黄茂雄・東亜経済会議中華民国委員会常任委員との懇談会/3月28日

台湾初の総統選挙について聞く


3月23日に行われた台湾初の総統選挙は、李登輝総統の圧勝で幕を閉じた。東亜経済人会議日本委員会(委員長:服部禮次郎氏)では、3月28日に黄茂雄・東亜経済会議中華民国委員会常務委員を招き、「一経済人から見た台湾の総統選挙とその影響」と題して話を聞くとともに意見交換を行なった。
以下は黄氏の説明の概要である。

  1. 選挙の印象
  2. 日本では当初から李総統の勝利を予想していたようだが、台湾にいたわれわれは渦中にあり、中国の軍事演習などによって、李登輝支持の世論に影響が出るのではないかと心配していた。結果は李登輝総統が圧倒的な信任を得て圧勝し、内外に対して民主化された台湾を大きくアピールした。また、併せて行われた国民代表大会の選挙でも、与党国民党が過半数を確保することができた。
    この選挙で、私も初めて選挙運動を経験した。選挙用の帽子を被り、はっぴを着て、宣伝カーの上で旗を振りながら李総統を応援した。家内の弁を借りれば、選挙は大変だったが、お祭りのようで楽しかった。選挙の2日後に李総統とお会いしたが、今後は両岸関係を慎重に処理するとともに、自分が元気であることを日本の皆様に伝えてほしいとの伝言を承った。

  3. 選挙の意味
  4. 今回の選挙では中国の厳しい対応も注目されたが、台湾の民衆は一連の「文攻武嚇」にも冷静さと忍耐、自制でもってこの危機を凌いだ。私自身も、ミサイルの演習が行われた時、「ペンは剣よりも強し」という言葉を思い出した。この言葉の通り、「台湾は民主でもってミサイルに勝った」のである。
    中国は当初、民進党は独立派、李総統は隠れ独立派と決めつけ、激しい批判を繰り返した。しかし、李総統の圧勝を目の当たりにして、素早く李総統は統一派であると態度を逆転し、選挙は統一派の勝利であったと論評している。
    3回にわたる中国の軍事演習によって、台湾は国際舞台に押し上げられるとともに、世界から道義的な支持を得ることができた。また、航空母艦を2隻派遣するという、米国のこの問題に対する堅固たる姿勢をも明らかにした。しかし、一方で、外国資本に台湾海峡の潜在的なリスクを喚起したマイナスの影響も否定できない。
    台湾内部では、為替や株式などの金融市場に比較的大きな変動が見られたものの、政府が安定基金を設立するなどの処置を講じたため、一時不安に陥っていた民心は平常に戻った。選挙の期間中、各候補者の中傷合戦は熾烈を極めたが、これは民主主義を学習するに際して避けて通れないものであろう。私は、今回の選挙は紛れもなく成功であり、未来の中国人社会のために、立派な民主の手本を確立したと思う。

  5. 選挙の影響
  6. 中国の軍事演習による経済的な衝撃は短期的にはほとんど見られていない。輸出に関しては欧米から若干問い合わせがあった程度で、輸出額は今年1〜3月は昨年同期比8.7%の増加、アンケート調査でも82%の企業が影響はないと回答している。民間投資については、2億元以上の大型投資案件では252 件中わずかに3件が中止されたに過ぎず、外国投資案件の90%は予定通りに進められている。一方、対中投資は金額的には増加しているものの、昨年1年間で撤回が25件あった。本年に入っても1月〜3月15日までの間で、許認可件数92件中、すでに撤回が5件、延期が14件あり、新規の申請件数の減少も予想される。このように短期的には影響は出ていないが、今後出てくるという危惧はある。

  7. 今後の課題
  8. 当選した李登輝総統は、今後の課題として5大改革を掲げている。5大改革とは、司法、行政、教育、財政、憲政の改革である。司法改革では、綱紀を引き締め、司法のクリーン化、効率化を達成する。行政改革では、責任の所在を明らかにし、規制緩和を推進する。教育改革では、若年層の政治への関心を高め、倫理観や秩序の再構築を行う。財政改革では、二重課税の廃止、金融緩和などによって景気浮揚を図る。憲政改革では、憲法の改正、5権分立の見直し、省政府の撤廃などを行う。また、景気浮揚のための経済政策として、株式・不動産市場の活性化、民間投資の促進、産業構造の転換も提起している。
    台湾の投資環境にとって、今後最も大きなカギを握るのが両岸関係である。これについては、和平協定の締結、「三通」の慎重な開放、台湾企業の権益保障、政府関係者の相互訪問の実現を掲げている。
    中国との経済協力については、今回の軍事演習にもかかわらず、今後とも官民一体となって、大陸への善意の表示である投資を引き続き進めるべきだという意見が経済界には強い。学界では、EUの方式に見習って共同経済体、経済面での統一を研究し、進めるべきだという意見もある。

  9. 質疑応答
  10. 経団連側:
    今回の選挙において、中国が軍事演習を行なった思惑は一体何だったのか。
    黄茂雄氏:
    中国の思惑は李登輝総統を当選させたくない、また当選確実であるのなら選挙そのものを中止させたい、というものだ。しかし、中国には3つの誤算があった。第1は「文攻武嚇」によって台湾の人心を逆転させようとしたが、これが失敗に終わったこと。第2は国際世論が公然と台湾に味方したこと。最後に、アメリカが行政府と議会が一体になって台湾を支援したことだ。李総統はあらゆるシナリオを想定し、絶対的な自信を持っていたようだ。

    経団連側:
    今後、李登輝総統は国民党をどう改革するのか。
    黄茂雄氏:
    今回の選挙では、国民党の集票メカニズムはほとんど働いていなかった。党営企業から資金を拠出したが、人民を動かすにはもはや無力である。今回の選挙でも国民党は勝利したとは言えず、今後、大改革を行うことになろう。党営企業は党の色彩を薄め、一般企業に改革されると聞いている。また、古参の外省人幹部を引退させ、新しい若年層の取り込みに力を入れるとともに、機能していない地方支部の改革にも着手するだろう。


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