経団連くりっぷ No.41 (1996年10月 9日)

中東・アフリカ地域委員会(共同委員長 黒澤 洋氏)/9月17日

米国から見た中東情勢
−フェアバンクスCSIS常務理事との懇談会を開催


中東アフリカ地域委員会では、米国の国際問題に関するシンクタンクであるCSIS(国際戦略研究所)のフェアバンクス常務理事(レーガン政権時代の米国中東和平特派大使)一行を招き、米国から見た中東情勢を中心に説明を聴取し、懇談した。
以下はフェアバンクス常務理事およびコーデスマンCSISシニア・フェローの発言要旨である。


黒澤 共同委員長

  1. フェアバンクス常務理事発言要旨
  2. 中東問題において、地政学的特性は大きな意味をもっている。中東はヨーロッパとアジア・アフリカを結ぶ要衝にあり、また世界の石油消費の3分の2以上を供給している。一方、国境線は人為的に引かれたもので、各国内は民族的にも多様であり、各国間の利害関係は入り組んでいる。

    かつて米国は、サダト元エジプト大統領と、イランのパーレビ元国王を中東対話の2本柱に据えていた。残念ながら、現在、エジプトのムバラク大統領との間は「冷たい平和」ともいえる状況に陥り、またイランとは宗教革命ののち関係が悪化したままである。イランの隣国イラクとの関係は、もともと無きに等しいものであったが、ブッシュ元大統領時代の湾岸戦争を経て、現在ではお互いを悪魔と罵り合う関係になっている。

    この地域には、アジアにおいて日本が果たしたような「模範国」がない。したがって米国は個々の国との二国間交渉によって友好国を増やす努力を行なってきた。湾岸戦争の際にはその努力が実り、かろうじてイラクに対する共同戦線を張ることができた。しかし現政権下では状況が若干違っている。

    中東和平促進のために、イスラエルの労働党政権が推進してきたことは、高く評価して然るべきである。しかし、「平和と領土の交換」という政策が実現可能かどうか、大きな問題になってきている。イスラエルにおいてはラビン元首相が暗殺され、再びリクードが政権を奪取した。アラファトPLO議長は、自らの政治生命のためにも和平を後戻りできないだろうが、アラブ国家において親イスラエル的なスタンスをとることは、国民の信頼を失うことを意味する。

  3. コーデスマンCSISシニア・フェロー発言要旨
  4. 中東問題を分析する際に、4つのキーワードを指摘したい。

    まず「複雑性」。すなわち中東には23の国があり、世界の石油埋蔵量の60%、天然ガス埋蔵量の40%を占めている。大概アラブ国家ではあるが、宗教も民族も多様である。また石油を産出する国もあるが、必ずしも豊かな国ではない。これらの国々がどのような政治・経済情勢にあり、どのような問題を抱えているか、統計をみてもわからないことが多い。

    次に「変化」。1984年から1994年までの10年間に、アジアの経済は大きく成長したが、中東地域では、1人あたりGNPが40〜50%も低下した。その背景には、投資の減少、生産性の低下、貿易の減少などの経済政策の失敗がある。とくに域内貿易は大幅に減少した。それに追い討ちをかけたのが、石油価格の低迷、財政赤字の拡大、肥大化した行政機構と人口の爆発である。14歳未満人口が、総人口の40%〜50%を占めており、早急に手を打たない限り、現在でさえ20%〜40%の失業率が対応可能な範囲を超えてしまう。

    ところで、1990年〜2015年までの25年間で、アジア諸国の石油輸入は現在の3倍に増大すると見られているが、そのほとんどが中東からの輸入である。その結果原油価格は、現在の250%〜400%程度に上昇するものと予想される。中東の石油の60%はアジア向けとなるので、いわば中東の経済改善のためのコストをアジアが支払うことになる。その時点で湾岸危機が再来したらどうなるのか。

    第3のキーワードは「リスク」である。アルジェリア、バーレーン、エジプト、リビア、サウジやスーダン、そしてイランとイラクにおける国内問題は、すべて中東和平プロセスに影を落としている。すなわちこれらの国々は、イスラム過激派の浸透に苦慮しており、今後アジア諸国が石油輸入を3倍に増やすと見られる2015年までの間に大きな地域紛争が起きる可能性は小さくない。

    そして最後のキーワードは「機会」である。中東諸国は、ようやく海外との貿易や投資受け入れに理解を示しつつある。モロッコ、チュニジア、エジプト、ヨルダン、オマーン、UAE等は、すでに積極的な取り組みを始めており、イラン、イラク、クウェート、サウジ等も貿易・投資拡大の政策を採用しつつある。とくに日本に求められていることは投資と技術供与であり、貿易の拡大と国内企業家の発掘である。日本企業が東西を結ぶ重要なパートナーとなりうる大きな機会であり、メリットも多いと考える。

  5. 質疑応答
  6. 経団連側:
    今後、石油価格は、需給の観点から、どの程度の上昇を予測しているか。
    コーデスマンCSISシニア・フェロー:
    需要に供給が追いつかず、10〜20年の間に20〜25%上昇するものと予測している。サウジ、カタール、オマーン、UAEは増産を目指しているが、他の産油国、イラン、イラク、リビアは、制裁措置や国営石油公社が非効率なため、増産する体制になっていない。


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