経団連くりっぷ No.38 (1996年 8月 8日)

中国対外貿易経済合作部の呉儀部長との懇談会(座長 豊田会長)/7月23日

貿易不均衡は、話し合いと貿易の拡大を通じて是正を


中国の呉儀対外貿易経済合作部部長は、日中投資促進機構の中国側カウンターパートである中日投資促進委員会の会長を務めている。7月下旬、両機構の定期会議のために呉部長が来日した。この機会に、昼食懇談会を開催し、日中経済関係につき意見交換を行なった。

  1. 呉儀部長発言要旨
    1. 日中両国の貿易は順調に拡大しており、日本はこの3年間、中国にとって最大の貿易パートナーである。昨年の貿易総額は中国側の統計では 575億ドルで、中国の入超であった。
      他方、日本側の統計では、日本の入超となっているが、これは両国の計算方法の違いによるものである。中国では、日本と大陸との取引のみを計上しているが、日本では、大陸のみならず、香港など他の地域を経由した製品まで中国産に含めている。統計の方法について検討すべきである。いずれにしても中国としては、貿易インバランスは、貿易規模全体の拡大を通じた解決を目指すべきであると考えている。

    2. 日中貿易を品目別にみると、中国は、日本から家電、電子、機械等を輸入している。中国からは主として繊維製品を輸出しているが、日本の繊維生産団体は、綿糸、綿布等の対日輸出を自主規制してもらいたい旨の要望を出している。しかし、日本の繊維業界の不振は、企業の販売努力の問題である。日本の国産品のコストは、輸入品のコストを上回っている。
      日本にはハイテク技術を駆使して付加価値の高い製品を生産してほしい。中国は、初歩的な製品しか作れない段階にあることも認識してほしい。

    3. 94年に行なわれた繊維問題に関する両国間の局長級交渉に基づいて、中国政府は輸出管理に努めてきた。それにもかかわらず、日本の繊維業界の調査では、対前年比220%の増加という結果が出た。中国税関の調査では大幅に低下しており、日本の調査結果には納得できない。これは先ほど指摘したように、第3国経由の製品まで算入されているためである。

    4. 日本の繊維業界からは日本政府に対してセーフガードの発動を求める声が出ており、政府も事前調査に乗り出す可能性がある。橋本総理は、中国のWTO加盟を積極的に支持してくれており、先のリヨン・サミットでも問題提起した。今年10月には、日本政府の支援も得て、中国のWTO加盟を推進するための会議を東京で開催する。また、来年は、日中国交樹立25周年にあたる。こうした環境の下、日本政府がセーフガードを発動すると、両国関係に暗い影を投げかける惧れがある。
      中国政府としては自主管理の度合いを強化するつもりである。日本には、貿易交渉において米国がとるような態度ではなく、協議を通じて解決するようにしてもらいたい。この点については経団連にも、政府に対して働きかけてもらいたい。

    5. 日本の対中技術移転は欧米諸国に比べてやや遅れている。技術貿易を通じて、日本も設備の輸出を進めることができる。改革・開放路線が始まってすでに17年あまり経過しており、中国では市場原理が働いている。中国に投資するならば、先手必勝であることを忘れないでほしい。

  2. 日本側発言要旨
    1. 繊維問題については、日本の経済界も経緯を知っている。統計の問題については、中国のみならず、他の国々との間でも同様の問題を抱えている。日本としても、この問題をよく調査し、解決策を見い出すよう努めるべきだと思う。

    2. 繊維製品に関しては、呉儀部長のご指摘のように、日本はハイテクを生かして付加価値の高い製品を生産することで、中国製品との競合問題を解決すべきだと考える。

    3. 中国のWTOへの加盟については、経団連としても積極的に応援していきたい。

    4. 前回の訪中では、上海で浦東地区の開発の現状を視察したほか、江蘇省でシンガポールと中国が国際協力プロジェクトとして推進中の蘇州工業都市、蘇州市が進めている蘇州工業新区を視察した。中国経済の目ざましい発展ぶりを実感した。
      また、昨年、日中経済協会の訪中代表団に参加した際には、三峡ダムの建設現場を視察した。

    5. 日中経済関係については、もはや単に製品や設備の輸出入を拡大する段階ではなくなった。今後は中国への直接投資を促進していくことが重要である。

    6. 経団連では、韓国の全国経済人聨合会とも緊密な連絡をとっているが、この秋には、共同調査団を中国に派遣する予定である。呉儀部長にも、ご支援いただきたい。

    7. 愛知に万博を誘致したい。江沢民主席にも先般の訪中時にお願いしたが、呉儀部長にも是非ご支援をお願いしたい。

  3. 呉儀部長回答要旨
    1. 中国は、新しい工業地区を発展させることでその他の地域の発展も促進している。
      三峡ダムの建設では、日本企業にもお手伝いいただきたいと考えている。

    2. 韓国との経済関係は、92年の国交正常化以来、順調に拡大しており、現在では中国にとって5番目のパートナーとなっている。中国、日本、韓国は地理的、人的な関係が深く、3カ国間の産業協力は検討に値するテーマである。

    3. 今年10月には、対外貿易経済合作部の主催で投資セミナーと商談会を経団連会館で開催する予定である。中国からは26の省と直轄市の270名が参加する予定である。経団連のご支援をお願いしたい。

    4. 万博誘致については、中国は日本を応援する。日本はEUを通じて、欧州各国にに働きかけることが重要である。また、アジア諸国に対しても、APECの場を通じて働きかける必要がある。あらゆるチャネルを活用していくべきである。


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