アジアの投資環境・投資政策に関するセミナー/5月9日

APECでの自由化は、皆が主役で、皆が得をする!


経団連と豪州国立大学豪日研究センター(所長 ピーター・ドライスデール教授)は、東アジアの発展を基本テーマに、94年以来毎年セミナーを開催してきている。同センターでは、95年のAPEC大阪会議に向けて、PECC(太平洋経済協力会議)の委託により、APEC地域における貿易・投資の障害に関するペーパーを取りまとめるなど、この分野で目覚ましい研究成果をあげている。そこで、今回は同ペーパーの作成に携わった同センター関係者をはじめ、内外の学界、官界、産業界の専門家を講師に標記セミナーを開催し、アジアの投資環境や投資政策につき議論した。経団連からは、立石アジア委員会委員長代行(APECビジネス諮問委員会日本代表委員)ほか、約130名が参加した。以下は主な発言の要旨である。

  1. 國廣道彦元駐中国大使
    1. 東アジアの現在の経済的繁栄は、この地域の平和と市場経済の賜物であり、今後もその維持を図らねばならない。
    2. この観点から、APECは重要な枠組みである。APECの最大の課題は、アジアの今後の発展の鍵を握る中国を取り込み、国際的な経済体制に参画させることである。95年の大阪会議で、各メンバーの自主性を尊重しつつ、協調して自由化を進める「協調的自主的行動」という手法が採択された。これはGATT/WTOのように交渉を重視しないので、中国は受け入れやすいだろう。
    3. 東アジアが今後も成長を続けるための課題がある。第1に、国威高揚を目的とする産業育成策が経済発展を損なわないよう注意する。第2に、東アジアの繁栄が他地域の警戒心を呼び起こさないよう、域外にも門戸を開放する。第3に、今後は域内の輸出依存度が高まるため、日本が東アジア諸国の製品のアブソーバー役を果たす。第4に、量より質の経済成長(貧富の格差の是正、政治の腐敗の防止、人口の抑制、環境保護等)を目指す。第5に、民主化に向けて、政治・社会制度の改革を進める。

  2. ピーター・ドライスデール所長
  3. APECでの自由化には何点か問題がある。 第1は包括性である。大阪会議での合意に基づき、各国・地域は農業を含む全分野の自由化を自主的に進めなければならない。
    第2に、無差別性の問題がある。APECはWTOによる多角的自由貿易体制を是としている。中国、台湾などAPECメンバーが早期にWTOに加盟することは重要である。
    第3に、米国のAPECへの積極的な関与が望まれる。大統領選挙が、米国の自由化措置を制約するのでは、と案じられている。

  4. マリ・パンゲストゥ氏(インドネシア国際戦略問題研究所)
    1. 農業、鉱業、製造業の一部(繊維、皮革製品)の関税が高い。
    2. 非関税障壁は多くの国で除去・関税化されているが、とくに農業、石油、ガス、繊維、アパレルの分野で規制が残っている。
    3. 海外直接投資では、届出制、ガイドラインの設定など煩雑な行政手続や、曖昧な規制が依然存在し、情報へのアクセスが困難な中小企業にはとくに深刻な問題である。
    4. サブ・リージョナルな地域取り決めは、AFTA(ASEAN自由貿易地域)のように率先して自由化を進めてAPECの自由化に貢献している例もあるが、内向きにならないよう監視の目を光らせておく必要がある。

  5. 近藤剛伊藤忠商事政治経済研究所長
    1. これまで東アジアが目覚ましい経済発展を続けてきた要因は3つ。第1は、冷戦の終焉に伴いこの地域で市場経済が急成長した。第2は、レーガノミックスにより米国市場が東アジア諸国の製品のアブソーバー役を果たした。第3に、1985年のプラザ合意を契機とする円高により日本から東アジアへの直接投資・技術移転が急増した。
    2. APECにおける貿易・投資の自由化、円滑化はこれからが正念場である。自由化では、外国との関係よりも、国内対策が問題であり、全体の国益と特定分野の権益の調整が焦点となる。APECの強化に向けて日豪米が歩調を合わせ、域内で最も開かれた市場を提供し続ける必要がある。また、自由化を阻む物理的な障害(人材不足、インフラ不足、域内のハーモナイゼーションの欠如)の克服が求められる。東アジアのインフラ整備に、今後10年間で1兆5000〜2兆ドルかかるとの試算がある。日米ほか政府は財政難にあり、今後民間資本への依存が強まる。民間のリスクを軽減するため、受け入れ国側の環境整備が必須である。

  6. 上田隆之通産省通商政策局APEC推進室長
    1. APEC独自の自由化方式である「協調的自主的行動」はASEM(アジア欧州会合)やWTOに影響を与えている。APECの信頼性を高めるために、引き続きこの手法が効果的であること世界に示す必要がある。
    2. APECの目的は域内の持続的な成長であり、自由化はそのための1手段である。従って、開発協力も同時に進める必要がある。
    3. APECは進化し続けており、今年のフィリピン会議で完結するわけではない。米国には長期的な視点から、APECへの関与を強めてほしい。現在各国・地域は行動指針に基づき「行動計画」を策定中である。日本はSurpriseなものを出せればよいと思う。

  7. ウォーウィック・マッキビン豪州国立大学教授
  8. APECにおける自由化の成果を域外にも均霑する方が、域内だけで閉鎖的に自由化するよりも各国の消費は伸びる(マレーシアの場合、前者9%に対し、後者7%)。

  9. ダニエル・アンガー ジョージ・タウン大学助教授
    1. APEC流の非公式を重視する自由化の手法に米国は大きな関心を抱いているものの、大統領選挙などの影響で、今年は思い切った自由化措置がとられない恐れがある。
    2. 93年のシアトル会議では、NAFTAの成立など好条件に恵まれ、米国はAPECの自由化に積極的であった。現在は、アジア側のやり方を静観しようという気持ちが強い。

  10. ハイ・ウェン北京大学教授
    1. 中国のWTO加盟が厳しい状況にあるため、中国のAPECに対する期待、関心は高い。APECでの自由化は、中国にとって好ましい。
    2. 中国がAPECへの関与を強めれば、APECを通じて中国の自由化が進み、透明性が高まり、中国市場が一層開放されるため、他国は大きな利益が得られる。そのために中国は適度な外圧を必要としている。


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