経団連くりっぷ No.36 (1996年 7月11日)

日本・香港経済委員会総会(委員長 秋山富一氏)/6月10日

アジアにおける香港企業との戦略的連携の長所


97年7月の香港の中国返還まで1年余りとなり、返還に向けた準備作業が山場を迎えるなか、香港と華南地域との経済的な関係は一段と緊密化している。香港企業は、日本企業などの多国籍企業との連携を深めるとともに、中国とのビジネス関係のなかで仲介役としての役割を果たそうと努力している。香港貿易発展局のビクター・ファン会長から、香港を取り巻く経済関係やアジア・ビジネスにおける香港企業の将来性などについて聞いた。

ビクター・ファン会長

  1. 香港の将来
  2. 香港の将来を悲観視する報道があるが、基本的なことに触れていないものがほとんどである。多くの香港人は香港の将来を楽観している。香港経済は順調に推移しており、今年も5%程度の成長が見込まれている。香港は国際的なビジネス・センターとして活況を呈しており、このような香港の活力は今後とも継続するだろう。経済活動に問題がなければ、その他の課題も容易に解決できると思う。
    香港は多様性に富んだ社会であり、いろいろな意見が共存している。しかし、偏った報道によって、国際社会のなかで香港が誤解されるようなことは避けなければならない。香港が持つ長所と短所を正確に理解してほしいと思う。
    香港には、提携相手として相応しい優れた企業が多く存在し、アジア太平洋地域で香港ほどビジネスに適した場所は他にはないと思う。香港のサービス経済は厚みを持っており、金融、運輸、観光、通信、情報サービスなど多岐にわたる。香港に拠点を置くことで、東アジア地域で広範囲にビジネスを展開できる。

  3. 対外直接投資の拠点としての香港
  4. 国連の報告では、香港は90年代を通じて、対外直接投資の分野で米国、英国、フランスに次いで世界第4位になると指摘されている。94年の香港の対外直接投資額は210 億ドルであり、日本、ドイツを上回った。対中国投資の3分の2は香港からのものである。ASEANやNIES向け投資、また米国、カナダを含むAPEC域内の投資でも、香港は主要な地位を占めている。
    このように香港が直接投資の分野で世界第4位になる理由としては、(1)香港は、海外事業展開をする際の拠点となっており、香港企業だけでなく、多くの多国籍企業が香港経由で世界中に投資していること、(2)これまで香港のメーカーは工場を域内各地に分散させてきたことなどがある。
    香港からの投資のなかには、香港企業や中国企業だけでなく、欧米企業やインドネシア、マレーシア、タイの企業などによるものも含まれている。また香港には約2,000 社の日系企業が進出している。

  5. 香港企業の海外事業展開
  6. 香港のメーカーは製造拠点の分散化を進めてきた。79年以降の中国での改革開放路線に伴い、労働集約的で広大な土地を必要とする部門を華南地域に移転し、競争力の強化に努めてきた。香港には、付加価値の高い部門が残り、主としてサービス産業が発展してきた。現在、9割の香港企業が海外でビジネスを展開しており、華南地域には5万社の香港企業が進出している。香港企業は中国で10万人を雇用している。
    香港企業が域内各地に事業活動を分散してきたもうひとつの理由は、中国に対する米国の最恵国待遇が不安定であったからである。対米国輸出については、中国から輸出するだけでは不安が残る。また米国の輸入業者も中国だけを調達先にすることを避けてきた。
    さらに、繊維製品に対する世界的な割当規制の拡大も、香港のアパレル・メーカーを分散化させた要因のひとつである。割当規制が適用されない地域に工場を分散し、規制を回避しながら、欧米の市場に輸出する必要があったからである。3万5,000 社の香港のアパレル関連企業のうち55%は1カ国以上に工場を持っている。このような傾向は、玩具、エレクトロニクスなど、その他の消費財企業にも見られる。

  7. 香港企業の強み
  8. 95年版「国際競争力レポート」は、外国企業との戦略的提携の長所の面で香港を世界第1位に位置づけている。香港のメーカーが各地に工場を分散していることは、戦略拠点としての香港にとって重要な意味を持っている。香港企業は中国だけでなく、東南アジア各地でもビジネスの経験を重ねてきた。香港企業は、労働力の確保や資金調達を進めるうえで、提携相手の企業に対して有益なノウハウを提供できる。これは他の国の企業とは比べられない香港企業の強みである。
    さらに、インフラ関連プロジェクトを進める際にも、香港企業は中心的な役割を果たすことができる。アジア、特に東南アジアや中国ではインフラ整備が求められている。世界銀行は、今後10年間にアジアのインフラ整備に要する資金は2兆ドルになると指摘している。香港企業は、インフラ・プロジェクトを取り纏め、推進するだけの能力を持っている。
    香港で徴収された税は香港のために使われる。香港人は、香港の発展は税制によると認識している。返還以降も香港の現行の税制は維持されるだろう。中国も香港の税制の長所を認識している。

  9. 香港の重要性と中台関係
  10. 世界経済における香港の重要性に鑑み、中国も香港の発展を望んでいる。84年以降、香港は衰退すると言われたが、実際にはその後も5%程度の成長を続けた。仮に香港で報道の自由が制限されても、香港は中国の重要な都市であることに変わりはない。
    中国と台湾との関係は、この地域の不安定要因のひとつだが、いずれ直接的な対話が行なわれるだろう。中国と台湾との直接的な経済関係が形成されるようになると、香港企業のビジネス・チャンスは減少するだろうが、中台関係の好転によりアジア全体の雰囲気が良くなれば、逆にビジネス・チャンスが増えることも予想される。中台関係の改善を歓迎する。


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