経団連くりっぷ No.39 (1996年 9月12日)

農政問題委員会(委員長 宮内義彦氏)/8月2日

本間成蹊大学教授より、今後の農政の課題について聞く


政府の行政改革委員会では、本年度末に予定されている規制緩和推進計画の改定に向けて、農業分野を重点分野のひとつに掲げ検討を進めている。一方、農林水産省でも、農業基本法の改正に向けた検討に着手している。当委員会では、これら政府における検討に対して経済界の考え方を反映させるべく、すでに活動を開始している。この一環として、行政改革委員会規制緩和小委員会の参与を務めている成蹊大学経済学部の本間正義教授を招き、同小委員会における検討状況や今後の農政の課題等について説明を聞くとともに意見交換を行なった。
併せて、昨年12月から、当委員会・食品工業政策部会を中心に検討を進めてきた「第4回食品工業白書」(案)について審議を行なった。同白書は9月中旬に公表する予定である。


宮内委員長

  1. 本間成蹊大学教授説明要旨
    1. 規制緩和に関する論点公開
    2. 行政改革委員会では、去る7月25日、本年度末に予定されている規制緩和推進計画に向けて、規制緩和の論点公開を行なった。農業分野では、コメに次いで重要な農産物である生乳と、構造調整が必要とされている繭・生糸の2項目をとりあげた。

      1. 生乳の生産・加工・流通に係る規制緩和
        ガット・ウルグアイ・ラウンド合意により乳製品が関税化された。今後は関税率の引き下げに伴い、これまで加工原料乳の不足払制度を通じて高値が維持されてきた国内生乳価格も引き下げざるをえない。
        価格低下時における自由競争を確保するため、その阻害要因となる2つの規制を緩和する必要がある。第1は、指定生乳生産者団体制度の見直しである。現在、生乳は都道府県単位で一元的に酪農家から集荷され、飲用向けと加工原料向けに乳業メーカーに売り渡されており、酪農家の生産効率化や品質向上意欲を阻害している。したがって、本制度を見直し、優良酪農家は乳業メーカーと個別に価格交渉が行なえるようにする必要がある。
        第2は、いわゆる「9・9通達」による乳業施設の新増設規制の廃止である。「9・9通達」は、1983年9月9日付の農林水産省三局長通達で、乳業施設に関し、1983年当時の処理能力以上の増設を認めず、生産者の生乳処理・加工部門への新規参入を実質的に阻んでいる。

      2. 繭・生糸の生産・加工・流通に係る規制緩和
        繭・生糸の保護を図るため、蚕糸砂糖類価格安定事業団による売買操作を通じて生糸価格を一定範囲内に収めるという、安定帯価格制度が行なわれている。しかし絹需要の減退と絹製品輸入の増加に伴い、絹価格は構造的に低下傾向にあり、事業団の売買操作による価格の安定は困難となっている。また、繭検定と生糸検査が義務づけられているにもかかわらず、実際の受験率は6〜7割と形骸化しており、同制度は廃止すべきである。
        繭・生糸産業の衰退は著しく、現在養蚕農家は1万3,000戸弱(ほとんどが兼業農家)、製糸業者は28社である。一方、絹織物業者は生糸輸入の完全自由化を望んでいる。このような状況下で、衰退産業の構造調整をいかに進めるかが問題である。個人的には、米国が96年農業法で導入した直接所得補償制度による解決が望ましいと考える。

    3. 今後の論点公開に向けた課題
      1. 農産物価格支持制度の見直し
        生乳、繭・生糸に加えて、麦に係る価格支持制度の見直しについても提言したい。麦は関税化されたにもかかわらず、実質的に国家貿易による全量管理、国内麦の政府全量買い上げが行なわれており、コメ以上に国家管理の色彩が強い。また、価格は内外麦コストプール方式により決定され、国内産麦の保護コストは加工業者もしくは消費者に転嫁されており、食品工業の空洞化が懸念される。

      2. 農業生産資材に関する規制緩和
        農業生産資材に関する規制緩和をとりあげるべく、現在、農業生産資材の価格引き下げのために必要な具体的な規制緩和策について検討を進めている。

      3. 農業協同組合のあり方
        農協の抜本改革を行なうためには、農協事業からの信用事業の切り離しが必要であり、二段階制への移行を盛り込んだ農政審議会農協部会の改革案は不十分である。
        また、農民が農協を選択する自由を確保する観点から、総合農協の設立認可規制の緩和が課題となる。しかしながら、現行でも信用事業を行なわない農協の設立は自由であり、農協選択の自由の確保と信用事業の切り離し問題は表裏一体の関係にある。

      4. 新食糧法における競争原理の導入
        95年11月に施行された新食糧法により、卸売業者数は1.24倍、小売業者数は1.88倍に増えるなど、流通規制の緩和効果が顕れている。しかながら、同法では、減反制度が法律上位置づけられ、コメを作る自由が確保されていない。加えて、自主流通米価格形成センターの入札で値幅制限が行なわれ、需給を反映した価格形成が行なわれていないなどの問題もある。

      5. 農業経営形態
        昨年度の行政改革委員会の意見を受け、農林水産省では研究会を設け、農業生産法人の要件緩和について検討を行なっている。
        しかしながら、株式会社の農地保有を実現するためには、農業生産法人の要件緩和ではなく、耕作者主義を原則としている農地法の改正が必要である。

    4. その他
    5. 農業を活性化するためには、規制緩和だけでは限界があり、農家・農村社会の民主化が必要である。その観点から農協改革は重要な課題である。また規制緩和小委員会の検討対象外とされている、農業補助金や農地税制等のあり方についても検討を行なう必要がある。

  2. 経団連側意見
    1. 次回の論点公開では、値幅制限の緩和など、コメの価格形成の自由化問題をとりあげるべきである。
    2. 生乳指定団体制度の見直しだけでなく、事実上機能していない加工原料乳に係る不足払制度の廃止もとりあげるべきである。

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