農政問題委員会農政部会(部会長 山崎誠三氏)/5月14日

農協制度の現状と問題点、制度改革の方向


政府の農政審議会は、本年2月に農協部会を設置し、農協制度のあり方に関する検討に着手した。農協のあり方は、いわゆる住専問題の処理にとどまらず今後の農政の枠組みの根幹にかかわる問題であり、今後検討が予定されている、現行農業基本法に替わる新たな「基本法」のあり方にも大きな影響をおよぼすことが予想される。そこで農政問題委員会農政部会では、農協問題に造詣の深い(財)日本農業研究所の佐伯尚美研究員より、農協の現状と問題点、制度改革の方向などにつき説明を受けるとともに意見交換を行なった。

  1. 佐伯研究員説明要旨
    1. 農協の特徴と変質
      1. わが国の農協制度は、
        1. 地域連帯性と地域独占、
        2. 総合経営(農産物の集荷・販売・購買、信用・共済事業等)、
        3. 系統3段階制(市町村段階では総合経営の単位農協を末端とし、上部団体は事業ごとに都道府県・全国単位で構成)、
        4. 政治依存性
        という特徴を有している。

      2. しかしながら、
        1. 兼業化の進展などによる地域連帯性の弛緩、
        2. 非農業的な利用が進んだ信用・共済事業と、少数の専業的農家にますます集約されていく販売・営農指導事業の間の矛盾の拡大、
        3. 金融自由化、流通合理化など事業環境の変化による3段階制の非合理性の顕在化、
        4. 規制緩和の進展等による政治依存のメリットの減少、
        など農協の特徴は変質しつつある。

    2. 農協事業の停滞と経営の悪化
      1. 農協事業は、昭和40年代後半まで順調に伸長してきたが、昭和50年代になると停滞の兆しが見え始め、現在では事業取扱高の伸び率の鈍化、農村における取扱いシェアの減少傾向などがはっきりしてきている。

      2. とりわけ信用事業の経営悪化は著しい。従来、農協は信用事業の黒字で他の事業部門の赤字を補ってきた。しかしながら金融自由化の影響や運用リスクの高い有価証券投資への傾斜などにより、信用事業の収益は悪化し、他部門の赤字を補いきれなくなってきている。将来的には信用事業そのものの黒字確保も困難になる可能性がある。加えて、今般の住専処理により、特に都道府県単位の信連のさらなる収益悪化が予想され、単位農協(単協)に対する影響も不可避と思われる。

    3. 制度改革の方向―信用事業を中心に―
      1. 政府の農政審議会農協部会における検討の柱のひとつは、農林中央金庫(信用事業の全国団体)と信連の合併による2段階制への移行である。既に91年10月には、農協の総合審議会がすべての事業を原則として二段階制に移行することを決定しており、都道府県ごとに再編の実施案が策定されている。しかしながら実際には再編は進んでいないのが実態である。

      2. いずれにせよ、農林中金は信連に比較して経営も安定しており、資金運用ノウハウの蓄積もあることから、2段階制への移行それ自体は基本的には望ましい方向である。しかしながら、農協全体の将来ビジョンを描かずして2段階制のみを論じても農協問題は解決しない。系統金融の貯貸率は単協で26.9%、信連で11.7%と他の信用機関に比較して格段に低く、構造的な資金過剰の状態にある。このことが系統金融の最大の問題なのである。

      3. したがって、系統金融を中心とした制度改革については、次の点に留意しつつ進めていくことが重要である。

      4. 第1は非農業者である消費者や中小企業まで包摂した地域組合化の道を検討すべきであるという点である。既に非農業者(准組合員)の農協利用は組織の意思決定への参加を排除したまま進められており、准組合員比率は全組合員の40%近くに増加している。このような実態に鑑み、非農業者にも農業者と同等の権限を与え、地域組合としての存続の道を模索すべきではないか。

      5. 第2に総合経営方式を見直し、信用事業とその他の事業を切り離して個々の事業の効率化・専門化を図るべきである。

      6. 第3に、長期的には1県1組合制も検討する必要がある。資金運用については、ノウハウを持つ人材の育成が必要となり、零細な単協レベルでは対応困難である。したがって資金運用は県単位で人材を育成して行ない、単協は貯金業務等に特化するのが望ましい。

      7. 以上については、全国画一的に制度改革を論ずるべきでなく、地域の事情や事業の特性に応じた多様な対応策を模索していく必要がある。

  2. 質疑応答
  3. 経団連:
    農協の資金過剰の原因は、本来の農協の融資先であるべき農業部門の経営体としての脆弱性にあるのではないか。
    佐伯研究員:
    農協の農業関連融資が縮小した背景には、農業者が農業に対する長期投資を行なわなくなったこともあるが、農林漁業金融公庫が行なう融資が農協の融資先を奪っている面もある。
    ただ資金過剰の最大の原因は、新たな融資先の開拓に農協が積極的に取り組んでこなかったことである。

    経団連:
    2段階制への移行によりかえってコストが高くつくことはないのか。
    佐伯研究員:
    農林中金は信連の合併に当たり人員削減などの条件を提示することになろう。最終的には信連を救済せざるを得ないとしても、かなりのリストラが求められよう。その内容は個別の交渉に基づき決定される。

    経団連:
    営農指導事業といった農協本来の業務はどうなるのか。
    佐伯研究員:
    信用事業が分離された後、農業関連業務は専業的農家を構成員とする専門農協に近い形態として存続していくと思われる。ただし、稲作を中心とした兼業農家もある程度組織化する必要があり、これをどのようにして行なうかについては今後の課題となろう。


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