経団連くりっぷ No.38 (1996年 8月 8日)

日本・インドネシア経済委員会(委員長 中村裕一氏)/7月29日

インドネシア情勢についてウィスバー・ルイス駐日インドネシア大使と懇談


日本・インドネシア経済委員会では1996年度定時総会を開催し、1995年度事業報告・収支決算ならびに1996年度事業計画・収支予算を原案通り承認するとともに、中村裕一三菱自動車会長を新委員長に選出した。熊谷直彦前委員長は、同委員会の顧問に就任した。また、監事に池浦喜三郎日本興業銀行相談役と橋本徹富士銀行会長を再選した。
当日は審議に先立ち、ウィスバー・ルイス駐日インドネシア大使より、最近のインドネシアの政治・経済情勢に関する説明を聞くとともに懇談した。

  1. ウィスバー・ルイス駐日大使説明要旨
    1. インドネシアは、今年第2次25カ年開発計画の2年目を迎える。この計画では、「開発・成長・公正」の達成を目標に、とくに貧困層の生活水準の向上、人的資源開発、持続的な成長に高い優先順位を置いている。

    2. インドネシアの高い経済成長(過去25年間平均6〜8%)は、政治的安定と慎重なマクロ経済運営によるところが大きい。来年総選挙を予定しているが、政治的な安定度は一層強まるだろう。

    3. こうした良好な経済を一層強化するために、一連の規制緩和措置を実施してきている。とくに関税引き下げ、非関税障壁の撤廃を積極的に推進してきた結果、インドネシアの平均関税率は3%となり、ASEANの中ではシンガポールに次ぐ低水準となっている。また、国営企業の民営化も積極的に進めている。
      本年6月4日に発表した規制緩和は輸出の拡大を目的としており、輸入関税の引き下げや諸規制の緩和を図ったものである。輸出品に関する検査の廃止や、中小企業者に求められる書類作成の軽減、海外メーカーの輸出入・流通活動に関する規制緩和を行なった。

    4. インドネシアが現在抱えている経済的問題は、投資の急増や消費の拡大など経済の過熱化による輸入増加と、それに伴う経常収支の悪化である( 94−95年の35億米ドルから 95−96年は69億米ドルに増大)。これに対して、インドネシア政府は通貨・財政政策に力を入れている。

    5. インドネシアの規制緩和、自由化政策は、WTO、APEC等多国間枠組みにおける貿易・投資の自由化への取り組みに対するわが国のコミットメントを示すものである。とくにAPECはインドネシアにとって重要なフォーラムであり、今年のフィリピン会議で、日本を含む各国・地域が意欲的な「行動計画」を提示し、APECの自由化を推進することが求められている。現在、関係国・地域間で計画が見直されているが、インドネシアは「ボゴール宣言」を取りまとめた責任から、この過程に積極的に参画していきたい(すでに改訂した計画案を今月初め提示した)。

    6. さる7月23日、安全保障対話の場であるASEAN地域フォーラム(ARF)がジャカルタで開催されたが、この会議にインドとミャンマーが新たに参加したことは大いに歓迎される。アジア太平洋地域の発展のカギは、この地域の平和と安定の維持であり、今後ともARFの役割は重要である。

    7. 日本とインドネシアの関係は長年にわたって良好であり、現在も両国間に大きな問題はない。日本はインドネシアにとって第1位の貿易パートナーであるとともに、主要な投資国、重要な援助国、そして技術移転の提供国である。一方、インドネシアはこれまで日本に安定的に石油・ガスを提供してきている。

    8. インドネシアは中小企業を含む日本からの投資を誘致するために、投資環境の整備を進めている。外国人居住者の土地取得や外資家へのタックス・ホリデー等を認めるなど、外資規制のほとんどを緩和・撤廃している。こうした努力が実り、日本からインドネシアへの投資は堅調に伸びている(96年第1期の日本の投資は49億米ドルで、外資中第1位、前年の総額38億米ドルをすでに上回っている)。

    9. 両国間の貿易も順調であり、インドネシアの出超が続いている(96年第1四半期の貿易総額は8億米ドル。前年同期比7.07%増)。しかし、日本向け輸出産品は石油・ガスが中心であるため、年々インドネシアの対日貿易黒字額は減少している。このままでは長期的に収支が逆転することは避けられず、わが国は高付加価値製品の対日輸出拡大に努力している。

    10. また、日本はインドネシアに対し、長年多額の経済援助を行なっている。先般のCGI(インドネシア援助国会議)では、96年度分として、 2,065億円相当の経済援助をプレッジした(前年比10%増)。

  2. 懇 談
  3. 経団連側:
    インドネシアでビジネスをする日本企業は、政治的安定に非常に関心がある。最近のジャカルタでの騒動についてどう考えるか。
    ウィスバー・ルイス大使:
    現在の騒乱状態はジャカルタの一地域に限定されているので、通常のビジネスには影響はないと考える。早急に治安が回復することを希望している。
    PDI(インドネシア民主党)の新総裁は正当な手続きで選出されており、前総裁支持派もこの選挙には反対できない。国全体に与える政治的な影響は少ないだろう。

    経団連側:
    経済発展に伴い、港湾、道路をはじめインフラ整備がますます重要になるが、政府としての取り組みはどうか。
    ウイスバー・ルイス大使:
    バランスのとれた経済開発を進めており、インフラ整備も重視しているが、輸出入の伸びが著しいので、追いつくのは容易ではない。
    CGIでもインフラ開発と貧困の撲滅が優先事項となっている。また、APECの場においても、インドネシアはインフラに関する協力に積極的に参画している。


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