東部臨海開発の現状と今後の展望をチャワット駐日タイ大使に聞く

日タイ貿易経済委員会では７月５日、1996年度定時総会を開催し、1995年度事業報告・収支決算案と1996年度事業計画・収支予算案を原案通り承認した。役員改選では、瀬谷委員長と高垣、増澤の両監事を再選した。
また、当日は審議に先立ち、チャワット・アタユク駐日タイ王国大使から、東部臨海地区の総合開発の現状と今後の見通しについて説明を聞いた。

瀬谷委員長

チャワット駐日大使説明要旨

東部臨海地区の総合開発は、バンコクへの一極集中の是正とタイのさらなる工業化促進を主たる目的に、1981年にスタートした。その核となるのは、工業団地や深水港（外洋港）の建設と、地域開発の推進であり、マプタプット（バンコクの南東200㎞）とラムチャバン（バンコクの南東155㎞、パタヤの北15㎞）が開発の中心となる。
マプタプットにはすでに 300万坪の工業団地が建設され、シャム湾から天然ガスの供給を受ける石油分離プラントが稼働している（３億5,000万立法フィートの天然ガスをLPG等に分離）。また、年間 300万トンの荷扱い能力をもつターミナルを４つ備えており、資本・技術集約型産業や加工組立産業に適している。
ラムチャバンにも 170万坪の工業団地と、大型コンテナ船が接岸できる港が建設されている（年間積出し能力外は 700万トン）。この地区は輸出加工区となっており、軽工業や労働集約型産業、環境保護産業（電子部品等）に最適である。ウタパオ空港も近接しており、原材料、中間財の搬入と製品の搬出に適している。
東部臨海地区とバンコクとの間は、４車線の高速道路と高速鉄道で結ばれており、迅速な輸送能力が整備されている。パタヤやラヨーンといったリゾート地にも近く、外国人のニーズも満たせる。
東部臨海地区はゾーンIIIに属しており、外国人投資家には、
1. 機械類の輸入関税の免除、
2. 法人税の８年間免除、
3. 輸出品生産のための原材料輸入関税の５年間免税、
4. 免除期間終了後５年間の法人税率半減
などのインセティブが付与されている。
1995年のタイへの海外直接投資は、ゾーンIIIだけで 600件、80億ドルに達している。日本からの投資は 238件で30億ドルを超え、諸外国中第１位を占める。
東部臨海地区には、中小企業を含め多くの日本企業が進出している。その中には中小企業も含まれている。すでに進出した企業が移転してくるケースもある。
ラムチャバンには現在、家電、電子部品、機械、プラスチック製品の加工産業が進出しているが、今後、医薬品、化粧品、スポーツ器具等も加わってくるだろう。また、マプタプットの周辺では、石化プロジェクトが進められており、アルコール溶剤等の中間財を提供する予定となっている。
近い将来、東部臨海地区は東南アジアの成長センター、コマーシャル・ハブとなるものと期待される。インフラ計画では、タイ、インドシナ、中国雲南省を道路と鉄道で結ぶ計画が控えており、こうした計画が推進されれば、インドシナ地域の貿易や投資が拡大されるだろう。その意味で、東部臨海地区はインドシナ全体のゲートウエイとしても期待できる。
サムットプラカーン県のノングハオに、第２国際空港を建設する計画である。完成すれば世界の五指に入る輸送能力を誇る空港となろう。第１期工事で年4,000万人、第２期工事で5,000人、最終的には１億人の旅客受入れが可能となる。
東部臨海地区は東南アジアのサポーティング・インダストリーセンターとしても期待される。GMはアジアの生産拠点をタイに移転する。トヨタも同地区における事業の拡大を決定した。タイの自動車生産台数は、2000年までに 100万台に達することが見込まれる。現在、中小企業を含む 1,000社以上の日系企業がタイで活動しており、ビジネスチャンスは多い。
均衡のある国土開発を目指し、西部臨海地区の開発も進めている。この地域は資源、農作物、観光資源に恵まれている。また、シャム湾とアンダマン海へのアクセスが容易で戦略的要衝である。ミャンマー、タイ間の天然ガスパイプラインの可能性もある。
南部臨海地区の開発も検討している。シャム湾とアンダマン海を鉄道、道路、パイプラインで結ぶもので、日本向けの天然ガス輸出も可能である。
今後、中小企業、特にタイに技術移転できる中小企業を誘致し、人材育成に努めたい。BOI（投資委員会）でも、今月末から９月末にかけて日本の経済人をタイに案内することを考えている。12月中旬には、バンハーン首相が訪日する予定であり、経団連との懇談をぜひ実現させたい。

懇談要旨

経団連側：: 製鉄業の育成はタイの課題だが、保護政策をとれば、安い鋼材の購入が抑えられることになるが。
チャワット大使：: この問題は多くの進出日系企業の関心事項だと思う。製鉄業の育成については、APECやWTOの下での特別な措置を求めており、原材料への税率など懸念の必要はない。鋼材は安く調達できるので、タイ進出企業は国際競争力を維持できる。一方、日タイの鉄鋼合弁事業も、日本からの技術移転が進めば、世界市場で十分通用するということである。こうした点を含め、12月の訪日時に、バンハーン首相から直接回答してもらいたいと考えている。

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