経団連くりっぷ No.43 (1996年11月14日)

日本ロシア経済委員会(委員長 河毛二郎氏)/10月15日

明るい方向に向かっているロシア


日本ロシア経済委員会では、渡邊前駐ロシア連邦大使を招き、懇談会を開催した。渡邊大使は2年8カ月のモスクワ駐在を終え、この程帰国した。
以下は大使の説明の要旨である。

  1. エリツィン大統領の健康問題
  2. 今年6、7月の大統領選挙はロシアの改革にとって非常に重要な意義があった。つまり、エリツィン大統領が勝利したこの選挙は、ロシアの社会主義体制への回帰がもはや有り得ないことを意味するからだ。しかし、ロシアの市場経済・民主主義国家への道はまだ険しいと言わざるを得ない。その最大の懸念は大統領の健康問題である。大統領の病気は虚血性心疾患と発表され、本年の11月にはバイパスの手術を行なう予定である。すでに後継者争いも始まっていると言われるが、主治医によれば、手術が成功し、エリツィン大統領が第2期政権を全うする可能性は50%以上あるだろう。

  3. 次期大統領の有力候補
  4. 次期大統領の最有力候補はチェルノムイルジン首相であろう。また、チェチェン問題を担当し、紛争に終止符を打ったレベジ将軍は国民の人気が高く、今後の行動が注目される。ジュガーノフ共産党書記長については、従来の年金生活者だけでなく、新たな支持層を取り込む必要があろう。さらにルシコフモスクワ市長や、チュバイス大統領府長官なども有力候補と目されている。

  5. ロシアが抱える課題
  6. ロシアが直面している課題は3つある。第1は経済の不調であり、本年の1〜8月は6%のマイナス成長であった。マクロ経済の安定政策が予想以上の成果を上げ、インフレはかなり抑えられたが、支払った代償も大きい。特に公務員への給料遅配が問題となっており、社会への影響が懸念される。第2はチェチェン問題である。流血が止まったのは確かにレベジ氏の功績だが、実質上の降伏だとして批判する声も強い。ロシアとチェチェンには歴史的な対立関係があり、問題はかなり複雑だ。3つ目は、地方とモスクワの関係であり、地方の経済的な分離傾向が一層と強まっている。

  7. ロシアの将来に向けて
  8. 短期的に見た場合、ロシア情勢は非常に不透明であるが、中長期的に見れば明るい。ロシアは極めて豊かな国である。モスクワに輸入品があふれているにも関わらず、豊富な天然資源の輸出によって毎年100〜200億ドルの貿易黒字を計上している。また、教育システムがしっかりしていることから、優秀な人的資源も多い。いずれロシアにも、民主主義が育つと考えている。


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