国際文化交流委員会企画部会(部会長 高橋 平氏)/5月16日

わが国とベトナムとの文化交流の現状と課題について聞く


国際文化交流委員会(委員長代行 日枝フジテレビジョン社長)では、現在タイ、マレイシア、インドネシア、フィリピン、シンガポールを対象とした文化交流プロジェクトを実施している。本委員会の下部組織である企画部会では、新しくベトナムを対象国とした文化交流プロジェクトの実施可能性を検討するため、5月16日に会合を開催し、横浜市立大学の白石昌也教授から標記課題について説明を受けるとともに、意見交換を行なった。

高橋部会長

  1. 白石教授説明要旨
    1. ベトナムの文化的風土
      1. ベトナムは、人口全体の約90%がキン(京)族であり、残りは50余りの少数民族という構成になっている。歴史的には、100年以上の植民地支配によるフランスの影響、旧ソ連・東欧へのベトナム人の留学による文化的影響の他に、ベトナム南部におけるアメリカ文化の浸透もある。こうした伝統的民族文化、少数民族文化、西洋的近代文化の影響がベトナム独自の折衷・融合型文化を生み出している。

      2. ベトナム政府は第6回党大会(86年)を契機に、経済の刷新運動と対外開放政策を目指したドイモイ政策を展開している。文化政策については、ベトナム国民の知識の向上、人材育成、技術・管理ノウハウの刷新を目標に、文化の奨励・発展を積極的に推進するとともに、外国文化の流入に対する統制・管理を行なっている。

      3. ベトナムの現状としては、文化および教育の自由化が進んでいる。ベトナム国民の間では、伝統的・古典的な文化よりも新しい芸術や文化に対するニーズが高まっている。かつては、文化交流の対象国は旧ソ連・東欧諸国が中心であったが、近年は西側諸国との文化交流が急速に拡大している。また、ベトナムの国立大学の授業料の有料化が進み、コンピューターや外国語の専門学科を置く私立大学の設立が進んでいる。

    2. ベトナムとの文化交流の現状と課題
      1. 日本の外務省は、ベトナムに対して、年間約5,000万円ほどの文化支援(体操器具、楽器、アニメスタジオ、LL機材の無償提供)を行なっている。また、国際交流基金は日本研究拠点助成、日本語講師訓練などを実施し、JICAは青年協力隊(日本語講師)の派遣、メコン・デルタ地域における大学の農学部への支援などを行なっている。

      2. 民間レベルでは、トヨタ財団が日本語出版物のベトナム語翻訳への助成、住友財団の日本研究助成、日越文化協会や日越文化交流協会が日本語教育支援、JVC(日本国際ボランティアセンター)が帰還難民の社会復帰支援を行なっている。NHKはテレビ番組の放映(おしん)、出版会社は奨学金の支給などを行なっている。

      3. わが国とベトナムとの経済関係の発展に伴い、文化面での交流の重要性が増している。近年、こうした交流を支える人材不足が顕在化しているとともに、ベトナム側から日本は経済関係に偏重しすぎるとの批判も出てきている。
        かかる状況から、ベトナムに対する文化交流への支援を一層充実すべきである。例えば、文化的危機に直面しているベトナム少数民族を対象とした奨学金制度の設立、日本語を学んでいる教師などを対象とした日本招聘事業の実施、日本語スピーチコンテストの開催、日本語定期刊行物の贈呈、国家社会・人文科学センターの「日本研究センター」への支援などを実施することにより、日本とベトナムとの友好関係を着実に築き上げることができる。

  2. 意見交換
  3. 経団連:
    ベトナム人の諸外国に対する印象はどうか。
    白石教授:
    ベトナム人は急速にアメリカ文化に染まりつつある。特に、昨年ベトナムがアセアンに加盟したことにより、共通語としての英語が普及しつつある。
    ただし、ベトナムが目指しているのは完全な欧米化ではない。ベトナム独自の経済発展を目指しており、また日本の経済発展をモデルにしている。

    経団連:
    ベトナムの教育レベルはどうか。
    白石教授:
    ベトナムの教育レベルは高い。ベトナム人の識字率は約90%と高く、普通は小学校5年過程の最初の2〜3年で読解ができるようになる。ただし、依然として少数民族の中には文盲の人が多い。
    大学レベルでは、オープン大学、放送大学、通信教育など、社会人が入学できるような進んだ制度もある。ハノイとホーチンミンにおいて私立大学ができており、そこの外国語で最も人気あるのは英語で、その次に日本語である。しかし、そこの日本語教師のレベルは低く、質の高い日本語教師が求められている。

    ベトナムとその周辺地域

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