日本・インドネシア経済委員会(委員長 熊谷直彦氏)/5月31日

インドネシアとのパートナーシップ強化に向けて


6月5日〜6日にジャカルタで開催予定の第14回日本・インドネシア合同経済委員会に向けて、日本側代表団結団式を開催した。当日は、通産省の今野秀洋通商政策局経済協力部長より、インドネシアの「国民車構想」をめぐる日イ政府間協議の模様ほかについて説明を聞き、意見交換を行なった。また、インドネシアの経済政策に対する要望書や合同会議の進め方についても検討した。

  1. 今野通産省経済協力部長説明要旨
    1. 日本とインドネシアの関係は、日本からインドネシアへの直接投資の急増を背景に、従前の援助国・被援助国の関係から、よきパートナーシップへと発展しており、APEC、WTOなど多国間の場で両国が協力する傾向が強まっている。とくにAPECは両国が機軸となって、「ボゴール宣言」、「大阪行動指針」が採択され、APECでの自由化が大いに進展してきた。

    2. インドネシアのマクロ経済政策に大きな影響を与えるCGI(インドネシア支援国会合)は、今年は6月19〜20日に開催予定である。現在インドネシア経済は過熱気味で、輸入増により経常収支の赤字が拡大している。インドネシア政府は、この苦境を借款の増額で乗り切りたい意向である。日本にとってインドネシアは最大の円借款供与対象国である。健全な経済運営を求める一方で、そのために必要となるインフラ整備への経済援助をできるだけ行ないたい(具体的な援助額は未定)。

    3. 今年2月28日にインドネシア政府は突然「国民車構想」を発表した。この構想では、税制面の優遇措置を受けられる「パイオニア企業」に認定されるための条件は、(1)100 %国内資本、(2)インドネシア独自ブランド使用、(3)一定の部品調達率の達成 (操業から1年目に20%、2年目に40%、3年目に60%)である。この3条件を満たすパイオニア企業に、大統領の3男が株式の 100%を保有する「ティモール・プトラ・ナショナル社」が認定された。同社は韓国の起亜自動車との合弁会社で委託生産を行なう模様である。当面は設備がないので、起亜自動車からSKD(セミ・ノックダウン)または完成車を輸入し、販売するとの情報もある。

    4. インドネシアの自動車市場は年産約38万台で、日系企業が9割以上のシェアを占める。これは80年代に、インドネシア政府の自動車政策が一貫しないことから、欧米企業が一斉に撤退したためである。

    5. この政策に対し、日本政府は再検討 (reexamine)を求めている。日本政府の基本的な考え方は以下の4点である。第1に、この計画はWTOルールに違反する。WTOの定める「内国民待遇」や「最恵国待遇」に反する。さらには、国内部品調達の規則に関するTRIM(貿易関連投資措置)違反でもある。このまま放置しておくと、発足したばかりのWTOが骨抜きになってしまう恐れがある。
      第2に、この計画はAPECの精神・原則にも反する。「大阪行動指針」には透明性や無差別性の原則が謳われている。APECの推進役を果たしてきたインドネシアが、この原則に反する政策をとれば、APECの信用が失われることになる。
      第3に、インドネシア政府が94年以来続けてきた自由化政策に反する。これまで規制緩和が大成功し、インドネシア向け投資は急増しているが、今後とも高成長を持続するためには、外資の導入が不可欠である。
      第4に、日系企業の今後の投資行動に影響が出る恐れがある。日本企業は他国の外資系企業が撤退する中、インドネシアの国産化政策に沿うよう協力してきたが、その日系企業が不利益を被るのは不公平である。

    6. 日本政府としては、高飛車な態度と取られる言動は避け、極力丁寧に条理を尽くして話をするが、この問題をマージナルなものにしないよう注意したいと考えている。日米自動車交渉の際、日本政府はWTOのルールに則った対応をとるとして、米国の求めた数値目標の設定をはねつけた経緯があり、本件についても、WTOルールに則った解決を図りたい。そうでないと、日米、日欧関係にも影響が出る恐れがある。

    7. 具体的には、大臣レベルでの合意を受けて、第1回事務レベル協議を4月29〜30日にジャカルタで開催した。このとき日本側の基本的な考え方を示し、先方は2国間で解決したい(WTOでは争いたくない)との意向を表明した。ただ、これまで大統領令が覆ったことは皆無なので、運用面で工夫したいとのことだった。既成事実が積み上げられないよう、問題解決まで、完成車を輸入・販売しないよう申し入れている(それが守られない場合、WTOの手続きを踏んで進めるという考えを伝えてある)。

  2. 懇 談
  3. 経団連側:
    合同会議で自動車の話をする際、何か気をつけるべきことがあるか。
    今野経済協力部長:
    「国民車計画」という表現は、国民車を容認するようで好ましい言い方ではない。インドネシアが国民車をつくること自体に、日本が文句を言っているととられると困る。安価な車を国民に提供するという政策の趣旨は理解できる。日本から見て困るのは、特定の会社だけが優遇措置によりSKDや完成車を輸入するという差別的で不公平な政策が取られることであり、この点の再検討を求めている。

    経団連側:
    マレーシアの国民車計画との違いは何か。
    今野経済協力部長:
    マレーシアはゼロから出発しており、国民車計画の影響はなかった。インドネシアは年産38万台の規模の市場があるので、突然今回のような政策が発表されると、影響は大きい。しかも、マレーシアが計画を始めたときにWTOは存在しなかった。インドネシアはWTO発足後間もない時期に、WTOの精神・ルールに反する政策を発表したことになる。
    マレーシアの国民車政策は、あまり成功しているとは言えない。東南アジアの自動車市場の規模は全体で100 万台(インドネシア30万台、タイ50万台、マレーシア20万台)だが、自動車政策に関して最も成功しているのは、一番自由度の高いタイである。


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