経団連くりっぷ No.41 (1996年10月 9日)

中南米地域委員会(委員長 高垣 佑氏)/9月20日

中南米諸国との新たなパートナーシップの構築を目指して


中南米地域委員会では、橋本首相の中南米歴訪(8月20日から30日)に同行した佐藤俊一外務省中南米局長より、最近の中南米をとりまく情勢並びにわが国との関係等について説明を聞くとともに懇談した。
以下は佐藤局長の説明概要である。

佐藤局長

  1. 米国と中南米との関係
  2. 共和党政権当時、米国はブレディプラン、中南米支援基金など対中南米外交において積極的にイニシアチブをとっていた。しかし、クリントン政権になって、状況は大きく変わった。
    94年12月、マイアミでの米州サミットにおいて米州自由貿易地域(FTAA)構想が打ち出されたものの、総じて米国の中南米外交はスローダウンしている。それどころか、最近は対立するケースも多く見受けられ、ヘルムズ=バートン法に対する中南米諸国の反発はその一例である。また漁業問題(サーモン)におけるチリとの対立など経済摩擦も多く生じている。
    こういった状況を踏まえ、中南米諸国では今後、米国からの支援を期待できないのではないかといった懸念が高まりつつある。

  3. メルコスールの動向
    1. メルコスールについて
    2. NAFTAはメキシコが米国経済に組み込まれた形態であるが、これに対抗するような形でメルコスールが推進されている。ブラジルとアルゼンチンの二大国が歴史的なライバル関係に終止符を打ち、協調関係を保っている。これは米国経済中心の中南米再編に対する反作用の1つである。
      メルコスールは域内の自由化、域外共通関税を設置する完全な関税同盟を目指しており、現在、経済政策や法制度の調和を図るための作業が進められている。
      メルコスールのプラス面は、市場統合により生産の集約化が進み、効率が増大することによって経済全体のパイが拡大する点が指摘される。また、パラグアイでオビエド将軍のクーデター未遂事件が発生した際に、メルコスールの外交努力がパラグアイに好影響をおよぼし、かつメルコスールの政治的連帯を強めた、という政治的意味合いもある。
      一方、マイナス面は、構造調整過程における失業問題や統一した法の欠如といった問題、さらには域外からは域内に生産拠点がない限り、輸出相手として魅力がないといった点が挙げられる。

    3. 域外国との交渉状況
    4. 10月1日に、チリとの自由貿易協定が発効する。チリはNAFTAへの加盟を求めていたが米国の国内事情により進展していない。また、同月にはベネズエラ、ボリビアと自由貿易協定を署名する。メキシコとの交渉は、97年に開始される予定であるが、かなり複雑な交渉となるであろう。アンデス共同体のコロンビア、エクアドル、ペルーとも対話を続けている。EUとも話し合いを行なっており、諸外国のメルコスールへの関心は極めて高い。今後、メルコスールはNAFTAと拮抗するような形で進展していくであろう。
      わが国はメルコスールと10月1日に第1回高級事務レベル会合を、その後10月3日には官民合同会議をサンパウロで開催する。メルコスール諸国に対してWTO協定と整合性のとれた統合を期待する旨表明する。

  4. ブラジルの自動車問題
  5. メルコスール発足後、95年3月にブラジルが自動車の輸入関税を35%から70%へと引き上げた。これはWTO協定上の暫定措置で認められているものである。昨年、ブラジル国内で販売された自動車の台数は170万台、うち国産車は140万台であったが、日本からの輸入車はゼロであった。しかし、昨年末に出された国内自動車産業の国際競争力強化を目的とした暫定措置は、ローカルコンテントをみたす企業の関税を70%ではなく35%とするなど、WTO協定に違反する内容を含んでおり、この問題をめぐって日伯の厳しいやりとりが繰り広げられている。今般の訪伯直前にブラジルが改善を約束し、日本、韓国、EUからの自動車輸入関税を35%とする措置がとられた。

  6. 中南米との関係強化に向けて
  7. 現在、日本と中南米の貿易総額は、日本と東アジアあるいは米国と中南米の貿易総額の約10分の1である。中南米のポテンシャルにふさわしい数字には達していない。しかし将来的に、特にエネルギー、食糧の供給源として中南米は重要である。
    石油の例を挙げれば、現在、日本の中東への石油依存率は70%程度である。すでに中国は93年から石油輸入国となっており、また、インドネシアの供給も限界に達している。アジア諸国にこれ以上依存できない状況である。ちなみにコロンビア、ベネズエラには莫大な石油が埋蔵されており、すでに日本へも輸入されている。
    食糧の確保という点では、ブラジルでは来年から2001年にかけて本格的にセラード開発が始まる。セラードはブラジル中央部の2億haの耕作可能地帯であり、日本の国土の5倍である。2億5,000万人分の食糧の年産が見込まれる。主たる穀物は大豆、とうもろこしである。ブラジルが3億3,000万ドル、日本が4億ドルの投資を行なう予定である。
    さらに今回の訪問で合意した内容で興味深かったのは南々協力についてである。中南米諸国が行なう経済協力に日本が資金面で協力することによって、南から南への協力を共同で実施することである。例えばチリの年金の民営化は経済成長を支える大きな要因の一つと言われているが、このチリのノウハウを東欧、CISに伝えてもらう。その際、技術協力に必要な資金を日本が手当てするといったことを検討している。このような形で今後中南米諸国と新しいパートナーシップを構築していきたい。


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