経団連くりっぷ No.37 (1996年 7月25日)

金融制度常任委員会(委員長 樋口廣太郎氏)/7月8日

リヨン・サミットの模様について加藤大蔵省財務官と懇談


金融制度委員会では、常任委員会を開催し、加藤大蔵省財務官より、6月27日、28日に開催されたリヨン・サミットの模様について、説明を聞くとともに、意見交換を行なった。

樋口委員長

  1. 加藤財務官説明要旨
    1. リヨン・サミットの特徴は、政治問題のウエイトが高かったことである。その理由としては、
      1. G7の経済状況にかなり明るい展望が広がる一方、為替相場が落ちつくなど、経済面では追い風が吹いていること、
      2. ロシアの大統領選の最中で、エリツィン大統領をバックアップする必要があったこと、
      3. ボスニア・ヘルツェゴビナ問題が依然として予断を許さないこと、
      4. 会議直前にサウジアラビアの米軍施設への爆弾テロが起きたこと
      などが挙げられる。

    2. OECDの見通しでは、96年下期から仏、独の景気も回復し、97年にはG7すべてで2%を上回る成長が見込まれている。また、日本の経常黒字や米国の経常赤字の収縮が見込まれるなど、G7のマクロ経済は概ね順調である。ただし、財政赤字や失業など、依然として困難な問題も残されている。特に雇用問題については、EUが強い関心をもっている。今後、日本で雇用関係の会合を開催し、生涯学習や高齢者の雇用などの雇用問題について、さらに深く検討する予定である。
      また、高齢化の進展も、G7の共通の問題であり、給付と負担のバランスをとりながら、社会保障制度を継続可能なものにする必要があるとの決意が表明された。

    3. 今回のサミットでは、特に国際通貨制度改革に関する議論は行なわれなかった。情報が発展し、国際化が進んでいる中、バンドやターゲット・ゾーンを設けることは、為替が安定するメリットよりも、投機の対象になるマイナスが大きいとの考え方がG7に広がっている。また、金融市場でのリスク管理問題について、G7蔵相の意見をまとめ、来年のサミットで報告することになった。市場の管理、当局への報告の整備、当局間の情報交換の緊密化の必要性などについて報告することになろう。

    4. 蔵相会議では、電子マネーの問題が、今後の大きな課題として、取り上げられた。電子マネーについては、例えば、(1)取引の安全性確保、(2)マネーロンダリングへの対応、(3)税の捕捉、などの論点がある。ただ、電子マネー取引にブレーキをかけるのではなく、問題点を前広に検討していく必要があるとの考え方は、G7当局に共通している。いずれ、G7かG10の場で、電子マネーが議題として取り上げられると思われる。

  2. 懇談
  3. 経団連側:
    米国の対外債務が増大しているが、国際経済へ悪影響を与えないか。
    加藤財務官:
    対外債務の増大にもかかわらず、米国の当局は、ドルの基軸通貨としての役割に自信を持っている。その背景には、米国の輸出競争力の強さや、順調な国債の発行があるが、先行きには注意が必要である。

    経団連側:
    日本が世界経済の機関車役を務めるべきとの議論がサミットであったか。
    加藤財務官:
    日本も他のG7諸国同様に財政赤字の削減が必要であるということについては、意見が一致している。各国は日本の景気回復の動向に関心を持っていたが、日本側としてはもう少し国内の経済指標を見ていく必要があると説明した。

    経団連側:
    サミットの場で、米国は国別のマクロ経済目標を明記すべきと主張したのか。
    加藤財務官:
    各国で景気循環局面の位相が異なり、政府のとるべき対応も違うため、国別にマクロ目標を書き分けた方がよいとの議論があった。しかし、サミットでは各国共通の課題を議論する方が建設的だということで、最終的に現在のコミュニケになった。

    経団連側:
    EU通貨統合に向けたEU各国の歳出削減の動きが、マクロ経済政策協調と矛盾を生じさせる惧れはないのか。
    加藤財務官:
    EU側に対し、単一通貨導入に至るプロセスで金融政策面などで域外諸国との間に問題が生じないよう配慮してほしいとの意見が非公式に出された。

    経団連側:
    通貨統合の基準が達成できない場合には、EUは基準を修正してでも通貨統合しようとしているのか。
    加藤財務官:
    EU以外の国は、98年以降、各国の実績をEUがどのように判断するかが問題になるとみている。他方、当事国は妥協は許されないとのスタンスであり、特に独仏はかなり無理をしてでも財政赤字を削減する考えである。

    経団連側:
    電子マネーの将来性はどうか。また、マネーロンダリング防止など、電子マネーにもある程度の規制が必要なのではないか。
    加藤財務官:
    インターネットの急速な普及をみても、電子マネーはかなり将来性があると思われる。電子マネーについては、中央銀行で勉強が進んでいるが、政府としても国内法との整合性などを検討していく必要がある。
    電子マネーの議論に一番熱心なのは米国である。日本も、G7やG10ベースで検討することに賛成である。他方、欧州勢は、何も慌てて当局が乗り出すこともなかろうとのスタンスである。

    経団連側:
    中国のWTO加盟問題に対する各国の反応はどうか。
    加藤財務官:
    (中国を特別扱いするのではなく)他のWTO加盟国と同様の資格を満たすかどうかで判断するというのがG7各国のスタンスである。


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