経団連提言/4月16日

科学技術基本計画の策定に望む

―日本を魅力ある国にするために―


昨年11月に科学技術基本法が制定され、政府は10年程度を見通した5カ年の科学技術基本計画の策定を義務づけられた。経団連では、基本計画をより充実したものにするために標記提言を取りまとめ、関係方面に建議した。科学技術基本計画は、6月に閣議決定される予定である。

日本の将来はこの5年間の対応如何で決まる。産業界としては、日本をもっと魅力ある国にしなければならないという思いを日増しに強くしている。科学技術基本計画の策定は、日本の魅力を大きく高める絶好の機会である。
既に、産業界はもとより、大学、国立研究機関等においてそれぞれ新たな努力が始まっているが、今般の科学技術基本計画は、こうした研究主体毎、個別施策毎の対応を見直し、21世紀にふさわしい研究開発の道筋の全体像を裏付けをもって示すことが最大の責務である。
そのためには、2つのアプローチが不可欠である。ひとつは、予てから経団連が要望してきた科学技術予算、高等教育予算の倍増を5年間程度で実現し、国として科学技術強化の決意を、科学技術関係者のみならず国民が肌で実感できるように示すべきである。もうひとつは、教育面も含め日本の科学技術をめぐるシステム全体を抜本的に変革するためのスケジュールを呈示することである。
産業界として、科学技術に対する基本的な考え方を明らかにしたうえで、科学技術基本計画に対して以下の通り要望する。

  1. 科学技術に対する経団連としての基本的な考え方〔抄録〕
    1. 科学技術に課せられる時代の要請
    2. 日本を魅力ある国にするために科学技術が果たすべき使命は4つある。最も重要な使命は、「次代を担う若者に夢と希望、明るさを提供し、高い志を抱けるようにすること」である。第2に「エネルギー問題、地球環境問題など人類の生存に係わる問題の克服」である。第3に「日本経済の発展の維持」である。第4に「質の高い安全で豊かな国民生活の実現」である。

    3. 研究開発をめぐる望ましい姿
    4. こうした時代の要請に応えるために、日本として目指すべき研究開発の姿を5つ想定した。まず、第1に「センター・オブ・エクセレンスとしての役割を担うこと」を目指すべきである。第2に「研究者、技術者が生き生きと研究開発に取り組めるようにすること」、第3に「産学官の連携・交流の深化」、第4に「新技術の速やかな産業化」、第5に「技術革新を支える創造的人材を育む社会」を目指すべきである。

  2. 科学技術基本計画に対する要望
  3. 上記の科学技術に課された時代の要請とそれを実現するのにふさわしい研究開発体制を構築していくためには、科学技術振興に対する国民的なコンセンサスの形成をはじめ、知的資産の充実と活用の面で取り組まねばならない課題が山積している。産業界としては、今回の科学技術基本計画に最低限盛り込むべき事項として、下記3項目を強く要望する。


    1. 予算倍増と体制整備
      1. 科学技術予算、高等教育予算の倍増
      2. 科学技術を、知的活力が問われる21世紀の根幹を成す社会資本としてとらえるべきである。科学技術予算、高等教育予算を今後5年間程度で計画的、重点的に倍増して、欧米先進国並の水準まで引き上げるべきである。具体的には、以下の項目を実行すべきである。

        1. 科学技術関係の基本インフラの整備、更新
          大学の建物・研究設備の充実、科学研究費補助金の増大、カルチャーコレクションの整備、科学技術政策に関するデータベースの整備など。

        2. 研究者・技術者・技能者等の.処遇改善
          処遇改善に加えて、研究者・技術者・技能者等の社会的ステータス向上を目指して公的顕彰制度を充実すべきである。

        3. 国民的プロジェクトの推進とその実用化
          エネルギー分野(環境、人口問題を含む)、生命分野(高齢化対応を含む)、情報分野(ソフト開発を含む)、安全分野などの重要分野に関する国家プロジェクトの推進とその実用化。国際熱核融合実験炉計画、宇宙ステーション計画などの国際的な巨大研究開発プロジェクトの推進。

