OECD諮問委員会総会(委員長 行天豊雄氏)/5月28日

閣僚理事会に見るOECDの課題


OECD諮問委員会総会は、95年度事業報告・収支決算、96年度事業計画・収支予算を承認し、行天委員長のBIAC本部副会長就任などを報告した。来賓の野上外務省経済局長からは、5月21、22日に開催されたOECD閣僚理事会における、(1)経済成長と雇用、(2)多角的体制の強化、(3)OECDの将来の3つの主要な議論について説明があった。同局長は、問題が山積するOECDにとって、明確な方向性を打ち出すことが急務であると強調した。

  1. 経済成長と雇用
  2. 今回のOECD閣僚理事会では、欧州全体の失業率が11.4%という状況下で、4月のリール雇用問題閣僚会議を受けて、経済成長と雇用が第1のテーマとされた。経済のグローバル化が進むにつれ、この流れに乗った者と乗れなかった者との二極分化が起こり、社会の一体性が崩壊するという議論が欧州を中心に出てきている。この二極分化は、欧州のみならず米国内にも、全世界的にも存在する。
    この問題への対応には、賃金を抑制し雇用を確保する米国型と、高賃金を維持する反面失業率も高くなるドイツ型という、両極端の例がある。OECDはそのいずれでもない第3の道を探ろうとしているが、欧州において経済成長の維持と財政赤字削減、労働市場の改革を同時に実現し、しかも通貨統合に向けた各国経済の収斂を図ることは容易ではない。
    第3の道として唯一考えられるのは規制制度改革であり、OECDでも日本政府のイニシアチブにより95年から検討を開始しているが、欧州諸国には依然、抵抗が強い。

  3. 多角的体制の強化
  4. 96年12月に予定されている世界貿易機関(WTO)シンガポール閣僚会議については、議論百出したものの、具体的な論点をめぐっては収斂がみられなかった。経済のグローバル化と雇用の関連で、欧州などに貿易と労働基準の問題をWTOで扱おうとする動きがあり、偽装された保護主義とならぬよう注視していく必要がある。一方で、わが国としては、グローバル化の恩恵を受けて発展するアジア諸国に対し、基本的な労働基準について考慮を払うよう働きかけていくべきであろう。

  5. OECDの将来
  6. OECDは長年の24カ国体制から、メキシコ、チェコ、ハンガリーなどを加え、閣僚理事会前日には、ロシアも加盟を申請するなど、ここ数年で30カ国にまで拡大しようとしている。新規加盟国は必ずしもOECDの水準に達していないため、議論の質が低下する懸念がある。また欧州諸国のシェアが高まるにつれ、OECDにおいて欧州の問題を十分に議論できなくなっている。このため日本を含むアジア太平洋諸国は、打ち止め論を主張している。OECDの拡大と深化は今後の重要な課題である。


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