経団連くりっぷ No.37 (1996年 7月25日)

第543回常任理事会/7月2日

首都機能移転ならびに、企業の危機管理について講演


第543回常任理事会では、自民党の西田司・行政組織首都機能移転委員長から「首都機能移転」について、また、歌田勝弘・日本在外企業協会会長(評議員会副議長)から「企業の危機管理」について講演があった。また、企業人政治フォーラムの発足に伴い、川勝・同フォーラム会長から常任理事に対して、フォーラムへの積極的参加の呼びかけがあった。

  1. 首都機能移転について
  2. (西田 司 自民党行政組織首都機能移転委員長・衆議院議員)

    1. 経緯
    2. 東京一極集中問題は、三全総(1977年)および四全総(87年)で突っ込んだ検討が行なわれてきた。経団連からも東京一極集中の是正(93年)、首都機能移転の早期実現(95年)と2度にわたり提言をいただいた。他方、国会では1990年に、共産党を除く与野党が一致して国会等の移転に関する国会決議を行ない、さらに、92年、議員立法により「国会等の移転に関する法律」を制定した。同法に基づいて国会等移転調査会(会長 宇野関経連前会長)は95年12月に最終報告を出した。さらに、去る1月には与党三党合意で首都機能移転の推進を確認した。こうした経緯を踏まえ、今般、「国会等の移転に関する法律」の改正を行なった。

    3. 国会等移転法改正の要点
    4. 今回の法改正の主な点は次の通りである。

      1. 西暦2000年までに新都市の建設着工、2010年に新都市において第1回国会開会とのスケジュールに沿って移転を推進するため、宇野調査会で決められた選定基準(災害への強度、交通アクセス等)に基づいて、候補地を中立・公正な立場から選定すべく国会等移転審議会を設置することとした。
      2. 審議会が答申する候補地の中から実際の移転先を決めるにあたっては、国民投票や総理大臣が決めるという意見もあったが、最終的には国会で決めることとした。
      3. 従来、本件の事務局は国土庁であったが内閣が総力を挙げて取り組むという趣旨で内閣官房副長官を責任者とした。
      4. なお、「首都」を移転するのか、あるいは「遷都」かという疑問が出されたが、あくまで国会等の移転であって、首都の移転ましてや遷都という考えはまったくない。
      5. また、東京は江戸開府以来、経済、政治、文化の蓄積があるが、過密、地震への対応等の課題がある。改正法第22条で、移転先候補地が答申された後、これと東京都とを比較することとしているが、同時に、第1条に国会等の「東京圏以外」への移転について検討していくことが明記されており、第22条は首都機能移転の後退を意味するものではない。

    5. 今後の展望
    6. 審議会委員の選定は国会の同意が必要であるため、秋の臨時国会で同意を得て、早急に審議会の活動を開始する必要がある。
      行革・規制緩和、地方分権と、国政全般の考え方全体を大きく変えていく時代にあって、首都機能移転を契機として人心を一新し、これら諸改革を進めていきたい。
      なお、財源については、14〜15兆円という数字があるが、20〜30年を要するプロジェクトである。かかる長期間のうちに、それだけの資金も費やせないようでは、日本の将来はないものと考える。
      こうした大事業を進めていく上で、内閣・行政が総力を挙げるのは勿論、首相がこれを天命として勇気と情熱をもって取り組んでいくと共に、国民の合意が不可欠である。

  3. 企業の危機管理について
  4. (歌田勝弘 日本在外企業協会会長)

    1. はじめに
    2. 当協会は、企業活動の国際化に伴う投資摩擦に対応して策定された「海外投資行動指針」を普及すべく1974年に経団連はじめ経済6団体により設立された。最近海外において企業がさまざまなリスクに直面しており、企業の危機管理にも鋭意取り組んでいる。

    3. 企業の海外安全対策について
    4. 全般的に治安が悪化する中で、海外駐在員・家族、出張者を内乱・テロ、誘拐等の犯罪から守るにはどうすべきか。90年の湾岸危機に際し長期間拘束され、無事帰国した多数の駐在員から国、企業、個人の安全対策に関する提言をいただき、「湾岸危機を契機とする緊急提言」として各方面に訴えたが、企業の対応としては次の5項目がある。
      1. 危機管理に関する基本理念・方針の確立
      2. 危機管理担当役員・部署等、専門組織の確立と予算の確保
      3. 自己防衛体制の確立
      4. 従業員と家族に対する安全教育・訓練
      5. 海外人事政策の見直し

    5. 国際経営における危機管理の重要性
    6. このところ海外において、製造物賠償責任(P/L)、雇用機会均等法、知的所有権法、アンチ・ダンピング法、社内不正取引等にかかわる訴訟等が多発し、これに対する危機管理のあり方も問われている。特に問題となっているのが、セクシュアル・ハラスメントであり、先般も在米日系企業が連邦政府機関である雇用機会均等委員会(EEOC)から史上最高額の賠償額と見られるセクハラ訴訟を提起されている。
      セクハラは、現代アメリカにおける最大の職場のリスク管理問題である。個人間のトラブルを放置した職場管理者、ひいては経営の管理責任が厳しく問われている。元は雇用条件と引替えに性的な要求することだったが、人権運動の高まりに伴い広く解釈され、職場での卑猥なジョーク、落書き、出版物等が問題とされる。日本から週刊誌を送る場合も、ヌード写真を含むものを職場に持ち込まないよう注意すべきだ。
      現地で事業活動を行なう以上、文化の相違と片づけず、現地の考え方に合わせた対策をとるのが当然である。また、労務管理を現地スタッフに任せきりにせず、定期的に報告を受けるべきである。
      危機は予見し回避するのが上策であるが、いざ危機に直面したときには被害を最小限にくい止める必要がある。経営トップおよび関係部門の責任者は、状況を正しく把握し対応策を迅速に決断すること。初期対応の重要性に鑑み、日頃から危機における広報のあり方について準備しておくべきである。


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