インドシナ研究会(座長 荒木正雄氏)/3月26日

インドシナ地域開発をめぐる最近の国際協力の動き


メコン河流域の開発については、95年9月の日本・ASEAN経済閣僚会議、95年12月のASEAN首脳会議、96年3月のアジア欧州会合で大きなテーマになるなど、世界的に注目を集めている。インドシナ地域開発にはアジア開発銀行などの国際機関が取り組んでいるほか、外務省、通商産業省も各種の活動を進めている。インドシナ地域開発計画に関する最近の動きについて、松富重夫外務省アジア局南東アジア第一課長に聞いた。

  1. メコン河流域6カ国の開発戦略
  2. ベトナムでは、今年6月の第8回共産党大会に向けて、96年〜2000年の5カ年計画を策定中である。急速な工業化を目指しているが、海外資本への過度の依存が今後どのような影響を及ぼすか懸念される。ベトナムの場合、流入する民間資本がODAなどの公的資金を上回っている。

    ラオスでは、3月18日〜20日、第6回共産党大会が開催され、2000年までの5カ年計画が採択された。ベトナムと同様の内容だが、メコン河を利用した水力発電が重視されている。積極的な外資導入による高い成長率の達成を目指している。

    カンボジアには中期的な経済計画はない。93年5月に国連カンボジア暫定統治機構(UNTAC)のもとで選挙が実施された。98年には新憲法のもとで選挙が行われる。選挙後を睨んでフン・セン第2首相(人民党)が地歩を固めつつある。

    タイでは、第8次国家経済社会開発5カ年計画を策定中である。これまでの路線を継承し、地方と中央との所得格差の是正に向けて経済成長を進めることになろう。

    ミャンマーは、未開発の天然資源に恵まれ、ベトナムよりも経済的なポテンシャルは高いと見られている。憲法制定のための国民会議は継続中であるが、98年には新憲法のもとで選挙が実施される可能性がある。安定的な経済運営に向けて、経済テクノクラートの育成が急務である。

    中国はメコン河流域に14のダムを建設することを計画している。下流地域は本計画で影響を受けよう。メコン河の水量は、雨期8に対して乾期が2であるが、上流にダムを建設すると、この比率は6対4に変わる。上流でのプロジェクトの影響については十分な調査が行われていない。

  3. メコン開発に関する国際協力
  4. 57年に設立された「メコン河委員会」は95年4月に再発足した。メンバー国は、ベトナム、タイ、カンボジア、ラオスであるが、中国とミャンマーも議論に参加している。メコン河支流の開発は報告義務だけだが、本流の開発は流域諸国との協議が必要である。事務局長は日本人であり、世界銀行と日本政府が協力を申し出ている。

    アジア開発銀行は「拡大メコン局地経済協力会合」を進めている。運輸、エネルギー(電力)、通信、人材育成、観光、環境、貿易投資の7分野、77プロジェクトがあり、資金手当てが課題になっている。優先プロジェクトとして、

    1. バンコクとホーチミンを結ぶアジア・ハイウェー、
    2. バンコクとダナンを結ぶ道路、
    3. 昆明とラオスを結ぶ道路
    の整備がある。マレーシアやシンガポールは鉄道開発に力を入れようとしているが、この地域で求められているのは道路の整備であり、円借款も道路整備を重視している。アジア開発銀行は、各国のODAだけでは不十分なので、民間資金の取り込みにも積極的である。

    道路整備のうち、バンコク、サバナケット、ダナンを結ぶ9号線計画は総工費60億円(タイ8億円、ラオス40億円、ベトナム12億円)が必要である。タイはこの計画に積極的だが、ラオスはメコン河に架ける橋の建設を優先しており、道路整備を進める余裕がない。ベトナムは、タイに直結する道路建設には消極的である。

    外務省は「インドシナ総合開発フォーラム」に取り組んでいる。ベトナムとタイが経済的に発展する一方でカンボジアとラオスが取り残されると、この地域に力の真空地帯が生まれ、将来、不安定要素になりかねない。カンボジアやラオスも、ベトナムやタイと同じように発展する必要がある。インドシナ3カ国は、長年にわたる戦争や社会主義から市場経済への移行など、共通の経験や課題を持っており、一体的に捉えることが重要である。世界的な傾向としてODAが削減されるなか、インドシナへの資金フローを確保するためには援助の効率化が必要である。そのためにインドシナ総合開発フォーラムを役立てたい。経済界やNGOからも意見を聞くため、3月5日、バンコクでアドバイザリー・グループの会議が開催された。インドシナ地域開発については民間のイニシアチブが期待される。

    通産省が進める「CLM(カンボジア、ラオス、ミャンマー)産業協力ワークング・グループ」は産業協力が目的であり、自動車、家電など分野別に部会が設置されている。また、鉱物資源の開発協力にも取り組んでいる。

    「メコン河流域開発関係閣僚会合構想」はシンガポールのゴー・チョクトン首相が提唱したものであり、マレーシアのマハティール首相も支持を表明した。ASEAN7カ国、カンボジア、ラオス、ミャンマー、日本、中国、韓国が加わる方向である。このほど外務省内に「大メコン圏開発構想タスク・フォース」を設置したが、今年6月の閣僚会合までに2020年を目標にした開発計画に関する報告書を作成する予定である。

    「アジア鉄道構想」は、シンガポール、クアラルンプール、バンコク、インドシナ、中国を鉄道で結び、さらにシベリア鉄道を経由して欧州まで繋げようという話である。アジア欧州会合(ASEM)のフォローアップとして、マレーシアを中心に研究を進めることになった。マレーシアは2つの計画を考えている。第1のコースは、シンガポールとバンコクを高速鉄道で結び、バンコクからプノンペン、ホーチミン、ハノイ、中越国境鉄道を経由して昆明まで従来線を延長するものであり、今後5年程度で実現が可能である。第2のコースは、タイ・ラオス友好橋経由でバンコクとビエンチャンを結び、ラオスを北上して昆明に至るものである。こちらの方は、実現までに20年を要する。鉄道構想はASEMの象徴的な協力形態になろう。


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