      3. 戦略的総合的な科学技術政策の企画立案、実行体制の整備
      4. 同時に、次の基本計画の改定に向けて、戦後50年かけて築き上げられた日本の研究開発システム全体を21世紀に向けた新たな環境に適応させていくために設計し直すことに着手すべきである。制度改革に踏み込んでいけるダイナミックな基本計画にすべきである。そのためには、以下の項目を実施すべきである。

        1. 21世紀にふさわしい科学技術推進システム(科学技術政策、制度、組織、運営のあり方)の追求
          新しい時代の社会の要請に応える科学技術の役割を明確にし、学際、省際、業際、国際を含むボーダーレスの取り組みについて、社会科学系も含め21世紀に主役となる人材によって追求する。

        2. 科学技術政策に必要な省庁共通のデータベースの構築

        3. 科学技術会議等を中心に国民的コンセンサスの形成

    2. 産学官の活性化、連携の深化
      1. 大学、国立研究機関、学会協会の活性化
      2. 産学官の連携を図る前に、まず、産学官それぞれが個性と特徴を持ち、国際的に見てお互いに魅力ある存在になる必要がある。産業界から見た魅力ある大学、国立研究機関とは、急速に変化する社会にあって、変化を先取りして社会や国をリードしていける力、世界に伍していける力を持った大学であり機関である。そのためには、以下の項目を実施すべきである。

        1. 社会から見た大学改革、国際的に見た大学改革の推進
          現在進められている大学内部から見た大学改革の次のステップとして、開かれた大学に向けた改革を推進すべきである。

        2. 国立研究機関の活性化
          特に産業活動に関連する国立研究機関の位置づけと運営を見直すとともに、契約研究員や人的交流強化による人の新陳代謝を促進すべきである。また、運営の外部委託も検討すべきである。

        3. 学会、協会の活性化
          情報発信を行っている学会協会に対して国家補助を強化し、科学技術の専門家集団として社会的に機能させるとともに、国際交流の担い手とすべきである。

      3. 民間の自主的な努力の助長
      4. 産業界は、今後とも自社研究の充実強化を図って、より良い技術と製品を提供し続け、それを通じて日本の社会の高度化を担っていく所存である。そうした民間の自主的な努力を助長するためには、以下の施策を実行すべきである。

        1. 研究開発税制の抜本的強化

        2. 次代産業社会の基盤を構成する分野の大規模なプロジェクトの推進

        3. 知的財産権の適切な保護と国際的調和の推進

      5. 新たな産学関係の構築
      6. 新たな産業創造をはじめ社会ニーズに応えるイノベーションを産学共同で行う関係を構築すべきである。そのため以下の施策を実行すべきである。

        1. 産学の交流・共同研究を活発化させる国家公務員法等の規制緩和

        2. ベンチャーの育成

    3. 人材育成
      1. 初等中等教育における理科系教育の充実
      2. 若い時期に理科系学科の面白さを教えるために、自らが理科系に興味と関心を持ちその面白さを教えられる人材の確保が急務である。

      3. 高等教育の充実
      4. 産業界は、卒業してくる大学生の質、特に創造性発揮の面に強い関心を抱いており、以下の施策を実行すべきである。

        1. 大学関係者の意識改革とカリキュラムの見直し
          国際的にも社会的にも通用する水準と内容の教育を目指す。

        2. 流動化の促進
          任期制の導入や一連の規制の見直し。

        3. 入学試験の改善

      5. 企業の役割
      6. 産業界も以下の推進に努力すべきである。

        1. 若者にとって魅力ある職場の提供

        2. 研究者・技術者に対する採用・評価・処遇面の見直し

        3. 教育関係者や学生に対する産業界のニーズ等の情報発信

        4. 内外の学生の研修受入れ

        5. 研究者・技術者の流動化への対応



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