。
    しかし、ロシアにおける世銀の業務においては、大統領選挙による政治的な不安定性およびロシアの政府・省庁の融資受入れと実施能力の限界という2つの制約要因がある。
    これまでロシアで行われた改革は後戻りできないところまで来ており、変革と成長の動きは継続されると期待している。将来のロシアの発展にとり重要なことは、ロシア内外の民間の投資家のロシアの現状と将来に対する見方である。世銀としても、民間の投資動向に注視するとともに、民間投資を促進するための世銀の機能を強化していきたい。


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