経団連くりっぷ No.38 (1996年 8月 8日)

経済法規委員会(共同委員長 安西邦夫氏)/7月15日

民訴法改正−残された課題は公務員が保有する文書の提出義務


経済法規委員会では、法務省より柳田幸三参事官を招き、先の国会で成立した新民事訴訟法について説明を聞いた。当日は、柳田参事官より、公務員の保有する文書の取扱いに関する国会審議の概要、今後の取扱いを中心に説明を聞き、種々懇談した。

  1. 柳田参事官説明概要
    1. 現行民事訴訟法は、(1)大正15年以来大改正がなく現代社会に合わない点が出てきている、(2)民事訴訟に時間と費用がかかり国民の司法離れを招来している等の弊害が現れ、(3)実務界からも改正を望む声が高まっていた。
      そこで、利用しやすく、分かりやすくすることを目的に、出来るだけ迅速に改正することを目標として、平成2年(1990年)より、法制審議会民事訴訟法部会において民事訴訟法の改正作業に入った。

    2. 平成3年(1991年)に「民事訴訟手続に関する検討事項」を公表、平成5年(1993年)に「民事訴訟手続に関する改正要綱試案」を公表し、それぞれ各界から意見を募った。こうした意見を踏まえ、平成8年2月(1996年)には改正要綱を取りまとめ、先の国会に改正案を提出した。

    3. 国会で議論が集中した部分は、証拠収集における文書提出義務である。現行法上は、312条に基づき、提出義務の対象となる文書は限定的なものとなっている。改正法の政府原案は、すべての文書を提出義務の対象となるものとし、その上で同義務の例外を限定列挙するという形とした(文書提出の一般義務化)。しかし、例外として限定列挙された文書の中に「公務員の職務上の秘密に関する文書でその提出について当該監督官庁が承認しないもの」が挙げられていたため、折からの行政情報公開の流れの中で、監督官庁の承認拒絶により行政情報が公開されないのではないかと懸念する意見が多く出され、国会審議のほとんどがこの点に集中した。最終的には、民間の文書については文書提出義務を一般義務化し、行政文書については情報公開法の議論の決着を待って、民事訴訟法を再度改正することとなった。

    4. 今回の民事訴訟法の具体的改正点としては以下が挙げられる。

      1. 争点整理手続の整備:
        民事訴訟に時間と費用がかかるとの批判に対応するため、なるべく早く訴訟の争点を明確化し、証拠調べに入れるようにした。具体的には、(イ)準備的口頭弁論の明記・改善、(ロ)準備手続の改善(弁論準備手続の新設)、(ハ)書面による準備手続の新設を行なった。

      2. 証拠収集手続の拡充:
        民事訴訟を迅速化するためには当事者が十分な事前準備をする必要があるが、そのためには証拠収集手続を拡充する必要がある。特に、証拠が一方の当事者に偏在しているような訴訟においては、現行の証拠収集手続では不十分であるとの指摘がなされていた。そこで、(イ)文書提出義務を一般義務化するとともに、(ロ)現行法上、裁判長を通じて行なうこととされている相手方への情報提供の要請について、直接当事者間で行なうことができるとする当事者照会制度を新設した。

      3. 少額事件訴訟の創設:
        現行法においても簡易裁判所において訴額が比較的少額の民事事件については簡易な手続で迅速な審理が受けられることとされているが、それでは十分でない。そこで、少額事件を訴額にみあった経済的負担で迅速に解決するための手続として少額事件訴訟を創設し、原則として一日で審理を遂げるようにした。

      4. 最高裁判所に対する上訴制度の整備:
        最高裁判所の基本的な機能は、(イ)憲法判断、(ロ)法令解釈の統一性の確保である。判事15人の陣容で民事刑事合わせて年間4,000件の事件を処理する中で、この機能を果たしていくことは現実的でない。また、特別抗告しか最高裁に対して抗告を提起できないので、重要な法律問題につき、法解釈の統一性を保つことが不可能である。
        そこで、まず、原判決に影響を及ぼすことが明らかな法令違反を理由とする上告について裁量的に受理する上告受理制度を設けることとした。また、抗告についても、高裁が許可した場合は、最高裁に対する抗告を認める許可抗告制度を設けた。

      5. OA機器の活用:
        最近におけるOA機器の目覚ましい発達を民事訴訟にも取り入れようという観点から、準備手続において、ファックス、電話会議システムを利用して、実際に出頭したものと見做すこととした。

      6. その他:
        宣誓した上での供述書を外国司法から請求される場合があり、それに対応するために、公証人法を改正し宣誓供述制度を新設した。

  2. 質疑応答
  3. 問:
    公務員の保有する文書提出義務について、議論の動向次第で民間に影響がある可能性はあるか。
    答:
    職務上の秘密が記載された文書は、提出義務を拒絶できるとされる見込みであるが、その「職務上の秘密」の中身について、実質秘(単に秘密の取扱いを指定された事項〔形式秘〕のみならず、その性質上非公知性と要保護性を有する事項)さえ満たせば提出を拒絶できるとするのか、それ以上の秘密性を要求するのかで民間に影響が出てくる可能性がある。

    問:
    施行の目処はいつか。
    答:
    公布から2年以内に施行することになっており、1998年1月1日施行が有力である。

    問:
    例えば訴外の第3者との契約文書について、文書提出を拒絶できるのか。
    答:
    文書提出義務の規定(改正法220 条4項) は現行法の証人尋問に関わる規定(281 条3項) を準用しているので、同項にいう「職業の秘密」にあたるかどうかが問題となる。281条3項の解釈として、
    1. 雇傭、請負などの契約については「職業の秘密」にあたるとする説、
    2. 第3者との明示・黙示の契約がある場合は「職業の秘密」にあたるとする説、
    3. 社会的に守秘義務が認められる場合には「職業の秘密」にあたるとする説
    が対立している。


くりっぷ No.38 目次日本語のホームページ