バーノン・ハーバード大名誉教授との懇談会(司会 糠沢参与)/3月27日

NAFTA、EU、APECがブロック化することはない


国際経済学の権威であるレイモンド・バーノン・ハーバード大学名誉教授を招き、NAFTA(北米自由貿易協定)、EU(欧州連合)、APEC(太平洋経済協力会議)といった地域的な枠組みの将来の見通しについて聞いた。同教授は、「NAFTA、EU、APECを取り巻くの政治的・経済的環境を考慮すると、これらがブロック化することはない」と述べた。
以下は、バーノン名誉教授の発言概要である。

  1. 現在、世界のいたるところで地域的な経済枠組みの形成が行われている。地域的な経済枠組みは、もともと英国やフランスが第2次世界大戦前に始めた経済ブロックが最初であり、歴史的には否定的な評価が下されている。しかし、NAFTA、EU、APECといった今日の地域的枠組みは、政治的、経済的理由から、ブロック化するとは考えにくい。

  2. EUは、6カ国で発足し、現在15カ国と拡大を続けており、また、連合協定を通じても自由貿易圏を拡大している。こうした拡大は、EUの戦略というよりも、EU加盟各国が独自の外交戦略をもった結果といえる。すなわち、東への拡大を目指すドイツ、南への拡大を目指すフランス、ラテン・アメリカとの関係を重視するスペイン、旧英国連邦との関係の維持を目指す英国といった加盟国の妥協の産物として、全方位への拡大がなされている。今後も各国の思惑に変化がない。
    NAFTAはそもそも、米国の一方的通商政策をルールで抑え込もうとしたカナダの提案を米国が受け入れたものである。米国としては、NAFTAで自由貿易を推進し、当時のGATT(関税と貿易に関する一般協定)に刺激を与えるつもりであった。メキシコが参加したのは、カナダと同じ動機である。現在米国は、引き続き世界全体の貿易自由化を志向している一方、カナダ、メキシコは、自国経済が過度に米国依存になってしまうことを懸念している。
    APECに関しては、米国は「アジアで日本に遅れを取るな」という考えで自由化・拡大を目指している。

  3. 地域的な枠組みを推進している政治勢力である、多国籍企業の行動パターンから考えてもブロック化はありえない。多国籍企業は海外展開をする場合、通常、近隣の国に進出し、その後世界的に事業を展開する。したがって地域的経済枠組みも、最初、周辺国に対してなされた自由化措置は世界に拡大するとみられる。


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