経団連くりっぷ No.38 (1996年 8月 8日)

ディッチリー日本委員会/7月15日

ディッチリー国際会議報告会を開催


ディッチリー日本委員会では、英国ディッチリー・パークで開催された国際会議「国家と軍隊との関係(5月31日〜6月2日開催)」および「ボランタリーセクターの役割と機能(2月9日〜11日開催)」に派遣した防衛庁の伊藤長官官房企画官およびIYFジャパン(国際青少年育成財団日本事務局)の渡辺事務局長代理を招き、7月15日に報告会を開催した。以下はその概要である。

  1. 伊藤企画官報告要旨
    −国家と軍隊との関係
    1. 会議では民主主義体制下における軍隊と国家との関係をコントラクト(契約)といった側面から議論を展開していった。従来のコントラクトとは、国は軍人に対して宿泊、給与、その他の物的供与から社会的尊厳等を約束し、そのリターンとして軍人は日々の訓練、基本的人権の制約を受け、有事には出兵することを率先して行なうことになっていた。ところが、冷戦の終結に伴い、これまでの関係を再考するような環境に変わってきた。敵が明確になっているオペレーションが失われ、国連平和維持活動、麻薬取締り等の警察的な広い意味でのオペレーションが要求されてきている。しかし、ボスニアにおける平和維持活動で正規軍が平和執行部隊として派遣されているが、犠牲者に対するメディアの反応は過剰に否定的なものが多く、国民の理解を得るのがかなり難しくなってきている。そのために政府が派兵するための決断を下しにくくなっている。したがって、重要なことは、まず、マスコミの理解を得ることである。

    2. 会議ではこれらの新しい状況を反映して、
      1. 先進民主国家の軍事作戦に関して文化的相違があるだろうか、
      2. 文化的差異が指導者に軍事力の使用を躊躇させるだろうか、
      3. 徴兵制度と志願制度について、
      4. 軍隊の現実に対して軍および大衆の理解を得ることについて、
      等が議論された。しかし、これらはいずれも難問で結論が出るに至らなかった。重要なことはこれらの問題が現在欧米諸国で表面化していることにある。

    3. NATOのオペレーションも効率的に動けるよう機構、活動改善策が進んでいる。NATO軍内にも相違がある。仏軍はNATOの軍事機構に参加しておらず、これからどうコミットしていくかを模索中で、シラク大統領が徴兵制から志願制に移行する方針を打ち出す等、新たな施策を講じつつある。これについては、会議の席上、独の出席者が懸念を表明していた。

    4. 今後、科学技術が進み、精密誘導兵器が発達すればPKO活動がやりやすくなり、歩兵が不要になるとの考えがあるが、これについては、市街戦、対ゲリラ戦がある限り、歩兵の役割はなくならないであろうとの意見が出された。

    5. 今後の軍隊のあり方として、「武力行使」を伴う場合、国連官僚機構と米国を中心とする効率的な多国籍軍の関係がオペレーション上、最も重要な鍵を握ることになるが、会議では、国連の軍事関係者に対する不信の声が多く出され、現状に不満が強い。

  2. 渡辺事務局長代理報告要旨
    −ボランタリーセクターの役割と機能
    1. 私見を交えながら報告したい。
      英国ではボランタリーセクターのことを通常第3セクター、ノン・プロフィット・セクターと呼んでいる。第3セクターとはシンク・タンク、私立病院、美術館等まで幅広いものをカバーしており、NGO、NPOとして古くから社会に根づいてきている。
      米国では環境、人権、第3世界への援助問題を中心に新しいタイプのNGO、NPOが台頭してきており、その数が増える傾向にある。
      日本の場合、NGO、NPOは社団法人または財団法人として扱われており、取り巻く環境では欧米、第3世界よりも遅れている。

    2. NGOとは自由意志に基づき設立されたひとつの目的を持つ、非営利の団体を意味するものである。
      米国の場合は建国の精神に基づくもので、自由に人が集まってコミュニティーのために働くというもので、現在はアドヴォカシー(政策提言・協力)を主な任務とし、連邦政府の政策への協力・推進、利益を代表する活動を行なっている。
      英国の場合は19世紀半ばに制定されたチャリティー・ローに基づき、特権階級がお金を出し、社会活動をする組織になっており、サービス・ディリバリーを主な任務としている。例えば高齢者に対してお弁当の支給サービス等を政府機関に代わって行なっている。

    3. 現在、これらのNGO先進国においてその存在意義が問われ始めていることも確かであり、特に過渡期にある政府とボランタリーセクターとの関係が問題になっている。NGOは、概して人の善意と寄付で成り立っていると思われがちだが、実際は米国等の例をみてもわかるように半分以上が公的資金で成り立っている。ここで重要なことは、(1)金の流れ、(2)政府のコントロールと自主性の2つの問題がある、ということである。いくら制度上で独立していても金と政府のコントロールは表裏一体の関係にある。今後、政府との距離、バランスのある関係を構築し、緊張感のある契約関係を結ぶことが、NGOにとって最も望ましいことである。また、これからもボランティア・セクターの資金調達源、その使用目的が重要な課題となる。

    4. ボランタリーセクターの存在意義、価値観とは民主主義の具現化であり、そのプロセスにおいて各種の課題に取り組むことである。シビル・ソサエティー(市民の参加)ということを再認識することが重要である。また、政府が民意・社会価値を正確に反映した施策を講ずればボランタリーセクターは不要であり、政府のあり方をチェックするためにボランタリーセクターは存在すると考えても良かろう。


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