東亜経済人会議日本委員会(委員長 服部禮次郎氏)/5月10日

台湾のさらなる経済発展に向けて


東亜経済人会議日本委員会では、先般「第7回中華民国大型貿易、投資、技術商談訪日団」の特別顧問として来日した江丙坤経済部長(通産大臣に相当)を招き、台湾経済の現状やWTO加盟問題、両岸経済交流などについて説明を聞いた。以下は江経済部長の発言要旨である。

江丙坤経済部長

  1. 台湾の発展と日本の貢献
  2. 台湾が1953年に第1期経済建設計画をスタートさせてから、今年で満44年が経った。この間、台湾の1人当たり国民所得は53年の 167ドルから昨年は1万2,439ドルに、貿易総額は3億ドルから 2,153億ドルに、輸出総額が1億ドルから 1,117億ドルに大幅に伸びた。
    この44年間の発展は誠に著しいものであったが、実はこれは日本の貢献による所が大きい。台湾への海外投資の3分の1、技術移転の3分の2は日本からのものであり、これらは台湾の工業化に大きな役割をはたした。また、日本は米国などとともに、台湾製品に市場をも提供した。

  3. 転換点となった86、87年
  4. 1988年以降、台湾の経済は新しい安定成長の段階に入ったと言える。膨大な対米貿易黒字によって、台湾ドルは1987年に大幅に切り上げられ、その結果、バブル経済が発生し、製造業の空洞化を招いた。台湾製品の競争力が落ち、輸出成長率は長らく1桁に留まっていた。
    しかし、昨年、台湾の輸出総額は 1,117億ドルと前年比20%の増加となった。これは、近年の産業構造の転換が順調に進んでいることを示すものと言えよう。対米黒字も1987年の 160億ドルから現在は56億ドル程度に減少し、米国からの圧力も弱まった。また、1988年から6年間、ほとんどゼロ成長であった台湾の対日輸出も、昨年は約30%の増加となった。今年1〜4月の統計でも、対日赤字は前年同期比で11%の減少となっており、このペースで行けば今年の対日赤字は縮小できると期待している。

  5. 経済政策の基本理念
  6. 台湾の目標は、先進国並みに経済を発展させることである。台湾の頼みの綱は経済だけであり、発展によって実力をつけて、初めて世界の土俵に上がることが出来る。また、台湾には 2,100万の人口があり、国民生活を豊かにすることも大事だ。さらに、台湾の成長を維持するには良好な両岸関係も不可欠である。以上は、わが国の経済政策における基本的な理念である。
    台湾が当面、抱えている緊急課題のひとつはWTO加盟である。2国間交渉は順調に進んでいるが、一番交渉が難航しているのが日本である。特に自動車分野に関しては、我々としても15万人の従業員を抱えるこの産業を保護しなければらない。台湾の自動車産業の90%は日本企業と提携関係にあり、業界でまず話し合ってもらい、それを政府が承認するようにしたい。台湾が膨大な対日赤字を抱えている中で、日本が要求ばかりするのは私には不可解だ。
    2つ目はAPECの活用である。台湾はこの初めて提供された国際舞台において、自由化の推進を通じて世界に貢献していきたいと考えている。3つ目は2国間関係の強化だ。台湾は米国と欧州とは定期的な次官級会合を持っているが、日本とはこのようなパイプがなく、その強化が必要だ。

  7. 将来への課題
  8. 台湾が国内に抱えている課題のひとつは、技術革新である。一般的に台湾企業のR&D経費は少なく、技術開発と技術導入を強化しなければならない。その意味でもぜひ日本企業の投資をお願いしたい。もうひとつは民間投資の促進である。特に製造業への投資は産業構造の転換にとって重要であり、我々も積極的に規制緩和やインフラ整備を進めている。
    台湾は現在、アジア太平洋オペレーションセンター構想を進めているが、わが国には地理的な優位、優秀な人材、豊かな資金、華僑人脈という4つの利点があり、十分この計画を達成することができると考えている。しかし、同時に4つの欠点も克服しなければならない。すなわち、自由化の不足、インフラの不足、低い行政能率、そして微妙な両岸関係である。両岸関係は、投資のみならず、台湾の消費、ひいては経済全体に大きく影響する。確かに1つの中国という難しい原則はあるが、両岸の経済交流はすでに後戻りできないほど緊密である。また、経済交流を通じて中国が豊かになれば、人民は必ず自由を欲しくなるはずだ。中国は台湾の動向に非常に敏感になっているが、我々は本当は統一した平和な中国を望んでいる。まず人民が交流を深め、台湾をよく知ってもらうことが大事だ。

  9. 質疑応答
  10. 経団連側:
    発電所の民営化の話が出たが、原子力発電所を増設する計画はあるのか。
    江経済部長:
    台湾は発電ソースの多元化を図っており、原子力発電は重要だ。現在、第4原子力発電所を計画しているが、第5はまだ考えていない。しかし将来、原子力の比重が高まるのは間違いないだろう。台湾は日本と違って軍事的な脅威があり、自家産ソースに近い原子力は日本よりも重要性が高い。

    経団連側:
    今年の経済成長率はどのぐらいと予測しているか?
    江経済部長:
    6.3%を予測している。輸出に陰りが見えているが、総統就任で新政策が打ち出されれば、民心が安定して民間消費は増えると期待している。

    経団連側:
    公共事業への入札に障害が残っているが、改善の見通しはあるのか。
    江経済部長:
    一部に日本企業への差別待遇が残っているのは事実である。まず強調しておきたいのは、台湾がWTOに加盟できればそれは全て撤廃されるということだ。この意味でも日本の皆様からの働きかけをお願いしたい。また、近年は状況が改善されており、欧米企業だけに限っていた入札も、入札元が必要と判断し、当局の許可を取れば日本企業の入札も認めるようになっているはずだ。


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