経団連くりっぷ No.41 (1996年10月 9日)

第544回常任理事会/9月10日

行政改革委員会の活動(規制緩和の推進、官民活動分担の見直し)について講演


第544回常任理事会では、政府の行政改革委員会の宮崎 勇委員長代理・規制緩和小委員会委員長(前経済企画庁長官、大和総研特別顧問)ならびに轉法輪 奏同委員会官民活動分担小委員会座長(大阪商船三井船舶会長)から行政改革委員会の活動についてそれぞれ講演があった。
また、豊田会長からアフリカ難民キャンプ視察の模様について報告があった。

  1. 来賓講演
  2. 行政改革委員会の活動と規制緩和の推進について:宮崎 勇氏

    1. 行政改革委員会は政府の行革推進を監視するとともに必要に応じ提言するべく、94年12月に発足、任期は3年である。現在の主要課題は、規制緩和、官民活動分担、行政情報公開の3点である。

    2. 規制緩和については、現在の規制緩和推進計画(96年3月)の改訂に向け7月に論点公開を行なった。市場経済による活き活きとした社会の実現、メガコンペティション時代に相応しい産業構造の構築、諸分野での国際標準の確立並びに国民の価値観の多様化に対応する上で、規制緩和は喫緊の課題である。

    3. 今回の論点公開では10分野(土地・住宅、農水産物、情報・通信、運輸、エネルギー、金融・証券・保険、競争政策、医療・福祉、雇用・労働、教育)38項目を具体的に取り上げた。さらに従来からの論点で進捗していない事項(NTT分割問題、持株会社解禁等)を含め年内に結論をまとめる。

    4. 長年の取り組みにより規制緩和は少しは進みつつあり、物価の安定や輸入増大等に寄与している。他方、依然として進捗していない分野もあるが、これはいずれも政治的、社会的に規制緩和が困難な分野ばかりである。

    5. 各地での1日行革委員会では、総論では賛成だが、徹底的に議論すると出席者の約半数は規制緩和は程々にという意見である。既得権益の維持が背景にあるが、改革を避ければ後のツケは大きい。分野によっては文化の護持や秩序の破壊が規制維持の理由とされるがこれにとらわれるべきでない。

    6. また、部分的に規制が緩和されても、別の規制が残るために実効がない分野(例えば運輸)もある。規制緩和は総合的に進めなければ効果がない。

    7. 規制緩和を推進する上で最大の課題は雇用問題であり、これを突き放す訳にはいかない。新産業の展開により中長期的には良いが、当面は厳しい面がある。さらに、企業や個人の責任のあり方も、規制緩和後の社会に相応しいものとする必要がある。

    8. 総選挙が近づき、各政党が規制緩和を主張している。行政機関も同様である。この様な重要課題を国民的問題として多くの人が議論することは歓迎すべきことである。要は実行である。

    官民活動分担のあり方について:轉法輪 奏氏

    1. 官民活動分担小委員会は行革を行なう上での物差し(判断基準)を作るべく、3月に発足した。7月に公表した論点整理に基づいて各省庁等との討論を進め、11月を目途に行革委員会に報告する予定である。

    2. 本年が財政再建元年と言われながら来年度の一般会計や財政投融資の概算要求が依然として減らない官庁の現状を見ると、小委員会も極めて困難な課題に取り組んでいると思う。

    3. 官民の役割分担を問う理由は、(1)高コスト体質の下では企業活動が成り立たないこと、(2)グローバル化が進む中で国際的なルール等に合致できないことである。だから、官主導から民自律の経済社会に転換しなければならない。

    4. 橋本総理が行革ビジョンにおいて、首都機能移転を契機に中央省庁を再編する案を示す等、政治サイドからの声も高まっている。しかし私見では、省庁再編のスケジュールをもっと早めなければ、日本は沈没すると思う。急進的行革に成功したニュージーランドの様に、一気呵成にやらなければ実現できない。

    5. 小委員会の論点整理でも「従来わが国のシステムはあまりに変化がなかったので、もはや激変は避けられない」、「システムの転換過程で生じる雇用問題等に対してはセイフティ・ネットが必要だが、システム設計自体に例外や妥協は許されない」という意見を紹介している。

    6. 行政と司法の関係については、従来の行政による事前予防的措置から司法による事後の透明性のある紛争処理に転換すべきである。また私見では、我々が民権を付託するのは行政府でなくあくまでも立法府と責任内閣である。わが国では法律の執行にあたり行政の裁量の余地が極めて大きいが、今後は米国の様な議員立法主体に変える等、立法府の機能を強化すべきである。

    7. 市場の監視も重要である。大蔵省内に設置されている証券取引等監視委員会と独立した行政機関である公正取引委員会は殆ど違いがないという意見があるが、前者には公取がもつ審決、課徴金納付命令、排除措置等の権限がないという点で後者とは異なる。一方、その公取にも米国と違い民間による告訴が認められていない等の問題がある。

    8. その他、各省庁の審議会が官庁の隠れ蓑となっているという指摘や、公益法人の設立を通じ行政代行的な行為をしているという指摘がある。これらの点も含め幅広く議論していきたいと考えている。

  3. 報告事項−アフリカ難民キャンプ視察の模様について(豊田会長)
  4. 経団連はじめ経済4団体が資金面等で支援してきた国連高等弁務官事務所の緒方弁務官の要請に基づき、8月6〜7日、ダダーブ(在ケニア)およびンガラ(在タンザニア)の両難民キャンプを視察した。

    キャンプ内は平穏で人々の表情も暗くないことには安堵したが、他方、物資の不足に加え、森林伐採による環境破壊が進み、難民の自主帰還も捗々しくない。難民を生み出さない根本的解決が求められており、それには紛争解決に向けた当事国の努力に加え、国際的協力が欠かせない。わが国も国際的な貢献を一層強めていく必要がある。


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