経団連くりっぷ No.36 (1996年 7月11日)

国際協力プロジェクト推進協議会(会長 春名和雄氏)/6月25日

わが国ODAの今後について


国際協力プロジェクト推進協議会では、6月25日、第7回定時総会を開催し、1995年度事業報告・収支決算ならびに、1996年度事業計画・収支予算につき審議・承認した。
また総会の後、慶応大学総合政策学部の草野厚教授より、「わが国ODAの今後」について説明を聞いた。以下はその概要である。

草野教授

  1. わが国ODAの分析
  2. わが国のODAについてはマスメディア、一部学者を中心に、途上国の民生に役立っていないのではないかなどの批判が絶えない。一方、湾岸戦争を契機に国際協力あるいはODAに対する国民の関心は高まりつつあり、国会においても新進党によるODA基本法案の提案など、その動きも大きく様変わりしつつある。

    1. わが国ODAの現状について
    2. わが国ODAは無償資金協力や技術協力の2国間贈与ならびにその大部分を円借款が占める2国間政府借款等からなり、DAC(開発援助委員会)21カ国の中でも最も多様なメニューをもっていると言える。しかしながら、三者の連携が必ずしもうまくいっているわけではない。タイのように人材交流等ソフト面の支援を含めて、円借と技術協力との連携が非常にうまくいったケースもあるが、最近の円借大型プロジェクトに見られるように、民間部門も事業に加わっているため、これらメニューが複雑さを増しており、相互に連携を図ることがますます困難になっている。今後、援助を総合的に調整しつつ実施していくための司令塔的役割が必要とされる。さらにわが国ODAの問題点として、大型プロジェクトの実施の際、途上国政府や関係者と話し合いながら進めているものの、住民移転や環境破壊の問題などが生じており、十分満足のいく結果が得られていないケースもある。

    3. 日本のODA大綱
    4. 1993年に海部内閣でODA大綱が閣議決定され、ODA実施にあたっての諸原則が定められたが、原則をすべて一律に満たすことは非常に難しい。個人的には途上国が経済的に離陸を果たすまでは、過渡的な措置として専制主義的、独裁主義的な国家に対して援助を実施することもやむを得ないと考えている。一例として本年5月にミャンマーを訪問、アウンサン・スーチー女史と会った折、日本のODAについて批判をうけたが、1988年の政変以来、事実上中断している空港円借款プロジェクトについては早急に再開すべきであると考える。実際、量的な検証は困難であるが、東アジアでは経済成長に伴い、参政者が増え、議会選挙のあり方が変化するなど、10年、20年前に比べ、民主化が促進された国々も見受けられる。
      このような状況を踏まえ、日本のODA大綱を変更する必要がある。まず第一に大綱の原則の中に、2国間関係を最重視すべきと定めることである。現在の大綱にも原則の前文に相手国の要請、経済社会状況、2国間関係等を総合的に判断の上とあるが、経済、外交、歴史等の観点を考慮に入れ、もう少し2国間関係を重視すべきと考える。

  3. 援助を考える2つの需要な要素
    1. 国際環境の動向
    2. 2015年には地球の人口は80億人から90億人に達し、内80%の人々が引き続き途上国にあると言われている。OECDのDACの戦略報告で次のようなメッセージが採択されているが、これは極めて画期的なことであり、日本の意向がかなり反映されている。援助国に対して「途上国の開発は先進国の国民生活にも重要な影響を及ぼす。したがって先進国の開発協力の強化が必要である」と訴えている。一方、被援助国に対しては、「開発の主要な責任は途上国自身にあり、まず自助努力が不可欠である」と。さらに、双方に対して、「責任を分担しつつ協力する新たなグローバルパートナーシップ」を提案している。即ち、これは開発の成果について数値目標を掲げようということである。この点については欧米諸国が反対したが、日本が強硬に主張し、組み入れたものである。具体的には、第1に貧困人口の割合を2015年までに半減すること。第2に初等教育の普遍化等、社会的開発を促進すること。そして第3には森林、水資源等の環境破壊の傾向を2015年までに逆転させることである。

    3. 国内環境の動向
    4. 今般、消費税の3%から5%への引き上げが閣議決定されたが、今後法的介護制度の導入に伴いさらなる税率のアップも予想される状況下では、もはやODAも聖域ではなく、円借款の効率的な運用が求められている。おしなべて一般国民の認識は、「国際協力は積極的に実施すべきであるが、無駄遣いは許せない。本当に貧しい人を救う目的で使用するのであれば多少の出費もやむをえない。援助は人道援助、人作りなど、目に見える形で行なうべきである。ODAが日本企業を儲けさせるようなことがあってはならない」というものである。

  4. わが国ODAの今後
  5. 円借款の対象国は返済可能なアジア諸国が中心であり、これでは貧しい国々を支援するといった援助目的に合っていない。円借の中身が高度になって、貸付条件が高くなればなるほど、アフリカ諸国はますます発展からとり残されることになる。
    このような状況を踏まえ、今後はアジア諸国のように返済が可能な国々に対しては、民間の補完を中心とした円借をつけ、しかも規模を小さくして、人材育成の分野を主な対象にしてはいかがであろうか。一方、アフリカなどの途上国にはもっと条件の緩い第2世銀的な貸付を行なってはいかがであろうか。また、経済インフラへの無償資金の利用を検討する必要があるのではないか。


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