首都機能移転のこれまでの動きと今後の課題

「国会等の移転に関する法律」改正案の６月の成立・施行を受けて、首都機能の移転先候補地を検討する国会等移転審議会が設置されることとなり、首都機能移転はいよいよ新たな段階を迎えようとしている。こうした時期を捉え、首都機能移転推進委員会は、審議会の事務局次長を兼務することなった国土庁の五十嵐大都市圏整備局長から説明を聴くとともに懇談した。

五十嵐局長説明要旨 首都機能移転に関する経緯をたどると、国民の間で議論が盛り上がった「山」がこれまで３回あった。第１の山は、高度成長の始まる昭和30年代で、学者や研究機関等から首都機能移転に関して提言が出された。昭和50年前後の時期に議論が盛んとなったのが第２の山である。第３の山は、平成２年11月の衆参両院における「国会等の移転に関する決議」の採択から始まっている。この国会決議以来、国会や行政が議論の高まりに対応して主体的に動いている。 平成２年１月には、国土庁長官の主催する懇談会として「首都機能移転問題に関する懇談会」（座長　八十島義之助帝京平成大学学長）が発足し、首都機能移転に関する具体的内容に関して検討を開始した。また、同年12月には、内閣総理大臣主催の「首都機能移転問題を考える有識者会議」（座長　平岩外四経団連会長／役職名は当時）が設置され、首都機能移転の理念等を中心に検討が行なわれた。これらは、それぞれ平成４年６月と７月に検討結果がとりまとめられている。 平成４年12月には、議員立法により「国会等の移転に関する法律」が成立、施行され、「国会等移転調査会」（会長　宇野収関経連相談役）が設置された。調査会は２年９カ月の審議を経て、平成７年12月に報告をとりまとめた。 調査会報告では、首都機能移転の意義と効果について、規制緩和・地方分権等国政全般の改革の契機、東京一極集中の是正、災害に強い国土づくりの３つを掲げているが、いずれも平成２年の国会決議や国会等の移転に関する法律制定の際の考え方の基本は変えていない。移転の対象は、中枢の中枢的な機能である国会、内閣・中央省庁、最高裁判所であり、皇居は検討の対象とはなっていない。 移転先の選定基準については、 国内各地からのアクセスに著しい不均衡が生じない場所、 東京から鉄道で１～２時間の概ね60～ 300㎞、 国際空港から40分程度以内、 土地取得の容易性、 地震被害等に対する安全性、 その他の自然災害に対する安全性、 地形等の良好性、 水供給の安定性、 政令指定都市級の大都市から十分な距離 としている。ただし、東京からの距離については、第2項以外の選定基準に照らし、極めて優れた長所を有する地域については検討の対象に加えることとしている。 同調査会は、移転先地の選定基準をこのようにとりまとめたが、具体的な移転先地の選定については、権威ある専門的かつ中立的な機関を設置し、この機関が候補地を選定した上で、最終的には、国会が法律で移転先を決定することを提案している。そこで、移転先候補地を選定する「国会等移転審議会」の設置や移転に関する決定の手順の明確化を柱とする「国会等の移転に関する法律の一部を改正する法律」案が国会に提出され、本年６月に成立、施行された。 審議会の委員の任命については、衆参両院の同意を必要としているが、できるだけ早く国会の同意を得て審議会を発足させたいと考えている。 首都機能移転については、阪神・淡路大震災の教訓を活かさなければならない。東京自身が被災した場合は救援活動が麻痺してしまうので。災害対応の司令塔は東京の外に置く必要がある。 「首都機能移転問題に関する懇談会」で首都機能移転の総費用を14兆円と試算しているが、これは新都市の面積としては最大規模の 9,000haを開発することを想定したケースの総投資額である。14兆円のうちどれくらいを税金で賄うかについては、試算で仮定している移転人口には、国会、中央省庁の公務員やマスコミ関係者とその家族のほかに、サービス産業の従事者とその家族30万人が含まれており、民間の人々の働く場や住宅等は民間の投資により整備されるため、全体の投資額の半分以下となると思われる。 首都機能移転を実行すると言いながら首相官邸の建て替えを行なうのは無駄ではないか、あるいは東京圏の人口が社会減となっている中で首都機能移転を行なうのは東京圏の活力を奪いかねない、という議論がある。 首相官邸については、すでに築70年と老朽化し、危機管理や情報処理の機能の面で問題が生じている。首都機能移転後は、政治・行政は新都市、経済・文化は東京と分担することとなるが、東京で首相が外国の元首を迎えるなど活動を行なうこともあるので、より充実した活動拠点を整備しておくことはむしろ必要になってくる。 次に、東京圏については、人口、特に若年層が一極に集中し、集積の度合いが他の地域と大きな不均衡を生じていることに問題がある。今後も東京圏の人口は自然増が社会減を補って増加するであろう。また、あらゆる機能が東京に集中したため、それぞれの機能を十分に発揮させることができなくなってしまった。機能の一部を外に移転させることにより、東京を活性化させる必要がある。 首都機能移転は東京一極集中是正の効果がないのではないかという議論があるが、「集中が集中を呼ぶメカニズム」を打ち破ることが重要だと考えている。具体的な効果についても、一部に、交通量が３％しか減少しないとの批判があるが、ピーク時の混雑緩和の観点から言えば、３％という数字は決して過小評価されるべきではない。 経済界にお願いしたいのは、首都機能が移転した後の東京の経済活動について、当事者の立場から議論していただきたいということである。首都機能移転の問題については、移転すると東京が衰退してしまうとの議論や誘致する側からのみ問題が取り上げられることが多いが、重要なのは東京から首都機能を移転させることがどういうことなのかを議論することである。こうした点に関して国民の間で関心がさらに高まることを期待している。

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首都機能移転のこれまでの動きと今後の課題

五十嵐局長説明要旨