女性の社会進出に関する部会(部会長 坂本春生氏)/3月12日

「アファーマティブ・アクション」をめぐる最近の状況


女性の社会進出に関する部会では、昨年、男女社員がはつらつと働くための12の提言を盛り込んだレポートをまとめたが、この中では、職場における男女の格差を政策的・意識的に是正するための検討課題として、「アファーマティブ・アクション(AA)」のことにも言及されている。今回は、成城大学法学部の奥山明良教授を招き、欧米における同アクションの実態と現在の動向について説明を聞くとともに懇談した。

  1. アファーマティブ・アクションとは
  2. 「仕事における男女の役割分担意識」など、過去の慣習や固定観念に起因する差別は、わが国の男女雇用機会均等法などによる法的平等の確立だけでは、是正し難い。その点AAは、民族的・宗教的マイノリティや女性、障害者、高齢者のために形式的な「法的平等」だけでなく「事実上の平等」を実現するための施策とされる。
    AAの名称は、ケネディ大統領時代に施行されたマイノリティ差別是正政策がその始まりだが、欧州や国連ではポジティブ・アクシヨン、カナダでは employment equity(雇用衡平)と呼ばれ国や地域によってその名称は異なる。

  3. アファーマティブ・アクションの目的
  4. AAの目的は機会の均等を実現することにある。男女の雇用数を割り当てるような、単なる数合わせ的な結果の平等を達成しようとするものでは必ずしもない。過去の慣習・制度によって生じた男女の差をなくし、両者を同じスタートラインに立たせることがその目的である。したがって、一定の割合や人数の配置を厳格に強制する「クォータ」制(割り当て制)よりも、機会の均等を実現し、結果としての数値は強制ではなく目標として掲げる「ゴール&タイムテーブル」をその目的として考えるべきである。特に雇用の分野では、欧米各国においてすら「クオータ」は導入されていない。また、AAはあくまで一時的・暫定的措置であり、「事実上の平等」が確保され、男女が同じスタートラインに立つようになれば、不要となるものである。

  5. アファーマティブ・アクションの適用分野と法的根拠
    1. AAの適用分野には、「雇用」のほか、大学入学者等に関する「教育」、政策決定のための審議会等の委員に関する「政治・行政」などの分野がある。
      教育の分野では、米国で政府から助成金を受けている私立大学や州立大学が、教育機会の均等付与のために、マイノリティの優先枠を設けている例がある。また政治・行政の分野では、ベルギーで国の諮問機関の委員を決める際に男女1名ずつの推薦を義務づけているし、ノルウエーでは男女平等法により審議会メンバーなど公的方針決定機関において一方の性が全体の40%を下回ってはならないとの規定がある。このように、政治・行政分野では、クオータ制導入の例もある。

    2. 法的根拠については憲法の他、個別立法による一般法規や、条例に基づいて規定するケースが多い。
      また、米国では行政規則に基づく、エグゼクティブ・オーダー(大統領命令)が特徴的である。連邦政府契約として1万ドル以上の公共事業契約を政府との間に締結した企業は、雇用差別の是正策を計画して書面化し実行に移さなければならない。
      この他、差別是正のための救済判決や、労働協約などがその根拠となっている。

  6. 企業におけるアファーマティブ・アクションの実施
    1. 計画の策定・実行上の4段階
      1. 雇用差別の禁止、実施表明
        女性や人種的マイノリティに対する雇用差別の禁止を全従業員に対して表明し、実際にAAを策定し、これを実行する責任者を選任する。

      2. 従業員の活用分析
        米国では、全従業員に占める、人種別・男女別の構成比等を算出し、統計値を明示した資料を作成して従業員の活用状況を分析している。社会的背景が異なるため同様の方法をとることは難しいが、日本でも参考にはできるだろう。

      3. 計画の作成、目標の設定
        活用分析に基づき、労働組合やマイノリティの代表と協議の上、具体的な計画(ゴール&タイムテーブル)を策定する。

      4. 計画の実行、点検・評価、見直し
        計画を実行し、実施状況が点検・評価され、進捗状況を把握しながら場合によっては計画の見直しをはかる。

    2. 監督・強制
    3. AAの実行や強制を監督する機関は、国によってさまざまであるが一般的には、政府の機関や行政委員会によって監督されているケースが多い。

  7. 最近の情勢
  8. 米国では、AAが男性や白人に対する逆差別であるとの意見もある。行政や司法の各機関内でもさまざまな意見の対立が露顕しており、AA見直しの動きもでてきている。例えば、従来設けられていた人種的マイノリティのための「優先枠制度」を廃止した州立大学があり、公共工事の入札におけるマイノリティ関係企業の優遇は違法であるとの司法判断も下った。AAはもともと民主党の政策であるが、このような情勢下で大統領選挙を迎え、クリントン大統領もその修正を余儀なくされるのではないかと考えられる。
    日本でのAA導入の可能性については、企業においては、例えば既存の身障者雇用促進法などはAAの一種ということができる。また今後は、職場の中で部門や職務ごとに男女の比率や、賃金体系の差などの労働力の分析を始めることが必要であろう。
    クォータ制の導入については、政党の執行部や行政機関の審議会での女性の登用については可能かもしれないが、民間企業の雇用分野では困難であろう。一方、米国のように、公共事業契約にあたりAAを考慮することは可能ではないか。


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