経団連くりっぷ No.43 (1996年11月14日)

中南米地域委員会(委員長 高垣 佑氏)/10月16日

新時代の日本・中南米関係

−メルコスールとの協議を終えて


中南米地域委員会では、さる10月1日にブラジルで開催された第1回日本・メルコスール高級事務レベル会合にわが国政府代表として出席した小倉和夫外務省外務審議官を招き、メルコスールの現状および今後のわが国の対応のあり方等について説明を聞くとともに、懇談した。以下はその概要である。


高垣委員長

  1. メルコスールの現状認識
    1. メルコスールの経済効果
    2. ブラジルは93年から毎年4〜5%の経済成長を達成し、インフレ率も20%台へと低下している。アルゼンチンにおいても、経済成長率は95年に多少低下したものの90年代を通して見ると、80年代とは雲泥の差であり、年率6〜9%の経済成長を遂げている。域内貿易もまた年率20%から30%の伸びを示しており、メルコスールの経済的効果は無視できない。

    3. メルコスールの政治的、外交的効果
    4. 本年4月12日、パラグアイで軍事クーデターが発生しそうになった。その際、メルコスール各国の大臣、次官がパラグアイに集結し、彼らの説得工作によって事態が収拾されたように、メルコスールの団結力が民主化の定着を促進するという政治的機能を果たしつつある。また、巨大な市場を背景に欧米との交渉を有利に進めるといった外交的効果も見逃せない。

  2. メルコスールに対する要望
  3. 今回の事務レベル協議の場でメルコスール各国に対して以下の点を要望した。

    1. 域内における貿易・投資に関する各国の規則、規制、基準等が域内で一貫性を有し、継続的かつ安定的なものであることが重要である。さらに将来的にはサービス貿易、投資規則、知的所有権、基準・認証、労働等、モノの貿易以外の企業活動一般に関する域内共通の規則を整えることが必要である。

    2. 日本とメルコスールとの対話や交渉を拡大し深化させていくためには、メルコスールの常設的な「窓口」としての事務局の強化が必要である。

    3. メルコスール側から、日本企業に対し、ビジネスチャンスを積極的に提示するとともに、メルコスール全体の経済情勢、貿易に関する規則・基準、投資促進制度、税制等、メルコスール域内において経済活動を営むために必要な情報を整理し発信する努力を強化すべきである。

    4. メルコスールが単一の自由市場、あるいは一つの運命共同体として機能するためには、少なくとも国境を越えた物流を円滑に行なうための輸送インフラおよび通信インフラが整備される必要がある。また、インフラ事業の民営化、通関手続きの簡素化、内航海運の外国船への開放、労働力の円滑な移動を妨げている過度な労働者保護政策の見直し等、制度的な非効率性を除去していく努力が必要である。

    5. 以上のような問題点の解決を図るため、日本とメルコスールは継続的な対話の枠組みを維持していくことが大切である。今回のメルコスールとの事務レベル会合は有益な試みであったが、経済問題について真に有益な意見交換を行なうためには、日本の民間企業とメルコスール側の政策担当者との間の会合をあわせ開催することも検討に値しよう。

  4. わが国のあるべき対応
  5. メルコスールは経済統合である以上、それ自体ある程度内向的な契機を有している。このため、わが国はあらゆる機会を捉え、不断の対話を通じ、メルコスールがアジアも含めた域外に向かって、「開かれた経済統合」として世界貿易の自由化に貢献すべく働きかけを行なっていく必要がある。一方、失われた80年代の苦い経験から、わが国の中南米に対する姿勢は消極的にならざるを得なかったものの、最近の欧米諸国の中南米への積極的な進出を踏まえれば、わが国としても今後早急に、官民が一体となって中南米戦略を確立することが求められる。

    1. 官民双方の対話の強化
    2. 官民双方において、従来二国間のチャネルを基本としていた対話のあり方をメルコスール側の実態にあわせ、多数の国々を相手にした対話を効果的に行なえるよう見直す必要がある。さらに、現地大使からの要望にもあったように、わが国における官民の協調をさらに強化し、メルコスール側の要望に対して機動的に応じる体制を整える必要がある。外務省では来年度からメルコスール担当官あるいは担当室を設置する方向で現在検討している。

    3. 経済と経済協力関係の強化
    4. メルコスールはインフラ設備が不十分であること、人材育成が遅れていること、経済的・社会的な地域間格差が大きいこと等解決すべき課題は多く、こうした分野でのわが国の支援が求められている。特にインフラ整備に関しては、わが国企業のビジネスチャンスに資するものであり、わが国がメルコスールと協力を行なう意義は大きい。他方、かかる協力に要する資金規模は大きく、また、プロジェクトの性格上各国の国境にまたがる「多国間プロジェクト」となる可能性が大きいため、わが国のODAをメルコスールのような多国にまたがる「地域」に対して活用できるよう検討するなど、効果的に対応する仕組みを官民が協調して検討する必要があろう。


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