経団連くりっぷ No.37 (1996年 7月25日)

日本NIS経済委員会ウクライナ研究会/5月25日〜6月2日

日本重視のウクライナに経済使節団を派遣
経済交流促進への道筋を拓く


日本NIS経済委員会ウクライナ研究会は、わが国経済界として初めてウクライナに使節団を派遣した。団は河毛二郎委員長を団長とする30名余で、キエフほか2都市を訪問し、クチマ大統領を表敬、政府や経済界の代表と懇談したほか、企業を訪問した。
同国の高度な知的水準と技術力に団員全員が強い印象を覚え、今後の経済交流に新たな道筋を拓くとともに、ウクライナの重要性を改めて認識した有益な訪問であった。

  1. ウクライナとわが国との交流の現状
  2. ソ連崩壊とともに1991年に同国は独立、日本政府は直ちに外交関係を樹立した。1995年にはクチマ大統領がわが国を来訪、両国関係の将来に重要な一歩を築き、その後、工業大臣や大統領補佐官を団長とする官民代表団が相次いで来日し、政府や経済界との交流を広げつつあった。
    当委員会では、同国の地政学的な重要性などを考慮し、1994年10月にウクライナ研究会を発足させ、経済情勢など広く情報を収集してきた。本年1月には、ウクライナ側に官民一体のウクライナ日本経済委員会が大統領令によって設立され、キナフ副首相が委員長に就任したので、それを契機に、両国間経済交流の可能性を探り、新たな道筋を見い出すための使節団派遣に到ったものである。
    両国の経済関係は、1億6,600万ドルの貿易高(1995年)に見る如く大きいとはいえない。また、わが国の輸出は機械設備が、また輸入は鉄鋼・非鉄金属が中心で現状ではモノカルチャー的要素が強い。しかしながら、わが国政府は昨年末に輸銀融資2億ドルを決めたほか、現在は貿易保険適用に向けた調査を始めており、同国の重要性は政府レベルにおいても認識され始めている。

  3. 長期的な視野で協力を推進
  4. クチマ大統領は、使節団来訪の成果が将来の協力を約束するものであることを確信すると述べ、歓迎の意を表すと同時に、使節団滞在中に首相が更迭されたことに触れ、この変化は改革の方向を変えるものではなく、テンポを早めるものであり、憲法が近々採択される(帰国直後に採択が報じられた)ことと相俟って、両国の協力に良い影響を及ぼすことを強調した。
    キナフ委員長は、当方のウクライナ研究会の機能やそれが果たす役割を高く評価するとともに、双方協力して経済交流の基礎を築く必要性を力説した。この訪問で、同国の経済、歴史、文化などに広く親しんでいただくことが、それに貢献すると述べた。
    これに応えて、河毛団長は、昨年の大統領の来日を協力の第一歩とするなら、今回の訪問は将来の道筋を探る第二歩に位置付けられること、ウクライナは転換期にあり困難な問題を多く抱えているが、必ず克服されると信じていること、大統領来日の折り、「性急に成果を求めるのは単純に過ぎ、着実に協力を積み上げていく姿勢が、長期的に見て、大きな成果につながる」と述べたことに触れ、情報や人的な交流を進め、交流促進に向けた努力が必要であることなどを強調した。

  5. ウクライナの経済・産業政策の重点
  6. キエフでの政府・経済界代表との懇談に、ウクライナ側から財務省、経済省、工業省、通信省など多くの省から次官が多数出席したほか、企業の代表も多く参加し、この使節団に掛ける期待の一端が窺えた。
    同国経済改革の課題は、
    1. 競争条件の創出、
    2. マクロ安定、
    3. インフレ低下、
    4. 財政赤字削減、
    5. 自由市場の創設と世界市場への参入を通して、経済構造を変革することにある。
    成果は現われつつあり、インフレは1994年の年間 401%から本年3〜4月には月間3%以下に落ち着き、民営化も1996年には終了するペースで進んでいる。法整備や税制改革も進展しており、社会保障面の充実も図りつつある。
    その一方で、鉱工業生産の低下が続いており、政府が採択した産業政策基本方針に沿って、リストラを進めるとともに、技術集約型産業を育成し、輸出振興を図ることが急務とされている。
    経済復興の上で外資導入は不可欠であり、関連法規の整備を急いでいる。外国政府から17億ドル余の融資枠を受け、実行中である。日本輸銀の2億ドル融資は、政府保証の下に、議会で近々対象案件が採択されるが、民間経済交流活性化の足掛かりとして大きな期待が寄せられている。

  7. 日本への期待と今後の取り組み
  8. 今回訪問では具体的なプロジェクトの議論は主旨としていなかったが、省や企業から日本の協力に期待する具体的な分野や案件が披露された。優先分野としてウクライナ側が希望したのは、ハイテク、素材、溶接、航空機、宇宙、造船、自動車生産、電気通信、エレクトロニクスなど、同国が得意としてきた分野やリストラ最優先の産業であった。また、省エネルギーや環境問題などでの協力にも関心が表明された。
    当委員会が、外務省プログラムの一環として、日本鉄鋼連盟の協力を受けて本年3月に派遣した鉄鋼技術支援ミッションが高く評価されたことも特筆される。鉄鋼が同国の最重要産業の1つであることを考えると、具体的な部門について技術支援を続ける必要性が感じられた。
    今次訪問の結果を総括すると、ウクライナには協力の実現性が高い分野が多くあることから、鉄鋼、化学、電力、軍民転換、石油精製など基幹産業を中心とした生産回復、輸出振興およびリストラへの協力が考えられるように思わる。
    当面は、貿易保険や輸銀融資など政府間の動きに合わせるのであろうが、訪問中、到る所で日本重視の姿勢を感じたことや、頭脳や技術を背景とする同国の秘めた魅力を考えると、民間としても、投資を含む協力の条件や方向を研究し、わが国としてのビジョンを明確にする時期にあるように思われる。
    人口5,200万、肥沃な土地に恵まれた農業国でもある。日本からは地理的に遠いものの、ヨーロッパや旧ソ連圏への進出の基地にもなり得ることも着目すべき要素かも知れない。


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