経団連くりっぷ No.40 (1996年 9月26日)

経団連訪カナダミッション結団式(団長 江尻宏一郎氏)/9月10日

さらなる日加関係の構築にむけて


経団連では、政策対話ミッション(9月18日〜20日 モントリオール、オタワ、トロントを訪問)と情報通信および加工食品の分野別ミッション(9月20日〜27日 カナダ各地を訪問)からなる経団連訪カナダミッションを派遣する。ミッションに先立ち、9月10日結団式を開催し、小倉外務省外務審議官よりカナダの政治経済状況および日加次官級会議について、キャンベル駐日大使より本ミッションに対するカナダ側の期待について説明を聴くとともに懇談した。
以下は小倉外務審議官およびキャンベル大使の説明概要である。

  1. 小倉外務省審議官説明概要
    1. カナダの政治・経済状況
    2. 93年誕生のクレティエン政権は、一貫して高支持率を維持している。この高支持率の理由として、第1に財政赤字削減政策の成功があげられる。対GDP財政赤字比率は93年に7.3%だったが、95年は4.2%に改善、96年度は2.9%まで削減される見込みである。第2に、NAFTAやAPEC、WTOなどを通じてマルチ外交の積極的展開があげられる。昨年のハリファクス・サミット開催、来年11月のバンクーバーにおけるAPEC閣僚会議開催などを通じて国民にマルチの場で活躍するカナダをアピールしている。
      カナダが抱える国内問題には、まずケベック州の分離・独立問題があげられる。95年10月に行なわれた州の主権を問うレファレンダムでは、賛成49.4%、反対50.6%という僅差であった。その後も連邦政府とケベック州政府間の基本的な対立構造は変わらないが、最近ではケベック州が経済再建を最優先課題にしていることから、ケベック州独立の動きは沈静化している。
      また、ブリティッシュ・コロンビア州やアルバータ州など西側の州をどのように連邦政府の政策に取り込んでいくかということも課題である。
      さらに、依然として高い失業率も深刻な問題である。失業率はこの数年、10%近くを推移している。95年の失業率は9.5%である。
      国外市場に依存した経済構造も不安材料の一つである。95年の最終国内需要の実質伸び率は0.6%、輸出は12.0%である。特に、カナダ経済はアメリカ経済への依存度が高いため、アメリカ経済の先行きにより今後の経済パフォーマンスも変化してくるだろう。

    3. 日加次官級経済貿易協議
    4. 9月5、6日にオタワで開催された日加次官級経済貿易協議では、二国間の経済問題および日加双方が共通の関心を有するAPEC、WTOなどの国際経済貿易問題における政策協調について意見交換を行なった。
      二国間の経済問題については、カナダ側より対カナダ直接投資の促進が要望された。これに対し日本側政府からは、NAFTA締結によってカナダ一国を一つの市場として捉える時代は終わり、今や日本企業は北米市場の中で経営戦略に基づき自由に行動している。よって、二国間ベースの視点のみから対カナダ直接投資促進をとらえることは適当ではないと説明した。
      一方、日本側からは、第三国からの完成車輸入に関するビッグ3と他国の自動車会社間の関税差別問題や各州ごとに異なる法律等をカナダ市場の問題点として取り上げ、改善を要望した。また、NAFTAについては、原産地規則などの解決やNAFTA拡大への慎重な対応を求めた。
      APECについては、インフォメーション・テクノロジー・アレンジメント(コンピューター分野の関税撤廃)の実現に向けた日本の協力が不可欠であるとのカナダ側の発言があった。具体的には、日本政府だけでなく、アジアで事業を展開する日本企業にも同アレンジメント実現に向けてのアジアの政府当局に働きかけを行なってほしいとの要望を受けた。さらに、アジア諸国における環境問題などについても協力を推進していくことが確認された。

    5. アジア太平洋における日加協力
    6. クレティエン政権は、「アジア太平洋におけるカナダ」を外交の柱にしている。これは、日加両国にとってアジア太平洋における協力関係を見直す良い機会になるのではないか。
      日加間には大きな問題は存在しないが、大切にしていかなければならない二国間関係であることを強調したい。その意味で、11月末のクレティエン首相訪日やカナダ政府要人の来日、そして経団連訪カナダミッションは、両国がお互いを再認識する良い機会となるであろう。

  2. キャンベル大使説明概要
  3. 日加両国は、すでに長年にわたって相互信頼関係を構築してきたが、経済のグローバル化に伴い両国がそれぞれ急速に競争力を高めている今日、その変化を今一度度認識しあうことが必要である。
    日本にとってカナダは、資源供給国または豊かな自然に囲まれた観光地としてのイメージが強いが、それだけではない。今次ミッションを通じてカナダが高度な技術を持った産業国家であることを知っていただきたい。特に、情報通信と加工食品は、カナダで最も変貌を遂げつつある産業であり、日本市場との接点がまだ少ない点からも皆様に視察していただく意義は大きい。
    加工食品分野ミッションでは、北米および日本をターゲットとした近代化された食品産業を視察していただくが、プライベート・ブランドの提携やR&Dの可能性を探っていただきたい。情報通信ミッションでは、アニメーション・ソフトウェア、テレコミュニケーション・ネットワークやマルチメディアの応用で最先端を走るカナダを見ていただきたい。
    クレティエン首相の経団連訪カナダミッションに対する関心は大変高く、今秋の訪日の際、ミッションの報告を受けることを楽しみにしている。また、連邦政府、州政府および民間企業も経団連ミッションを弾みにして新たな二国間関係を構築していくことを願っている。
    このようにカナダは、経団連訪カナダミッションを新たな日加協力の出発点として位置づけている。


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