経団連くりっぷ No.41 (1996年10月 9日)

中東・アフリカ地域委員会(共同委員長 笠原幸雄氏)/9月19日

豊富な人材を活用した国造りを目指すエチオピア
−メレス首相一行を迎えて懇談会を開催


エチオピアは、長期に渡る帝政ののち、1972年から20年にわたり内戦を経験し、1992年から民主共和国として新たな国造りを目指している。このたびセラシエ皇帝(当時)訪日以来、エチオピア首脳として40年ぶりにわが国を公式訪問したメレス首相一行を招き、同国の政治・経済情勢につき説明を受けるとともに懇談した。
以下はメレス首相ほかの説明概要である。

笠原委員長(左)とメレス・エチオピア首相(右)

  1. メレス首相発言要旨
  2. 18世紀後半、明治維新後の日本をみた当時のエチオピアの指導者は、日本の歩んだ道こそが、自らも歩むべき道であると確信した。当時エチオピアは、アフリカ大陸にあって欧州列強の植民地支配を免れていた唯一の国であり、そのために、第2次大戦前という極めて早い時期から日本との国交を有していた。

    戦後をみても、セラシエ皇帝(当時)は、1956年と70年の2度訪日しており、また現在の天皇皇后両陛下も、皇太子時代にエチオピアを訪問されている。日本の企業も早くからエチオピアに注目し、投資してくれた。

    しかし70年代前半、わが国では内戦が始まり、日本との関係は急速に冷え込んだ。内戦および治安の悪化と、当時の政府の国営化政策は、日本企業の投資とエチオピア経済の発展を20年間阻んでしまった。

    民主共和国に生まれ変わったここ5年間に状況は大きく変わり、この不幸な時代は過去のものとなった。内戦は終結し、政治は安定しており、国民の多様性を許容する民主的な政治システムを構築した。異なる意見を持つ者が武力に訴える必要はなく、法的に平和裏に議論する土壌が醸成された。

    また混乱するアフリカにあって、エチオピアだけが平和を享受することはなく、隣国のソマリア、スーダン、ルワンダ、ブルンディ各国の内戦やエリトリアとイエメン間の紛争等の解決にも協力している。

    前政権が採用していた国営化政策も過去のものになった。現政権は、民間主導の経済開発こそが国に繁栄をもたらすものと確信している。ここ数年の間に、世銀・IMFの指導の下、多くの経済改革プログラムを導入しており、その結果、広範な経済の自由化が達成された。投資も為替管理も自由化され、利益送金も無制限に可能となった。国営企業の民営化も進めている。政府の役割は、インフラ整備および最低必要な法規制を行なうにとどめ、民間活力を最大限引き出したい。

    外資の保証を明確にするため、エチオピアはMIGA(多国間投資保証機関)に加盟した。二国間の投資保証協定を締結する用意もある。

    エチオピア経済は安定しており、ちなみに昨年のインフレ率は0.9%、経済成長率は7.7%である。

    現在、賦存する豊富な鉱物資源の開発に取り組んでいる。例えば、天然ガスの埋蔵量は600億立方メートルと確認されている。金鉱も豊富で、まだ一部に手がつけられたのみである。

    農牧業も高い成長の可能性を持っている。アフリカ諸国中最大で、世界においては第10位にランクしている。穀物や、野菜・果物、伝統的産物のコーヒーについても、生産拡大の可能性は高いと考えている。数年前まで飢餓の国と言われたエチオピアの農産物生産高は過去4年間で3倍増となった。かつて年間100万トンの食糧援助受領国が、今年は50万トンの食料を輸出するまでに変貌している。

    正しい政策、安定した政権、自ら勝ち取った平和と治安、5,500万人が貧困と戦う国、それが今日のエチオピアである。豊富な天然資源もあり、ようやく先進諸国の企業とビジネスを語れる段階に達したと思う。多くの人々が東アジアの奇跡を賞賛するが、アジアの発展には、日本を先頭とした雁行体形があった。エチオピアという雁も、今ようやく発展に向けて飛び立とうとしている。

  3. カサフン通産大臣発言要旨
  4. 経済の自由化に伴い、貿易障壁は、ほとんど撤廃した。輸出規制は、コーヒーを除き撤廃するとともに、輸入についても石油製品を除き自由化している。なおコーヒーに対する輸出関税は、コーヒーの品質改良と国内産業育成のためのインセンティブの資金として用いられている。

    エチオピア政府は、これからも障壁撤廃のために努力していく。問題があれば、政府の貿易諮問委員会が速やかに解決策を提示する等、苦情処理にも力を入れている。

  5. タデッセ投資庁長官発言要旨
  6. 投資庁は、首相直轄の政府部局として新たに設置され、投資環境の改善と投資家が直面する諸問題の解決にあたることが目的である。

    最近改訂された投資法は、投資のための設備輸入や部品供給に対する免税措置、法人税の引き下げ、各種インセンティブの提供などが主な柱となっている。

    当面、エチオピア経済の復興と一層の開発を進めるために、農業分野、インフラ整備、食品産業、繊維産業、医薬、建設および建設機械、鉱業、不動産業、観光業等に対する新規投資を歓迎しており、国営企業の民営化に対する日本企業の参加を期待している。


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