阪神・淡路経済復興シンポジウム/5月22日

阪神・淡路経済復興シンポジウムを開催


経団連は、関西経済連合会、神戸商工会議所と共催で標記シンポジウムを開催した。開会に際して、豊田会長、川上関西経済連合会会長より、「これから本格的な経済復興へ向かう阪神・淡路地域の実情を広く国民に訴えていく必要がある」旨の挨拶があった。

  1. 基調報告要旨
    1. 貝原俊民兵庫県知事
    2. 阪神・淡路大震災から1年4カ月が経過した今、被災地は復旧から本格的な復興の時期にさしかかっている。産業復興にあたっては、従来のプランテーション型ではなく、さまざまな企業が自発的にネットワークを作っていく活力を持った熱帯雨林型の産業構造の形成を目指すべきである。そのためには、規制緩和や税制、地価の問題への対策が重要となる。また、わが国産業全体の課題について率先して取り組むという意味で、4つの復興特定事業の実現に向けて努力したい。

    3. 笹山幸俊神戸市長
    4. 神戸港は、順調に回復しつつあるが、アジア地域の港湾施設が高度化していくなかで、わが国の港湾はハブ機能を失いつつある。各国の港湾とのネットワーク化を重視し、単に物だけでなく人や情報が集積する港湾を目指したい。アジアでの国際港湾競争に対応するためには、大深度バースの建設や諸規制の緩和などが必要である。

    5. 牧冬彦神戸商工会議所会頭
    6. 神戸経済は着実に回復しているものの、復旧のスピードが予想より遅いと感じている経営者が多い。また、阪神高速の神戸線が未開通であるが、一刻も早い開通が望まれる。大震災を契機として表面化したさまざまな問題は被災地のみの問題ではなく、日本社会全体の金属疲労的な問題点を象徴している。特に規制緩和は重要な課題となっているので経団連にも協力願いたい。

  2. パネルディスカッション「被災地をわが国経済社会システム改革の先駆的モデルに」での主な意見
  3. 〔コーディネーター〕
    吉田和男京都大学教授
    〔パネリスト〕
    林敏彦大阪大学教授、
    島田晴雄慶応義塾大学教授、
    井上義國関西経済連合会復興対策特別委員会副委員長、
    中内力神戸経済同友会代表幹事

    1. 大震災をきっかけとして、日本の社会システム上の問題点が露呈した。復興を実のあるものにするためには、単に物理的に被害を受けたものを元に戻すのではなく、社会システム自体を改革していくことが重要である。かつては複雑な社会システムを運営していくためにさまざまな規制が存在したのだが、これが経済の発展を抑制しているのが現状である。

    2. わが国の地方自治体は、国の規制と補助金制度の範囲内で地域政策を展開するため、実態に即さない場合が出てくる。今回の大震災を機会に、財源問題を含めて真の地方分権について議論する必要がある。

    3. 規制緩和に関しては、総論賛成・各論反対にどう対応するかが難しい。まずは思い切った規制緩和等を実施するモデル地区を設けてそこで試してみることが必要である。痛みを伴うこともあろうが、それを避けていては改革はできない。

    4. 職業斡旋、労働斡旋などの新しい事業分野を、旧態依然とした規制が制限している。新しい発想を持った若い起業家が日本を見捨てないようにする必要がある。

    5. 規制緩和と地方分権は社会の潮流になりつつあるが、これらは単に豊かさだけでなく、自由・闊達で楽しい社会をつくるために必要なものである。

    6. 神戸港を復興し、国際競争力を回復させるためには、縦割り行政を見直し、港湾の経営手法を変える必要がある。中央・地方・民間からの出向によって設立した第3セクターに国が権限を委譲し、新しい制度の下で新しい復興対策を行なってはどうか。これを成功させ、日本全体に適用していくことで、日本全体の構造改革が実現する。

    7. 香港のコンテナバースはすべて民営で24時間体制であり、効率化も進んでいる。日本の港湾は香港から学ぶべきことがたくさんある。また、学ぶだけではなく、実践できるしくみをつくる必要がある。

    8. 日本という地震国に住んでいることを認識し、災害時の住宅復興を目的とした住宅皆保険制度を導入すべきである。ある試算によると、月々1,000円程度の保険料で約1500万円の保険金が支払われる。この制度を阪神・淡路大震災に遡及して適用することも可能ではないか。

    9. 工場等制限法が復興の足かせになっており、同法の撤廃を求めたい。被災地域の復興や新産業の創出のためには、厳しいゾーニングをしくのではなく、工場、住宅、大学、商業地などが混在した都市が必要である。また、このようなグローバル化の時代には、工場等制限法があるからといって企業が地方に分散していくとは限らない。

    10. 地震などの災害に対しては、国から出る災害復旧のための資金を一旦地方自治体がプールして、地方債の発行により新たな資金調達を行ない、自由に復興資金として使えるかたちにしてはどうか。地方債については、交付税ではなく自治体が独自の財源で償還できるような仕組みに変える必要がある。

    11. 危機管理については平常時に考えておくべきであるが、マニュアルがあっても対応しきれない状況はあり得る。そのようなケースまで細かく想定して実際に行動してみる訓練が必要である。

    12. 今回大震災の教訓を後世に伝えるために、本格的な地震関連の文献収集を行ない、また21世紀文明を研究する研究機関を設けてはどうか。

  4. 「アピール」採択
  5. シンポジウムでは、
    1. 経済復興を促す「モデル地区」の創設、
    2. 国際物流拠点としての競争力強化、
    3. 阪神高速3号線の早期復旧、
    4. 官民一体となった経済復興の推進
    の4項目から成るアピールを採択し、同日夕刻、橋本総理に申し入れを行なった。


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