インドシナ研究会(座長 荒木正雄氏)/5月14日

ASEAN加盟に向かうカンボジア
−チャム・プラシッド商業大臣と懇談


カンボジアでは、91年10月のパリ和平協定以降、民族和解による平和国家建設に向けた努力が続けられている。93年9月には新憲法が公布され、シアヌーク国王のもとにカンボジア王国として新しいスタートを切った。97年のASEAN正式加盟を目指すカンボジアは、メコン河流域総合開発計画との関係でも今後の動向が注目される。最近のカンボジア情勢やASEAN加盟にかける期待について、チャム・プラシッド商業大臣に聞いた。

チャム・プラシッド商業大臣

  1. 紛争の克服と国家再建
  2. カンボジアはもともと豊かな国であったが、過去20年間の内戦によって荒廃してしまった。特にポル・ポト政権時代の4年間には 300万人が虐殺の対象となり、国民9人のうち3人が殺され、ほとんどの男性や知識人はカンボジアから姿を消した。生き延びるためには国外に逃れるしか方法がなかった。78年12月のベトナム軍の侵攻によって翌年1月にポル・ポト政権が倒れたとき、生き残った知識人の数は64名であった。その後も80年代を通じて、シアヌーク派、ソン・サン派、ポル・ポト派とヘン・サムリン政権との間で紛争が絶えず、国際的にも孤立した状態が続いた。
    91年10月のパリ和平協定が新生カンボジアの国家再建の糸口となった。協定締結に至る過程においては東京でも交渉が行なわれた。93年5月には国連カンボジア暫定機構(UNTAC)の監視のもとで制憲議会選挙が行なわれた。このときは日本からもPKO部隊が派遣された。選挙の結果、連立政権が成立し、カンボジアは立憲君主制の王国として新しく生まれ変わった。
    現在、カンボジア政府には2人の首相(ラナリット第1首相、フン・セン第2首相)が存在する。これは特異な解決策であったが、20年以上も対立関係にあった各派閥間の関係を修復するには、ある程度の時間が必要である。新国家建設に向けた3年間の作業を経て、ようやくカンボジアはひとつになりつつある。

  3. 着実な経済復興
  4. これまでに私は6つの国旗を見てきた。このことだけでもカンボジアの現代史が、いかに激動の歳月であったかがわかる。国家再建に向けて海外から投資を誘致したいと思うが、そのためにはまず国内の政治経済情勢の安定が不可欠である。
    物価上昇率は92年の176.8 %から95年には7.0 %まで低下し、為替相場も現在は1ドル=2,500 リエル程度で安定している。闇レートと公定レートが大幅に乖離していた時期もあったが、一本化に成功した。95年の実質GDP成長率は6.9 %であり、マクロ経済運営の面では過去3年間に大きな成果を上げることができた。
    法制度の整備も迫られているが、人材が不足するなかでの法案作成は至難の技である。社会主義的な法律が一部に残るなか、政府は市場経済化を進めている。

  5. ASEAN加盟と投資環境の整備
  6. カンボジアは1863年にフランスと保護条約を締結し、1887年にはフランス領インドシナ連邦の一構成国として植民地化された。1953年11月に独立した後もフランス系の法制度は残った。カンボジアの知識人はフランス式の教育を受け、フランス語ができるが、近隣諸国では概して英語が通用している。今後カンボジアでは、フランス的な要素にアングロサクソン的な要素を組み合わせることになるため、それだけ余計に時間がかかる。2つの要素をうまく組み合わせることができれば、フランス語圏と英語圏の両方から投資を誘致できるだろうし、カンボジアのひとつの特徴になるかもしれない。
    カンボジアは97年のASEAN加盟を目標にしている。そのための条件整備の一環として私は「フランス系のシステムを思い切って捨て、アングロサクソン系のシステムを確立すべきだ」と提案した。ASEAN諸国と整合性のあるシステムの構築が必要だからである。政府としては、この提案に沿って国内の法制度をアングロサクソン系のものに転換し、97年7月までには関連の法制度を整備する予定である。
    カンボジアは資源には恵まれているが、人口は 997万人(94年)で市場としては限られている。しかし近隣にはベトナムやタイなど大きな市場が存在する。カンボジアは、ASEAN加盟によって巨大な市場に組み込まれることになる。
    94年8月に新しい投資法を制定した。周辺諸国よりも優遇措置が多い。一定の用途に使用される建設資材、生産手段、設備、中間財、原材料、部品については輸入税が免税される。法人税については、天然資源、木材、石油、鉱物、金、宝石の調査・開発に関するものを除き、税率は9%である。しかもプロジェクトの性質や政令で定める政府の優先順位に従って、最長8年間までタックス・ホリデーが適用される。免税措置は利益が発生した年から適用され、損失は5年間の繰越しが可能である。利潤を国内に再投資する場合には、その部分については免税される。投資の配当、利潤の分配については、海外移転、国内分配にかかわらず無税である。送金は自由であり、労働力も安い。カンボジア人の月額賃金は35ドル程度である。

  7. 日本との関係
  8. カンボジアでも日本製品は溢れており、安く売られている。日本からの観光客は増えているが、投資は増えていない。油田開発や木材加工などの分野について、日本企業にも投資を検討してもらいたい。カンボジアが独り立ちするためには、外資を誘致するしかないと思っている。政府としては投資環境整備に最大限の努力をする。リスクの評価に厳しい日本企業が投資してくれれば、大きな吸引力になり、他の国からも投資が増えるだろう。
    カンボジアにとって日本は最大の援助供与国であり、道路、港湾、橋、発電所などインフラ整備の分野で多大な支援を受けている。


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