経団連くりっぷ No.43 (1996年11月14日)

ジョージ・デビッドUTC社長兼CEO講演会(座長 槙原アメリカ委員長)/10月17日

プロセス・リエンジニアリングは、あらゆる部門に適用することができる


アメリカ委員会では、米国の製造業大手であるユナイテッド・テクノロジーズ社(UTC)のジョージ・デビッド社長兼CEOを招き、「米国の実例にみる経営改革と競争力強化」と題して講演会を開催した。デビッド氏は、今後の日本経済に外国直接投資がより大きな影響を与えると指摘するとともに、UTCの経験を踏まえてリストラクチャリングやプロセス・リエンジニアリングの必要性を強調した。

  1. デビッド氏講演要旨
  2. ジョージ・デビッド氏

    1. 対内直接投資の日本経済に与える影響
      1. 日本の対内直接投資の額は、その経済規模に比して伝統的に非常に少ない。米国では対内直接投資の累計額が平均してGNPの約10%、EU全体では20%を占めているのに対し、日本ではわずか1%を占めるに過ぎない。
      2. 日本経済は、対内直接投資の増大により今後もっと成長することができる。日本の経済や技術は十分に強力かつ高い水準に達しており、競争にさらされることでさらに利益を得ることができると考える。

    2. 規制緩和の必要性と対内直接投資
      1. 医薬品に対する規制が厳しいため、外国の医薬品はなかなか日本市場に入ってこれず、これが日本における医薬品の種類の少なさと価格の高さにつながっている。日米両国の企業がこの分野でもっとパートナーを組むことができれば、双方にとって利益であろう。
      2. 米国にも航空産業の分野で規制がある。外国人には米国のフラッグ・キャリア企業の議決権行使株の25%以下しか資本所有が認められておらず、業界にとって時に必要な企業合併や統合が制限されている。したがって、米国企業には外国企業と提携関係を結ぶしか選択の余地がない。
      3. 1980年代半ば以降、米国の銀行の数は合併等により20%以上減り、これが米国の銀行業界の体質強化につながった。これに比べると日本の銀行業界再編のスピードは遅い。また、日本の銀行の在米資産は米国の銀行の資産全体の10%を占めるが、その逆は1%である。外国銀行の在日資産所有や日本の銀行への資本参加の機会がもう少し増えてもよいのではないか。
      4. 外国人にとって不満なのは、規制の存在ではなくその運用の不透明性である。例えば、日本での社用機利用に際し、空港への発着枠が公表されていないだけでなく発着承認までのプロセスが不透明なのには、大いに困らされた。

    3. 今後の日本の対外直接投資のあり方
    4. 対内直接投資の少なさとは対照的に、日本の対外直接投資は最近の10年間でかなり増えている。これは円高の影響を回避して輸出を行なうための投資であった。欧米、特に米国の企業は、対外投資によって進出先市場への参入を果たし、日本の品質や生産性の高さに対抗するため必要な比較優位を得る。今後は日本企業も、現地市場へのアクセスを高めるための投資を増やすべきである。今はその好機である。

    5. UTCにおけるプロセス・リエンジニアリングの経験
      1. UTCでは、航空産業への民需・国防需要が減少したため、1990年から5年間にわたりリストラクチャリングを行なった。従業員の3人に1人が職を失い、1,200平方フィートの製造スペースを閉鎖した。
      2. しかし、そのプラスの効果は今日になって現れてきている。プロセス・リエンジニアリングにより生産能力が増大し、コスト削減も達成できたため、完全雇用状態でありながらインフレが起きていない。こうしたことから、私自身は米国経済の先行きについて楽観的に見ている。
      3. UTCでは、1989年にプロセス・リエンジニアリングを導入し、短期間でその手法を学んだ。プロセス・リエンジニアリングを達成するためには、大きな6つの原則がある。第1に無駄な在庫を抱えないこと、第2に工程数を最少化すること、第3に即実行すること、第4に品質イコールコストの考えを徹底すること、第5にQCPC(Quality Control, Process Control)、すなわち工程の各段階において品質のチェックを行なうこと、そして最後に、いわゆる5Sを守ることである。5Sとは、
        1. standardize(規格の統一)、
        2. sustain(継続)、
        3. sort(分類)、
        4. stream line(能率化)、
        5. shine(磨くこと)
        である。
      4. プロセス・リエンジニアリングは社会のあらゆる部門に適用すべきである。特に私は、教育部門に適用すべきと考える。UTCでは社員教育に力を注いでおり、例えば従業員が大学へ通って学位をとると自社株を50株与えるなどのインセンティブを与えている。社員の教育は、将来の新たな市場に従業員を適応させるためにも重要である。

  3. 質疑応答
  4. 経団連側:
    リストラクチャリングは、所得格差を増大させるなどマクロ的には米国社会の歪みを大きくしたのではないか。
    デビッド氏:
    ある調査では、リストラの対象となった労働者の半数が、失業後、それまでよりも良い雇用を確保したとの結果が出ている。リストラのマクロ的な効用は中長期的に現れるものと考える。

    経団連側:
    米国における教育改革は、どの部門で行なうべきと考えるか。
    デビッド氏:
    改革が必要なのは、米国の公立の初等中等教育である。ここでは、労働組合に所属する教師が変化に抵抗し、公的な当局が監督をしているため競争がない。まさにここで、リエンジニアリングが必要である。他方、米国の高等教育の水準の高さには私も満足している。

    経団連側:
    今後、対日直接投資を増やすためにとるべき方策とは。
    デビッド氏:
    日本は外国からの投資に対して神経質になりすぎているのではないか。まず、日本の経済界自身が外国からの投資にオープンになることが必要である。


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