国際産業協力委員会報告書(委員長 中村裕一氏)/4月24日

国際投資環境のあり方とわが国の対外・対内投資

―多国間投資協定(MAI)交渉に望む


国際産業協力委員会は、OECD加盟国によるMAI交渉の進捗を踏まえ、国際投資環境のあり方と交渉への要望、国際投資促進のためのわが国の役割に関する報告書をとりまとめた。これをもって、各国政府・経済界に対し、努力を求めていく。以下はその要旨である。

序論 望ましい国際投資環境

  1. 今日、財、サービスのみならず、資本・技術の移動が世界の成長促進要因となっている。

  2. 国際投資が自由化され、事業活動の自由化が保障され、各国の海外資本が適切に保護され、有効な紛争解決手段が存在する投資環境構築に向けたOECD加盟国の努力を是とする。

  3. わが国は、国際投資環境の整備に参加し、投資の活性化に寄与する責任を負う。MAIに対するOECD非加盟国の理解と参加を得ることが重要である。

  4. わが国自身、投資の出し手としてのみならず、受け手として国内投資市場の整備に努めるべきである。

総論 MAIの全体的枠組み

  1. これまで国際投資に係る包括的で拘束力を持つ国際ルールはなく、WTOの貿易関連投資措置(TRIMs)、OECD資本移動自由化コード、地域的経済枠組み、二国間投資保護協定等が存在するに過ぎない。

  2. MAIは、(1)投資自由化、(2)投資保護、(3)紛争処理の3本柱からなる。

  3. 交渉は、95年9月より6週間に1回行なわれている。また、ドラフティング・グループ、専門家会合などの下部組織で作業が行われ、予定どおりのペースで進んでいるものと見られる。ただし、(1)アジアを中心としたOECD非加盟国にMAI策定に対する強い懸念があること、(2)今後、交渉当事国は国内の調整が必要となることから、各方面への周知が一層重要となる。

  4. 議論が分かれている点についての意見は以下の通り。

    1. 投資の定義については、直接投資全体を有効にカバーするために、明らかに直接投資と無関係な金融取引を除き、ポートフォリオ投資も包括する広い定義を採用すべきである。また、投資財産の定義には知的所有権を含めるべきである。
    2. 税制については、既存の二国間租税条約やOECD租税委員会での議論などの蓄積を尊重しつつ、MAIの条文上も何らかの形で規律の対象とすべきである(OECD移転価格ガイドラインを取り込むなど)。また、既存の二国間条約にある二重課税の回避および脱税の防止についてマルチの枠組みで確認する好機と捉えるべきである。
    3. OECD非加盟国への考慮が不可欠である。非加盟国がハイスタンダードなMAIに加入できるよう段階的な措置を講じる必要がある。

各論 投資に関わる重要項目について

  1. キーパーソネル(要員派遣):
    定義を明確にし、経営者だけでなく特殊技能者等の円滑な移動を確保するため、ビザ発給手続きを簡素化・円滑化すべき。

  2. パフォーマンス要求:
    現地出資要求、技術移転要求等、TRIMs協定に含まれない投資歪曲効果を持つ措置も禁止すべき。

  3. 投資インセンティブ:
    内国民待遇・最恵国待遇原則を徹底すべき。

  4. 一般例外では、安全保障に関わる場合に限り最恵国待遇の例外とする。留保業種については後戻りしない措置を講じるべき。

  5. 地域経済協定(EU等)の扱い:
    対外的に障壁を高めることを禁じよ。

  6. 米・加・豪等の州政府の扱い:
    国別の留保分野リスト化の際、州別リストを提出するなど履行確保の措置を講じるべき。

  7. 税制:
    移転価格税制に関するルールを取り込み、拘束力を持たせるべき。

  8. 紛争解決:
    カルボ原則(契約当事国の紛争処理法制に服さねばならないという原則)を撤廃し、国内司法手段と国際調停機能の関係を整理し、投資家が利用しやすい効率的なものとすべき。

  9. 送金の安定・収用と補償:
    自由で円滑な送金を保証すべき。収用時の補償額は、市価または初期コストのいずれかを投資家が選択できるようにする。支払いは国際交換性のある通貨で行うべき。

  10. 民間慣行:
    MAIという法的拘束力を持つ枠組みで取り上げるべきではない。

補論 わが国の対内・対外投資の課題

  1. 規制緩和の推進
  2. わが国は、対内投資受け入れ促進のためにも規制緩和を強力に推進すべきである。

  3. 対日投資の積極的施策
  4. わが国の対内直接投資は対外直接投資に比較して少ない。この不均衡を改善するために、国内コスト要因の改善、積極的施策が必要である。具体的には、外資系企業の参入・事業活動円滑化に資する税負担軽減措置の拡充、年金支払い通算協定の締結、純粋持株会社の解禁と連結納税制度の導入、政府系金融機関の優遇金利制度などの取り組みが重要となる。

  5. 国際的ルール構築へのコミットメント
  6. わが国は、国際社会の責任ある一員として、GATTウルグアイ・ラウンドの成功とWTO設立へのコミットメント、APECに対する貢献に引き続き、MAIにおけるルールづくりに積極的に参画していくべきである。交渉の場では、アジアからの唯一の参加国として、非加盟国が段階的にMAI加入への準備を行いうるための施策を提案するべきである。なお、わが国は二国間投資協定を4カ国としか締結しておらず、自国企業の海外投資資産の保護システムは十分整備されている状況にはない。この意味においてもMAIの意義ある形での成立はわが国経済界の利益となる。


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