経団連くりっぷ No.38 (1996年 8月 8日)

中南米委員会・日本ベネズエラ経済委員会・日本コロンビア経済委員会/7月25日

中南米情勢と今後の見通しについて佐藤外務省中南米局長と懇談


7月25日、中南米委員会(共同委員長 宮岡公夫氏)の解散の総会ならびに日本ベネズエラ経済委員会(委員長 亀高素吉氏)・日本コロンビア経済委員会(委員長 槇原 稔氏)の設立総会を開催した。中南米委員会定時総会では、1995年度事業報告・収支決算を審議承認した。日本ベズエラ経済委員会および日本コロンビア経済委員会の定時総会では、それぞれ規約、役員の選任および1996年度事業計画・収支予算を審議、承認した。
当日は審議に先立ち、外務省中南米局の佐藤局長より「最近の中南米地域の政治・経済情勢と今後の展望」について説明を受けた。以下は佐藤局長の説明の概要である。

  1. 中南米の最近の政治情勢について
  2. キューバを除く32カ国では、軍事政権が姿を消し、民主的選挙による政治制度が運用されている。米国を中心とした国際世論の圧力が強まったことなどがその要因として挙げられるが、基本的には各国の社会、経済のいきづまりが体制そのものを突き崩す大きな要因であった。94年のカルドーゾ、セディージョ両大統領の選出、95年のフジモリ大統領、メネム大統領の選出によって、長期的な安定化の傾向が強まったと言える。過渡期の問題として、社会、経済における生産性の低さが指摘される。すなわち貯蓄率・投資率の低さ、人的投資の不足、禁欲・節制努力の欠如、麻薬問題の深刻化等のため改善はゆるやかにしか進展せず、貧富の格差も依然大きい。

  3. 最近の経済情勢の特徴
  4. 中南米諸国では市場経済化、経済の開放化が積極的に行なわれており、経済成長率を高めることが経済政策の重要なポイントとなっている。中南米全体の輸出は、91年と95年を比較すると、輸出が63%、輸入が78%増加している。国際社会からの支援も積極的であり、ブレディープランに加え、各国が自国通貨を米ドルにリンクさせた結果、欧米諸国に信頼を得た経済運営が行なわれるようになった。一昨年末にメキシコの金融危機が生じたが、国際金融面の脆弱性もマクロ調整を通じて徐々にその要因が削除されつつある。

    1. 地域経済統合について
    2. メルコスールでは95年1月に例外はあるものの域内関税がゼロになった。EU、アンデス共同市場、チリとの関係をめぐる動きがさらに活発化していくであろう。メルコスール諸国、チリをはじめ中南米諸国はAPECに対して強い関心を示しており、今後、APECの中心国であるわが国の役割が中南米諸国の趨勢に大きな影響をおよぼすと思われる。

    3. わが国と中南米
    4. わが国の対中南米向け政府借款、無償協力、技術協力はそれぞれ約10%を占める程度である。日本の貿易総額に占める中南米シェアは4%であり、中南米の経済的なポテンシャルから言えば不釣合な実績と言える。中南米への輸出は次第に増えているが、輸入はわが国経済の長期低迷を反映し停滞が続いている。わが国からの投資もまた95年度の中南米向けが約40億ドルと、対東アジアに比べ積極的とは言いがたい状況にある。過去、ブラジルにおいてウジミナス等の成功例はあるものの、本格的に投資を増やすにはインフラの整備、経済政策の安定化等、中南米諸国の対応が求められる。

  5. 橋本首相の中南米訪問
  6. 中南米は東アジアに次ぐ、世界の成長センターである。また、国際協力の対象分野である人口、食糧、資源、環境、エネルギー、麻薬問題など世界規模の課題があるが、中南米は課題克服の鍵を握る重要な地域である。このような状況の中で今回、メキシコ、チリ、ブラジル、ペルーの4カ国を訪問し、中南米との新たなパートナーシップの構築を模索していきたいと考える。

    1. メキシコ
    2. 89年の海部元首相の訪問以来7年振りである。日本とメキシコの経済交流、とくにマキラドーラを中心とした日本の企業活動について今後の展開を図る上で手掛かりとなるような話し合いができるものと期待している。

    3. チリ
    4. 岸首相以来、実に37年ぶりの訪問である。チリは中南米の優等生であり、またいち早くアジア・太平洋を重視し、すでにAPECにも加入している。チリの経済規模は数字だけ見ると小さいものの、他の中南米諸国に与える心理的、政治的影響は大きく、わが国にとって今後ますます重要なパートナーとなるであろう。

    5. ブラジル
    6. 82年の鈴木首相以来、14年ぶりの訪問である。WTOをめぐる自動車問題は橋本首相の訪問までには、何らかの決着を見るであろう。

    7. ペルー
    8. 負の遺産であるテロ、インフレはようやく解消しつつある。今回の訪問によって、ペルーに対する日本の支援姿勢を明確にし、ペルーの国づくりを支持する機会となることを期待する。

  7. コロンビア、ベネズエラの情勢
    1. コロンビア
    2. 民主主義の歴史は比較的古く、経済運営も堅実であり、経済的ポテンシャルは高い。サンペール大統領に関連する麻薬疑惑は気がかりな点ではある。米国とコロンビアの関係は1903年にパナマがコロンビアから分離、独立した当時の状況にまで悪化していると言われるほど緊迫している。米国が制裁に踏み切るかどうかが今後の焦点である。
      81年〜94年のコロンビアの経済成長率は4.3%であった。石油の推定埋蔵量は200億バレル、石炭の埋蔵量は南米最大である。産業構造は過去10年間大きな変化はなく、コーヒー、石油、石炭、フェロニッケル、金が輸出の50%を占める。このようなモノカルチャー経済からどう脱却していくかが今後の課題である。また債務残高の内、81.5%が長期債務であり財政は安定している。

    3. ベネズエラ
    4. ペレス大統領をめぐって政治的緊迫が生じた。その後、現カルデラ政権下ではIMFとの調整政策が合意に達し、厳しい構造調整を行なう決意が内外に示された。鉱物資源中心の経済から多角化が進めば、大変有望な国である。今後、構造調整が定着すれば、経済の安定化が期待できる。


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