農政問題委員会食品工業政策部会(部会長 浅田健太郎氏)/4月16日

農産物の価格政策のあり方について聞く


農政問題委員会食品工業政策部会では、昨年12月より、食品工業の原料調達問題の改善に係る報告書のとりまとめに向けた検討を行なっており、農林水産省、関係業界や学識経験者からのヒアリングを行なっている。今回は、成蹊大学の本間正義経済学部教授から、農産物の価格政策のあり方について説明を聞くとともに、意見交換を行なった。

  1. 本間成蹊大学教授説明要旨
    1. 農産物価格政策の運用の誤り
    2. 農業基本法で謳われている価格政策は、価格の安定化である。また、同法では、農工間の所得格差は生産性の向上により是正するとしている。しかし現実には、価格安定化の名の下に、価格政策を通じた所得補償が行なわれてきた。

    3. 価格政策は必要か
    4. そもそも、政府が市場に介入して価格の安定化を図ること自体、望ましい政策かどうか疑問である。安定すべきは価格ではなく所得であろう。資源の効率的配分の観点からは、価格変動の激しい農産物についても、価格決定は市場に任せるべきである。農家所得の安定化対策としては、別途、先物市場の創設や所得安定化基金の創設、共済制度の拡大等を検討すれば良い。農産物価格は天候等により当然に変動するとの認識の下に、農業が行なわれる方が、農業は活性化する。

    5. 価格政策の見直しの方向性
    6. わが国の農産物価格制度は、品目毎に異なっており、消費者や納税者には分かりにくい。ウルグアイ・ラウンド(UR)合意によりコメを除く農産物の関税化がスタートしたことを機に、価格制度を透明でわかりやすいものに改革すべきである。
      新食糧法は、内容的に不十分な点もあるが、米市場の自由化に向けた第一歩と評価できる。
      しかし、主食のコメが自由化の方向に改革されたにもかかわらず、コメ以外の農産物価格制度の改革を行なわないのはおかしい。

      1. 小麦
      2. 小麦は、依然として、国産小麦の政府買い上げと国家貿易による実質的な全量管理が行なわれている。現行コストプール方式による国産麦保護コストは、製粉業者、小麦2次加工業者、消費者が負担している。
        小麦粉関連製品の関税引き下げに伴い、今後これらの輸入圧力がますます強まる。これにより小麦2次加工業者の海外生産シフトが本格化し、コストプール方式はいずれ崩壊する。
        政府は、制度崩壊前にコストプール方式を廃止し、国産麦の政府買入価格の引き下げや麦類の国内流通自由化を実施すべきである。

      3. 生乳・乳製品
      4. 乳価は不足払い制度により支えられてきた。これは、政府(畜産振興事業団)が、再生産可能な価格(保証価格)で加工原料乳を酪農家から買い上げ、これに保証価格よりも安い価格(基準取引価格)で乳業メーカーに売り渡すというものである。乳製品の関税化により安い乳製品が輸入されると、基準取引価格を引き下げざるをえない。他方で、財政制約や不足払い制度はUR合意で削減対象となっていることから、補助金の増額は難しく、いずれ不足払い制度は空洞化する。
        農林水産省は、飲用乳生産農家が加工原料乳生産農家の所得を補償するという、「とも補償」制度の導入を検討している。これは社会主義経済的な制度であり、仮にそのような制度が導入されれば、酪農業の発展は望めない。
        わが国の酪農は飲用乳生産にシフトしていかざるをえないのではないかと考える。乳業メーカーの中にはすでに海外に生産拠点をシフトしている企業もあり、政府は早急に今後の政策方針を打ち出す必要がある。

    7. 農業基本法の見直しに向けて
    8. 農林水産省では、現在、農業基本法にかわる新しい基本法の制定に向けた検討を行なっている。この議論では、環境問題に農業を守る拠り所を見いだそうとする学者が多くいる。しかし、環境問題は環境対策として別途議論すべきであり、新基本法の議論は、環境問題とは切り離して議論すべきである。
      また、農家の定義を絞り、農業政策を重点化すべきである。現行では、農産物の年間販売金額 100万円以下の農家が65%を占める。学生アルバイト並みの所得の「農家」を農業政策のシェルターの下に保護するのは問題である。
      今後、グローバルな視点から農業を捉え、自給率は多少低下しても活力ある農業を目指すべきである。

  2. 質疑応答
  3. 問:
    2001年以降コメが関税化された場合の安定価格の水準をどう考えるか。
    答:
    基本的に、所得の安定策を別途講じれば、価格安定化対策は必要ない。コメについては、先物市場を整備した上で、価格は市場に委ねるべきである。

    問:
    コメについては、一定の過剰生産能力を維持すべきとの議論について、どう考えるか。
    答:
    コメは次第に主食ではなくなっていくのではないか。農林水産省はコメ離れの実態も踏まえて、政策を立案すべきである。

    問:
    現行の消費者負担型の価格支持制度を見直し、農産物価格を国際水準に近づけた上で、国内農家対策として不足払い制度を導入すべきとの考え方をどう考えるか。
    答:
    不足払い制度はUR合意の下で2000年までは制度の存続が認められたが、将来的には廃止対象となる制度である。過渡的に不足払い制度を導入することはよいが、最終的には価格は自由化すべきである。


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