経団連くりっぷ No.38 (1996年 8月 8日)

創造的人材育成協議会(会長 末松謙一氏)/7月23日

「5つの提言、7つのアクション」の実行に向け、協議会を始動


経団連では、去る3月に提言「創造的な人材の育成に向けて〜求められる教育改革と企業の行動」を公表したが、同提言を実効あるものとし、創造的な人材育成の環境整備に努めるために、本年5月28日の第58回経団連総会において、従来の「創造的な人材の育成に関する懇談会」を発展的に改組し、「創造的人材育成協議会」の設置を決定した。
同協議会の第1回会合を7月23日に開催し、文部省大臣官房政策課の鴫野課長より、7月19日に出された第15期中央教育審議会の第1次答申について説明を伺った後、教育に係わる規制緩和の検討、採用・処遇・評価など人事システムの検討など、今後の協議会の活動方針について意見交換を行なった。以下はその概要である。

  1. 鴫野政策課長説明概要
    1. 答申の概要
      1. 「生きる力」とは
        これからの社会は、国際化、情報化、科学技術の発展などが一層進展し、変化が激しく、先行きが不透明な時代となる。しかし、コミュニケーション能力が欠如した子供や、いじめによる自殺者の増加など、逞しさに欠ける子供が多くなっている。答申では、変化の激しい社会において、子供たちに求められる力は、自分で問題を見つけ、解決する能力であり、それを「生きる力」と位置づけ、答申のキーワードとした。

      2. 「ゆとり」ある教育の実現
        「生きる力」を育むには、家庭・地域の役割を見直すとともに、生活体験、自然体験を増加させていく必要がある。何より大切なことは、「ゆとり」であり、子供だけでなく、社会全体に必要である。

      3. いじめ・登校拒否問題への対応
        いじめ・登校拒否の大きな背景には、日本の同質社会がある。個を尊重する環境を作りだすため、学校・地域社会が一致して取り組むとともに、(1)子供の転学の一層の弾力化、(2)中学卒業程度認定試験の有効活用などを提言している。

      4. 教育課程の改訂に向けて
        まず、教育内容は、基礎基本を厳選して、授業時間を減らすことを提起した。また、教育課程の弾力化や指導方法の改善を図るため、中学校には、選択幅の拡大などを、高校においては必修科目の削減や総合学科の設置の推進を盛り込んでいる。
        環境や情報教育など横断的学習を必要とする科目が増えているので、教科を越えたテーマの学習のために「総合学習の時間」を設けることを提案している。

      5. 教科の再編
        カリキュラムの編成は、教育課程審議会において検討するが、この審議会は一度答申を出すと、次の改訂までの10年間は休眠状態となる。全体の変化に対応するため、常設の委員会を設置することとした。
        教育課程審議会の各教科の代表者は「自分の教科が一番大切」と考えているので、時間数を減らしにくい。同審議会には、各教科の代表者だけではなく、公平な立場の人にも多数参加願い、カリキュラム全体を見直すこととしたい。

      6. 企業の役割
        教育の最終責任は、家庭にある。企業にも、父親が家庭教育に従事できるように、勤務時間の縮減など、条件整備に努めて欲しいと要望している。

      7. 地域社会の役割
        体験学習する場として、地域は最適である。また、地縁中心の教育だけではなく、同じ目的や興味に応じて大人たちを結びつける、目的指向的な活動、「第4の領域」とも言うべき活動の中で、子供を育成していくべきである。
        他に、教育委員会の活性化や、「地域教育活性化センター」などの設置により、地域の教育力の充実を図るべきとしている。

      8. 学校・家庭・地域社会の連携
        父母や地域の人を非常勤講師として招くなど、開かれた学校作りとともに、しつけなどは家庭・地域に返すことで、学校のスリム化を提案している。
        学校週5日制は、21世紀の初頭に完全実施すべきと明記したが、同時に、実施にあたり、家庭や地域社会の教育力の充実、過度の受験競争の緩和と「ゆとり」の確保などの、留意事項についても触れている。

      9. 社会の変化に対応する教育の推進
        国際化、情報化、科学技術の発展、あるいは環境問題に対応した教育が必要である。そのためには、外国語の小学校段階からの導入や、科学的素養や自由な発想を育成する教育が必要である。また、科学技術に関しては、実験・観察施設や科学学習センターの整備を提言している。

    2. 今後の検討課題
    3. 文部省としては、答申を受け、7月22日に、教育改革推進本部を設置し、答申事項の実施に取り組む。まず、答申の趣旨を国民一人ひとりに理解してもらうために、9月14日、16日には、仙台と岐阜で「一日文部省」を開き、意見交換会を実施する。また、マンガやカラーパンフを用いた広報などを考えている。教育課程審議会および教育職員養成審議会を早期に設置し、授業時間、教員の養成についても検討してもらうこととしている。

  2. 質疑応答
  3. 経団連側:
    教育委員会や教育課程審議会の機能強化は、各学校の自主的判断を少なくするおそれがある。学校毎に、カリキュラムや入学資格を決めて行けば、学校毎のコンセプトが出るはずである。
    鴫野課長:
    昔と比べると、子供の個性・適正に応じた学習や、学科やコースの多様化など、かなり学校の裁量に任されている。全くの自由で良いかどうかは疑問である。文部省は教育を日本国民の育成と捉えており、そのためには基準が必要と考えている。

    経団連側:
    「総合学習の時間」は、どの程度、学校に任されているのか。また、開かれた学校というが、大人にとっての開かれた学校になる可能性がある。
    鴫野課長:
    「総合学習の時間」は、教育課程審議会で審議することとしている。方法や内容は、大幅に学校に任せることとしている。学校は、社会に対して開かれていないと認識している。学校の開放とは、地域の人にも運営に参加してもらうという意味である。


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