日本・香港経済委員会(委員長 秋山富一氏)/6月5日

香港の中国返還をめぐって中国国務院の魯平香港・マカオ弁公室主任と懇談


香港の中国への返還を97年7月に控え、中英両国政府間の話し合いは大詰めの段階を迎えている。現在、香港では約2000社の日系企業が事業を展開し、約70の邦銀がオフィスを構え、約2万人の日本人が香港で生活するなど、香港と日本との関係は深い。香港問題の中国側の実質的な責任者であり、返還準備委員会の副主任兼秘書長である魯平香港・マカオ弁公室主任から、香港の返還問題に対する中国政府の考え方と取り組みについて聞いた。

魯平主任(左)と秋山委員長(右)

  1. 高度な自治権を維持する香港
  2. 香港の中国への返還を世界中が注目している。97年7月以降、香港がどうなるかが頻繁に議論されており、中国政府としてもこの問題に答える責任がある。
    84年12月に中国と英国は「共同声明」に調印し、97年7月1日に中国は香港の主権を回復することになった。中国政府は「一国二制度」によって香港の資本主義体制を返還後50年間にわたり維持する。この原則は「基本法」にも規定されており、香港は特別行政区として、外交や国防の分野を除き、高度な自治権を保持する。また、「港人治港」の原則によって、香港人による香港統治が継続され、香港の社会制度、生活環境は変わらない。香港は独立した関税区、国際的な金融センターであり続け、外為、金、証券、先物などの市場は現状を維持し、資本の出入りも自由である。香港は財政的にも独立しており、中央政府の課税権は及ばない。香港は独自に外国や国際組織との間で経済的、文化的な関係を発展させることができる。香港の治安は、特別行政区の政府によって維持されることになる。

  3. 香港の強み
  4. 香港問題に対する中国政府の基本的な方針は、香港の金融、貿易センターとしての地位を保つことにある。共同声明の調印以後、世界経済が低迷するなかでも香港経済は成長を続けた。「一国二制度」は、香港の将来に対する投資家の不安を払拭するのに役立った。
    香港経済の成功の要因について、中国は研究を続けてきた。その結果、香港は東南アジアに近いことが有利に作用しているものと考えられる。香港には資源はないが、安価な労働力を中国から調達し、コスト削減に成功している。このような香港の強みは返還以後も変わらないだろう。
    香港ドルは米ドルに対して、1米ドル=約7.8香港ドルでリンクしている。米ドル安に伴い、香港ドルが下落しても、香港ではインフレは発生しない。生活必需品と安価な労働力が中国から香港に入ってきているからである。米ドルとのリンクは、香港ドルの安定に役立ってきた。返還以後、このリンク制をどうするかは、香港特別行政区が独自に決めれば良い。

  5. 香港と中国との経済関係
  6. 香港のメーカーは、中国で500万人を雇用しており、珠江デルタでは300万人が3万社の香港企業で働いている。香港の発展は「前に店、後ろに工場」という立地条件に支えられているとも言える。中国政府は、香港との間の貨物輸送の税関を24時間体制で開くようにした。香港は多国籍企業にとって理想的なビジネス環境を提供しており、中国企業にとっても香港は西側世界への窓口になっている。返還以後、香港と中国との関係は一層密接になるだろう。
    これまで香港は、貿易、金融、運輸、観光の国際センターとしての地位を高めてきた。95年末までに香港で認可を受けている銀行は185行、世界のベスト100の銀行のうち、85行までが香港で営業している。外資系の金融機関の数は、ロンドン、ニューヨークに次いで世界第3位であり、また香港は外為市場としても世界第5位の取引量を誇る。香港でのコンテナ取扱量は4年連続で世界第1である。香港の人口は600万人だが、95年には1,020万人が香港を訪れている。
    返還以後もこのような香港の地位は保たれる。中国の中央銀行は、香港の金融政策に干渉しない。香港では香港ドルが流通し、人民元との交換レートは市場で決定される。返還以後、香港は貿易、金融、関税などに関する政策を独自に決定する。中国の経済発展計画にとって香港の国際センターとしての役割は重要である。

  7. 香港のビジネス環境
  8. 香港には世界でも唯一無二の自由貿易港としての歴史がある。酒、タバコ、ガソリンなどを除き、基本的に輸入品には関税はかけられていない。香港製品の90%は海外向けであり、香港の市場は世界に開放されている。香港は、返還以後も自由貿易港としての地位を保ち続ける。香港経済の自由度は世界最高の水準にあり、政府の介入は長年にわたって最小限に止められてきた。基本法に基づき中国政府は外国資本と現地資本が平等に競争できるようにする。香港では内外無差別の待遇を用意している。
    香港は法制度が整備されており、出来ることと出来ないこととの区分が明確である。香港の現行の法律や条例などは、返還以降も引き続き適用され、外国投資を保護する法律も変わらず、中国からの投資にも同様に適用される。香港には最終裁判権があり、司法制度もそのまま残る。返還以後も香港の法環境は継続され、返還の前に有効であった契約、権利、義務は、基本法のもので存続が保障される。
    香港は世界中から資本が集まっている都市である。投資環境を一層発展させるためには、香港と世界との密接な経済関係の維持が不可欠である。経済、貿易、金融、運輸、文化、スポーツなどの分野では、「中国香港」の名義によって、関連の協定を履行する。中国が加盟していないものであっても、香港には引き続き適用される。
    香港の18万人の公務員は返還以後も職に留まることができる。基本法のもとで、言論、出版、集会、報道の自由も保障される。


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