経団連くりっぷ No.37 (1996年 7月25日)

アメリカン・アセンブリーとの懇談会(座長 春名和雄氏)/6月18日

米中首脳の相互訪問を経て、来年にも中国、WTO加盟へ


「アメリカン・アセンブリー」は米国の政官財学のメンバーから構成される政策集団(事務局はコロンビア大学)で、本年6月、米国の対中政策のあり方を次期政権に提言するため中国を訪問し、江沢民国家主席をはじめ中国側関係者との意見交換を行なった。中国訪問の帰途、一行は日本に立ち寄り、今後の対中関係について有識者の意見を聴取するため経団連を訪問した。米国側からはトーマス・バートレット米日財団会長(元ニューヨーク大学総長)、ジュリア・チャン・ブロック同理事長(元ネパール大使)、ハーバード大学のドワイト・パーキンス教授、アジア太平洋政策センターのダグラス・パール理事長が出席し、経団連からは春名評議員会副議長、安田日中経済協会理事長、藤野伊藤忠商事常務、藤原常務、島本国際本部長ほかが出席した。

  1. 米国側発言要旨
    1. 中国政府関係者は、国内政策、台湾問題への対応には自信を深める一方、米国の包囲政策には猜疑心を抱いている。
      中国は長期的にはアジア太平洋地域での指導的立場をとりたいという野心を持ちつつも、短期的には協調姿勢をとらざるをえないという現実を、江沢民主席や朱鎔基副総理はよく認識している。朝鮮半島については、南北の統一を見たくない、分断状態を維持したいという考えだ。

    2. 今回訪中したのは、米国の対中政策が中国経済におよぼす影響、中国経済が国際経済に与える影響を検討するためであった。
      中国のWTO加盟問題では、指導部内に2通りの考えがある。第1は、途上国のステータスで加盟し、現在の国内制度を変えずに済ますという考え方である。第2の考えは、完全な資格でWTOに加盟し、これをテコに国内の制度改革を促進したいというものだ。ただし、2つの意見は非公式な会合でのみ出てくるもので、中国の公式の立場は「加盟してほしいというなら、入ってもよい」というものである。

    3. 米中関係では、利害の対立より一致のほうが大きく、対立点をどう解決するかが課題である。米国企業は米中間の政治的対立で、大きな影響を受けている。政治とビジネスを結びつけるのは非生産的であると、米国企業は双方の政府に指摘している。

    4. 経済外交は米国でも重視されており、政府や経済界、学界が協力して政策を形成している。WTOへの入会料が十分支払われたかどうかは疑問だが、来年には米中首脳の相互訪問が行なわれ、中国のWTO加盟も実現するだろうと見ている。

  2. 経団連側発言要旨
    1. 対立をいかに解決するかでは、米国のほうが日本よりも有利である。歴史的な経緯もあり、中国人は米国を尊敬し、親しみやすい国と考えている。日本に対する感情はそうではなく、われわれの対中要望も制限的なものとならざるを得ない。

    2. 西側諸国と中国とでは、考え方の次元が異なる。西欧は自由と民主を機軸とするが、中国は国土の保全と生活の向上を中心に据えている。中国人は常に自分が正しいと信じており、両者の考えを近づける努力が必要だ。

    3. ビジネス面では、中国には国際的商慣習に馴染んでほしい。中国のWTO加盟は、改革・開放の方向とも一致し、できるだけ早く加入させたほうが世界全体のメリットとなる。その際、あまり高い入会料を要求しないほうがよい。数次にわたる関税引き下げの実績からいうと、中国はすでに入会料の前払いをしているといえるのではないか。

    4. 4半世紀前の中国は、政経不可分を原則としていたが、最近は政経分離の方向にある。中国には西欧型の選挙がないとはいえ、党内の理論づけや面子を重んずる伝統があり、政治と経済とは無関係にはなりえない。

    5. トウ小平の改革・開放路線は後戻りしない。中国脅威論は、感情的なもので正しくない。過去の歴史を見ても、中国が近隣諸国に脅威を与えたことはほとんどない。台湾問題は、中国が近代化の過程でやり残した課題である。

    6. 中国の発展はアジアに市場を提供することになり、アジア太平洋地域の発展に大きく貢献する。人口の80%が集中する内陸部が発展すれば、アジア域内の市場と連動し、アジアの経済発展の自己循環が起こってくる。

    7. トウ小平の改革・開放路線は大きな成果をあげてきたが、いま踊り場にきている。第9次5カ年計画も、市場経済化に向けての環境整備に力点を置いている。中国が必要としているのは、日米など外国との協調である。中国が抱える最大の課題は、12億人の民をいかに養うかという食糧問題と国有企業改革問題で、政治体制の改革は当分進まないと認識すべきである。

    8. 国有企業との合弁は、相手を慎重に選び、きちんと契約することが重要である。国有企業改革には時間がかかるが、全て解決してから出て行くのでは間に合わない。国有企業改革では、日米が一緒になって中国に協力できるのではないか。


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