経団連くりっぷ No.38 (1996年 8月 8日)

WTOスタディ・グループ(座長 櫻井 威氏)/7月23日

WTOの最重要課題はUR合意実施の確認
―EU・米国の通商政策


本年12月の国際貿易機関(WTO)閣僚会議(於:シンガポール)に向けて、各国政府ならびにWTO当局が議題の調整を行なっている。議題となる (1)ウルグアイ・ラウンド(UR)合意の実施状況の点検、(2)すでに作業スケジュールが合意されている「ビルトイン・アジェンダ」、(3)関税分野の「さらなる自由化」、(4)貿易と環境等「新たな課題」についての見解を中心に、駐日欧州委員会代表部ヘスケ公使、在日米国大使館モーラー参事官より聞いた。

  1. 在日米国大使館モーラー参事官説明
    1. シンガポール閣僚会議は、WTOの役割を世界に対して示す機会となる。主要議題はUR合意の実施状況の確認である。また、サービス交渉、農業交渉再開に向けた準備作業の方向性など、ビルトイン・アジェンダも取り上げることが必要である。

    2. WTOの活力を維持するために、シンガポールで新たな課題を打ち出そうとの議論がある。米国は貿易と労働基準、政府調達についてWTOで作業を始めたいと考えている。参加国が少ない既存の政府調達協定に加え、透明性と正当な手続を基本とする「中間協定」の策定を提案している。政府調達に関連し、腐敗についてもOECDでの議論(贈賄の課税控除対象からの除外)をWTOでも取り上げるべきである。

    3. 貿易と労働基準については、WTOに作業部会を設立し、ILO等と協力してOECDでの議論をフォローアップすべきである。投資についてはOECDのMAI交渉の終結(97年5月)を待つべきで、WTOではまだ扱うべきではない。競争政策についてもWTOで取り組むには時期尚早である。WTOが、米国の通商法を攻撃する場になる恐れがある。

  2. 駐日欧州委員会代表部ヘスケ公使説明
    1. EUは、ダンピング、輸出補助金などの不当貿易行為に対応すべく、1994年12月から「貿易障壁規則(TBR)」を施行している。これはWTO整合的であり、紛争解決にはWTO機能を用いている。通商問題の解決には、バイのアプローチより、主要国の協調行動を基本としたマルチのアプローチが有効である。

    2. EUは、日本の酒税についてWTO紛争解決に付託した。WTOパネル報告は日本の税率の是正を求めるものであった。日本は、WTO決定を重視してほしい。

    3. シンガポール閣僚会議では、既存の合意の実施について確認することが最重要である。また、WTOのような設立間もない機関にとって、合意されたタイムテーブルの遵守が必要であり、ビルトイン・アジェンダの基本電気通信、海運などの合意に向けた決意を示し、政治的に後押しすべきである。

    4. EUは、貿易と競争政策を重視しており、早期にWTOで取り上げるべきだと考えている。


くりっぷ No.38 目次日本語のホームページ